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【森島 賢・正義派の農政論】岐路に立つ東アジア2019年9月17日

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【森島 賢】

 東アジアが騒然としている。韓国と香港では、毎日のように国民が街頭に出て政府に激しく抗議している。これは日本にとっても他人事ではない。
 多くの論者は表面だけをみて、醜い権力争いのように言っているが、そうではない。これは、この地域の社会体制の変革に関わる重大な出来事である。
 いま、隣りの韓国と中国は、体制の変革という歴史的な岐路に立っているのである。

 韓国をみてみよう。文在寅政権は、農産物の輸入自由化に反対して行われた「ろーそくデモ」の系譜に連なる政権である。

 その文政権がいま、日本に対して、戦時中の徴用工問題について謝罪し補償せよ、と強硬に要求している。従軍慰安婦問題についての不満も強い。
 日本は、これらの要求について、すでに解決済みだといっていて、謝罪の言葉さえもない。
 以前、安倍晋三首相は、子や孫の世代まで韓国に謝り続けるのかと言って不快感を示し、今後の謝罪を拒否したことがある。
 また、中国に対しては、南京大虐殺の事実さえ認めようとしない。そうして、中国から歴史修正主義者との烙印を押されている。

 ところで、前の世界大戦のときの枢軸国だったドイツはどうか。
 先日、米国の通信社が伝えているが、ドイツの大統領は、今月1日、ポーランドの大統領の前で「私は頭を下げ、許しを乞う」と言って謝罪した。
 ドイツのシュタインマイヤー大統領は、安倍首相より若く、ポーランド侵攻のときは、まだ生まれていなかった。それなのに安倍首相と違って、先代が行ったことを、今でも真摯に謝罪している。
 韓国は、こうした真摯さを欠く傲慢な、そして挑発的で好戦的な首相が政権を握っている日本に対して、痛烈な非難を浴びせているのである。

 しかし、韓国の文大統領が目指している究極の目的は、日本を非難して謝罪を求めることではない。徴用工や従軍慰安婦に対する賠償を求めることでもない。日本を非難することで韓国民から喝采を浴び、熱烈な支持を得て政権を維持することが究極の目的でもない。文大統領は、それほどの権力亡者ではない。日本の論者の多くは、そのようにいうが、文大統領は、それほど志が低くない。
 文大統領が目指す究極の目的は、韓国社会の変革である。市場原理主義に基づく資本主義がもたらした格差社会からの脱出である。それは平等な社会主義への模索といっていい。
 こんどの曹国氏の法相任命に際して、保守派は文政権に対し、検察を使って激しく非難している。しかし、それでも文政権の支持率は45%程度を保っている。
 何故だろうか。いま、多くの韓国国民は、文政権の社会主義への志向を支持しているからである。
 だから文政権は、こうした多くの国民の底堅い支持に応えるためには、日本と不仲になってもいいし、米国から非難されてもいい、と考えている。

 ところで、米国では大統領選が始まり、民主党は、世論調査による支持率で、第2位のサンダース候補は社会主義者を名乗っているし、第3位のウォーレン候補も社会主義的な政策を主張している。ここでの中心問題は、格差問題である。
 また、英国はEU離脱問題で、大揺れに揺れている。ここでも、市場原理主義に基づく資本主義の政治による格差問題が中心問題である。
 このように、いま世界は格差問題を中心にして、政治が激動している。それは、市場原理主義に基づく資本主義のもとで、格差を拡大する政治を押し進めるか、それとも方向を転換して、格差を否定する社会主義的な政治へ向かうか、という争いである。
 この事態を、新冷戦という論者がいる。しかし、これは以前の冷戦と違って、資本主義国と社会主義国との間の、つまり、一枚岩になっている国家どうしの間の抗争ではない。国内の資本主義派と社会主義派との間の争いを、忠実に、そして鋭く反映した抗争である。

 香港でも、こうした争いが続いている。
 日本の論者の多くは表層だけをみて、非暴力の民主派と、急進的な独立派と、親中的な共産派との、3つ巴になった醜い権力争いだ、などという。しかし、深層はそうではない。資本主義の一地域である香港の社会主義へ向けた、それぞれが真摯な模索である。
 これは、社会主義中国が格差を否定し、平等を重んじる民主主義に進化させるための、そして、そのために言論の自由を拡大する過程での、大きな試練である。
 それは、米国の中国に対する露骨な内政干渉の中で行われている。
 先日は、香港の一部の人たちが、米国の国旗を掲げながら在香港の米国総領事館へ押しかけて、米国議会で審議中の中国内政干渉法案の早期成立を嘆願した。
 この人たちは、格差の拡大が、アメリカ的自由の生み出した、そして、市場原理主義に基づくアメリカ的資本主義の生み出した必然であることについて無知か、それとも、格差の拡大が生み出した大勢の弱者に対して冷酷なのだろう。いずれにしても、尊敬すべき人たちではない。
 ひるがえって、日本の状況をみよう。
 残念なことに、こうした深層に焦点を当てる論者や、骨太の政治家はいない。若者も眠っている。批判勢力の中核になるべき野党は、四分五裂でいがみ合っていて、政府を批判するどころではない。
 だから安倍首相は、政権を脅かされることもなく、安心して忠実に、米国に追従する外交を続けている。そしていま、掩護射撃のつもりなのだろう、トランプ大統領の意向を忖度して、米国から大量の農産物を輸入しようとしている。
 日本は、ここまで劣化してしまった。まことに残念なことである。
(2019.09.17)

(前回 目覚めよ、全共闘以後世代

(前々回 憂うべき若者の保守化

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