【森島 賢・正義派の農政論】新年の課題と視点2020年1月6日
新年 おめでとうございます。
さて、今年も地球温暖化が続くようだ。その一方で、世界を揺るがせている米中間の熱い抗争は、昨年末から沈静化へ向けて一歩進んだようだ。
この2つの問題は、ともに、その根幹のところで、経済に対する政治の支配に深く関わっている。この視点がなければ、世界の状況を表面的にしか理解できず、その深部から認識することはできないだろう。そして、世界が進むべき進路を見失うだろう。
今年も暖冬が続くようだが、暖房のためのエネルギー消費量を減らせることはいいことだ。だが、昨年のような、地球温暖化を原因にする洪水被害が懸念される。これは自然災害だ、といって誤魔化せる問題ではない。
ここには、温暖化を促進する経済活動を規制する非経済的強制、つまり社会的規制を強めない政治に原因がある。だから、自然災害ではなく、人災である。
◇
地球温暖化は、地球上の全ての国が協力して解決すべき問題だ、などと呑気なことを言ってはいられない。日本は、なすべきことを行っているか。
日本は、脱原発を口実にして、石炭の国内消費量を増やしている。それに加えて、海外の石炭による火力発電計画を支援している。
昨年は、あの歯切れのいい小泉進次郎環境相が、日本の排ガス規制の消極性について、国際社会で非難された。また日本は、排ガス規制を怠っていると認定されて、国際団体から「化石賞」を贈られ、揶揄された。そうして世界中に恥を晒している。
◇
もう1つの正月の注目すべき出来事は、世界経済の落ち着きである。これは昨年末に、米中貿易交渉が部分的な合意に達したからである。だからといって安心はできない。それも束の間、中東情勢の険悪化で、世界経済は激しく動揺している。
米中の貿易交渉の根は深い。米国の中国に対する要求の底には、経済に対する政治の介入を止めよ、という要求がある。しかし中国は、これは国家体制の根幹に関わる内政干渉だとして、断固 拒否している。
◇
地球温暖化にしても、米中抗争にしても、その根幹にあるのは、経済に対する政治の支配を肯定するか否かである。これは、資本主義と社会主義のせめぎ合いである。この認識がないと、新年からも続く世界の出来事は理解できない。
せめぎあい、とはいっても、一方が他方を屈服させる、というせめぎ合いではない。一方がその根幹を守りながら、その一部に、他方の長所を、どの程度とり入れるかどうか、というせめぎ合いである。
◇
この認識のない一部の評論家は、北京政府の中は2つに割れていて、熾烈な権力闘争が行われている、と解説する。そうして、昔のような宮廷革命を期待している。だがそうではない。宮廷内での王権をめぐる権力闘争ではない。社会主義の中のどの範囲に、資本主義的な自由市場の原理を許容するか、という論争である。
また、米国でも、今度の大統領の予備選で、社会主義者を名乗る候補者が複数いる。彼らも、いわば教条的な社会主義者ではない。いまの政治に社会主義的な政策を部分的に取り入れる、という主張をしている。
◇
このように、いまの政治は、経済の自由に対して政治的な規制を広げようとする社会主義的な政治と、政治的な強制を排して、経済の自由をさらに広げようとする資本主義的な政治とのせめぎ合いの中で展開している。それは、国際政治の中でもそうだし、国内政治の中でもそうだ。それが、いまの政治を見る深い視点である。
この視点で新年の課題をみるとき、それは、経済の自由がもたらした、農業者など弱者の苦悩を放置して格差を是認する政治を採るか、それとも、政治の介入によって格差を否定し、弱者と強者の深刻な分断を解消する政治を採るかである。具体的な政策は、この基準で評価されることになる。
(2020.01.06)
(前回 野党の責任)
(前々回 自由・民主主義と格差)
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