【森島 賢・正義派の農政論】沈黙する若者たち2019年11月5日
秋たけなわである。人びとは行楽地で、ゆく秋を静かに惜しんでいる。国会周辺も、いちょう並木の紅葉に包まれて、静かな佇まいの中にある。
だが以前は、といっても半世紀ほど前のことだが、そうではなかった。
秋になると国会周辺には、むしろ旗が林立し、騒然としていた。全国の農業者が集まって、米価要求をしたのである。地元選出の国会議員に面会を求め、我々の要求を飲まなければ、つぎの選挙で落とすぞ、と言わんばかりの勢いで、米価の引き上げを要求した。
世間では、これを秋の春闘と呼んでいた。米価を上げよ、という農業者の秋の要求は、労働者が賃金を上げよと、という春の要求と同じで、ともに経済的弱者が政府と経済的強者に突き付けた要求である。
そして、そこには制度や政治に対する要求も含まれ、街頭に出て国民の広い支持を求めていた。
だが、いまは本物の春闘もないし、秋の春闘もない。弱者たちは、いまの状況に満足しているのだろうか。
目を世界に向けると、いま、香港をはじめ各地で弱者たちの街頭デモがくり広げられている。そして、その中心部に若者たちがいる。
しかし、日本は静まりかえっている。いま、日本の弱者たちは、そして若者たちは、十分に満足しているのだろうか。強者や政治に対する要求は何もないのだろうか。
◇
こうした状況を反映しているのだろう。国会内で、野党は、何人かの大臣の不正を追及したり、言葉じりを捉えるような議論をするだけである。
野党は、清廉潔白で、言葉に慎重な大臣が、選挙で公約した与党の政策を忠実に実行しさえすればいい、と考えているかのようだ。
それでいいのだろうか。そうではあるまい。
野党は、与党の選挙公約を否定しているのではないのか。選挙公約にしたがって行っている与党の政治を、否定しているのではないのか。
◇
なぜ、こうした倒錯した状況になってしまったのか。
それは、野党の政府に対する要求が、弱者の要求に基づいていないからである。そして、その基に、弱者の要求が野党にまで届いていない、という問題がある。そして、さらにその基に多くの弱者が、ことに若者たちが政治要求の声を上げない、という大問題がある。
日本の政治の沈滞は、こうした若者たちの沈黙に、その根深い基礎がある。
若者よ起て、そして叫べ、と言いたい。
(2019.11.05)
(前回 言葉の軽視が社会を劣化させる)
(前回 シラケる中国の若者たち)
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