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【森島 賢・正義派の農政論】言葉の軽視が社会を劣化させる2019年10月28日

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【森島賢】

 日本チームが、ラグビーワールドカップ大会で大活躍をした。その余韻が、いまも続いている。
 ラグビーファンの筆者は、キックオフからノーサイドまでテレビにくぎ付けになっていた。政治家が表に出なかったことも、心地よいことだった。
 日本チームが、こんど見せた華麗なオフロードパスやジャッカルや、そして、各プレーで見せた一体感は、世界のラグビー界に新風を巻き起こしたのではないか。また、日本チームが最後の試合で、マイボールのラインアウトを、数多く相手に奪われたが、これは、日本チームの今後の伸び代を示しているのだろう。……以上は、素人のタワ言である。
 ここで言いたいことは、そんなタワ言ではない。試合を報道したメディアが見せた言葉の軽視である。
 日本チームが、Aプールで予選を勝ち抜いて決勝トーナメントへ進んだとき、メディアは「4連勝して決勝トーナメントへ進出した」と報道した。この言葉を問題として取り上げたい。

 日本チームは、「4連勝」したことが称賛すべきことだったのだろうか。そうではない。称賛すべきことは、「連勝」したことではない。4回「連勝」したことでもない。それは、日本チームを称える、という意図に反して、その偉業を過少評価している。

 つまり、「4連勝」というのでは、3連敗のあと「4連勝」して、ようやく決勝トーナメントへ勝ち上がれた、というようにも受け取れる表現である。
 だが、事実はそんなことではない。日本チームの偉業は「全勝」して予選を突破したことである。だから、そのように言うべきだった。「全勝」と「4連勝」とでは、表現すべき事柄を見る忠実さや緻密さや深さが、まるで違う。「無敗」といってもよかった。

 「はじめに言葉ありき」というのは、聖書の冒頭の言葉である。
 「4連勝して......」は、1つの例であるが、いまのメディアには、言葉に対する尊崇の念が足りない。だから、事柄に対する認識が、その深層にまで突き刺さらない。認識が浅薄になる。表層だけを追い続けて、伝えることになる。だから、それを受け取る国民は、事柄の表層しか認識できなくなる。これでは、言論機関としての社会的役割を放棄したことになる。

 言葉に対する冒涜は、一部の政治家にも見られる。農政分野で考えよう。
 先月末に合意した日米貿易交渉の結果について、安倍晋三首相は「ウィンウィン」の合意だ、と言った。日本も利益を得たし、米国も利益を得た、という意味である。
 だが実際は、そうではない。米国の強引な要求を日本が飲んだだけである。つまり、米国は利益を得たが、日本は譲歩しただけで、どんな利益も得なかった。それどころか、日本の畜産が大打撃を受ける、という不利益を一方的に被っただけである。
 あえて言えば、日本の利益は、米国のご機嫌を損じなかったというだけである。これは、ご主人様のご機嫌を上目遣いで見て、右往左往する奴隷のような不様な姿である。それと同じで、日本は畜産を犠牲にして、米国のご機嫌を卑屈な姿勢で窺っている。
 それにもかかわらず、「ウィンウィン」と強弁していることで、首相は、畜産農家をはじめ、多くの農業者から、怒りを込めた強い反発を受けている。

 ラグビーの「4連勝」という評価と、日米交渉の「ウィンウィン」という評価に共通するものは、言葉の軽視である。共通しないものは、「4連勝」には悪意がないが、「ウィンウィン」には悪意があることである。
 メディアが注意すべきことは、こうした言葉の軽視が、一億総白痴化へ向かわせて、社会を劣化させることである。
 そして、首相が注意すべきことは、言葉の悪用が、つぎの選挙で痛烈な反撃を受けることである。国民は、白痴ではない。
(2019.10.28)

(前回 シラケる中国の若者たち

(前回 野党の国会戦略

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