【森島 賢・正義派の農政論】調査なくして発言権なし2020年3月16日
表題の言葉を知らない農村研究者はいない。
これは、90年前の中国で、農業者を困窮から解放する運動のさなか、毛沢東が言った言葉である。運動の戦略・戦術を議論する会合で、農業者の困窮の実態を見ようとせずに、教条主義的な空論を、長々と主張する人を戒めた言葉である。
いまこの言葉を想起するのは、新型肺炎を早期に終息させるため、政府に進言をしている、いわゆる専門家の議論を聞いていて、同じ感想を持つからである。彼らは実態を見ようとしていない。だから、まともな進言ができない。
そのような進言に基づく政府の新型肺炎対策だから、多くの国民は評価していない。
また、野党は、この多くの国民の不満の声に応えていない。
上の表は、国民が政府の新型肺炎対策を評価しているか否かを、報道各社の世論調査でみたものである。多くの国民が、評価していないことが分かる。
何故か。
◇
政府の周囲にいる、いわゆる専門家は、新型肺炎が蔓延している実態を見ようとしない。
新型肺炎の検査数をみると、韓国では1万人に43人の割合で検査しているが、日本では1万人に1.5人の割合でしか検査していない。実に30分の1である。この程度の数では、政府に対して、専門家らしい科学的な提言はできないだろう。
専門家がまず提言すべきことは、政府に対して検査機能を抜本的に拡充することだろう。だが、それをしない。だから、蔓延の実態が見えない。これが原因になって、政府の対策に対して、事実に基づく科学的な提言ができないでいる。
その一方で、国民に対しては、手洗いせよ、マスクをせよ、集会を止めろ、という高飛車な説教を垂れている。
何故か。
◇
それは、政府の周囲にいる、一部の専門家たちが、政府の意向を忖度しているからである。
政府の意向は何か。
政府にとって、感染者数を実際よりも少なく見せることが好都合なのである。だから、検査さえもしたくない。
真の感染者数が分かると、膨大な数になり、社会全体を揺るがすほどの深刻な影響を及ぼしていることが分かってしまう。そして、今後もますます深刻になる。そうなると、安倍晋三政権は存続できなくなる。このことを懼れている。
◇
いま、安倍政権がなすべきことは、感染の実態を隠蔽することではない。事実は隠しきれないのである。
これと対照的なのは、ドイツのメルケル首相である。彼女は、「国内の感染者は人口の6~7割に達する可能性がある」という専門家の見解を公言している。
メルケル首相に倣って、いま安倍政権が早急になすべきことは、感染の実態と正面から向き合って、真の専門家に耳を傾け、事実と科学に基づいた対策を考えることである。安倍首相でさえも、事実は消せないし、科学の法則は支配できないことを自覚すべきである。
◇
野党に対しても言いたい。
前掲の表で示したように、多くの国民は政府の新型肺炎対策を評価していない。それに応えるのが野党の役割ではないのか。しかし、野党は、国民が評価していない理由が分かっていない。だから、政府の対策を批判できない。
そうした中で、感染が続いている。これは、野党にも責任がある。
野党は、表題の言葉を肝に銘じるべきである。それは、全ての希望者に対し、求めに応じて検査を行い、感染者の病苦と周囲の人々の苦難を、現場で見詰めることから始まる。
そして、その実態の中で国民の衆知を集め、真の専門家の知見に耳を傾け、対策を練り上げて、政府に要求すべきだろう。
(2020.03.16)
(前回 新型肺炎の反国民的隠蔽)
(前々回 野党の新型肺炎対策が見えない)
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