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【戸井・全農チーフオフィサーに聞く】変化する消費現場に的確に応える2017年12月20日

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・販売から「営業開発」へとしたのはなぜか?

 いま全国のJAではそれぞれの実情に合わせて「自己改革」に取組んでいるが、多くのJAからは「自己改革は販売事業」だという答えが返ってくる。生産コストの低減ももちろん大事だが、農家組合員が丹精込めてつくった農畜産物を確実に売り切ることが、農家所得の向上に直接つながるからだ。そうしたJAの動きに呼応するようにJA全農が、これまでの「販売促進」から「営業開発」へ大きく舵をきった。そしてイトーヨーカ堂の元社長・戸井和久氏がその先頭に立ち、全農を新たな方向へ力強く牽引している。そこで、戸井チーフオフィサーに、これからの全農の「営業」のあり方などについて忌憚なくお話いただいた。

◆農業現場に近いのに「もったいない」

 ――戸井さんのこれまでのご経験からみると全農の事業はどのように思われていますか?

戸井和久・JA全農チーフオフィサー 私がこれまで経験してきたのは、お客さんに一番近いところで店舗を構えた小売業です。全農グループにはAコープや全農ミートのお店のように消費者と直接の接点をもっているところもありますが、全農全体としては生産に近い卸という位置づけだと思います。そして、全農は農業の現場というリソースを持っていることが小売との大きな違いです。
 私は4月に全農に入って約半年間、全農の県本部や子会社の現場、そして農協などを回ってきました。その印象は「もったいないナ」ということです。
 全農の外から入った人間に見える景色は全農の人とは違うと思うので、そのことを伝えていくことが大事だと考えています。

(写真)戸井和久・JA全農チーフオフィサー

 

 ――具体的にはどういうことですか?

 本所、県本部、農協と組織は同じように見えますが、そこの意思疎通が必ずしもできていないのではないかということを感じました。意思決定の方法も全農は積み上げていく形ですが、ベンチャー企業も含めて民間企業はいくつもの手段があって決定しますので、目的は同じでもプロセスが違います。
 論理的に積み上げていく方法は、確かに間違いはありませんが、時間がかかります。新設された「営業開発部」はスピード感をもって動かなければいけないことが多いし、より具体的に動かなければいけないので、目的達成のためにはいくつもの手段があってもいいと思っていますし、そういう仕事の仕方に変えていこうと考えています。

 

◆付加価値をつけ営業 利益を農家に還元する

 ――これまでは全農やJAグループは「販売」といっていましたが、今回は「営業」にした意味はなんですか。

 「営業」というのは、企業活動そのもので利益を稼いで、次のステップに持っていくということです。そういう意味でこれまで全農にはそういう意識は薄かったと思います。しかし、これからは、積極的に付加価値をつけて営業し、そこで得た利益を農家に還元することが必要ではないかと思います。これまでのような「モノ」中心の販売や生産サイドの思い込みではなく、相手が何を求めているかを知り、それに対して商品なのか、インフラなのかをきちんと見極めて的確に応えていく、それが営業活動です。
 そして「安売り」をするなら、営業開発部はいりません。私たちは、持続的に生産でき売り切っていく体制をいかにして作るかが目的ですから。

 

 ――実需や消費サイドのニーズに応えるような付加価値をつけて営業するということですね。

 それが、継続していけば、単なる直販ではなく契約に基づいたものになりますから、互いにWIN・WINの関係になります。

 

 ――先日はTACのパワーアップ大会でお話になっていましたが...。

 大事なことは私の考えが正しいかどうかではなくて、いま消費の現場が大きく変化しているので、そこに近づいていく努力をしないと全農は相手にされなくなる、という意識の変化を伝えていきたいと思っています。

 

 ――変わろうとするときには、大きなエネルギーが要りますね。

 エネルギーが要りますが、組織として取組みますし、一人ひとりの意識が変われば組織も変わります。多少時間はかかるかもしれませんが、ある程度実績が上がればそれが横に広がると思います。それができる力を全農は持っています。営業開発部は、まだまだ小さな存在ですが、活性化させるエンジンになればいいと思っています。

 

◆縦割りの販売から総合的に対応する組織に

 ――営業開発部では、いま具体的にはどのような仕事をしていますか?

 営業開発部の事務所には「課」の表示はありません。それは縦割り販売による単品営業ではなく、すべての分野について広く浅く知識を持ち、全農全体を網羅した総合的な対応ができないとこれからは商売ができないと思うからです。
 営業の方法も相手のニーズを的確に捉えることもそうですが、具体的に進めるには相手のキーマンと直接話すことも大事です。それは仕入の責任者だったり、役員あるいは社長の場合もありますが、そういうキーマンときちんと話をして全農について知ってもらうと同時に、「こんなことできないかな」という話を引き出せば、それは各社の営業方針ですから、その方針に沿った営業政策を全農が県本部やJAを含めてJAグループ全体で取り組めばいいわけです。

 

 ――実際に動き始めているプロジェクトはありますか?

 イトーヨーカ堂のミニプロジェクトに、営業開発部だけでは対応しきれないので、全農の米穀や園芸や畜産の人も入って動いています。また、米なら多収穫米を求めている実需者もいるので、それを誰につくってもらうのかを米穀部や耕種総合対策部もいれてプロジェクトをつくっていくなどしています。

 

 ――これまでは農産物を素材・原料として納品していましたが、それも変えないといけないですか?

 青果などはとくにそうですね。惣菜など中食には「最終形」で納品することが望まれます。キャベツやレタスを単にカットするだけではなく、求められている形態にして納品するようにしなければ、全農を認めてもらうことはできません。

 

◆これまでにない発想と女性の積極的な登用を

 ――米も中食などに向けた一定の食味がありリーズナブルな価格の多収穫米で対応する必要があるわけですね。

 米消費の6割が中食・外食になっているのが現状です。そして、全世帯の6割が1人か2人世帯ですから、その人達には5kg包装米は要らないんです。サーモス社が、白米と水を入れて電子レンジで8分加熱、30分保温で炊けるポットをつくりました。朝に電子レンジでつくれば保温ポットですから、通勤する女性でも、ランチに温かいご飯が食べられます。全農パールライスが300gパックを売っていますが、こういうものと組み合わせて、買ってみようと思えるきっかけづくりをしなければ、なかなか売れないと思いますし、こういう提案を私たちからしないといけないと思います。

 

 ――全農もそうでしょうが、JAもこれまでとは違う発想をしないといけないわけですね。

 例えば、売上げが前年比100だったら、それを110にするにはどうしたらいいのかと考えることが大事ではないでしょうか。そのためには卸を否定するわけではありませんが、「卸に渡して終り」から意識を変えないといけないということです。そんなに難しいことではなくて「おかしいな」と思うところから始まると思います。そこから変わっていけばいいなと思いますので、そのキッカケとか「気づき」を感じてもらえるといいと思って、いろいろお話をさせてもらっています。

 

 ――プロダクトアウト的な発想から脱却しないといけない...。

 サーモスの炊飯ポットを開発したのは女性です。
 そして全農という組織は女性では成り立っていない「男社会」です。私たちがいくら「プロダクトアウトからマーケットイン」といっても、ほとんどは自分で買っていませんから、実需への説得力がありません。そこが変わればもっと消費の現場に近づいていけると思います。そのためには、当面は外部の女性チームを使うとか、組織の中で女性を積極的に登用していくことだと思います。

 

 ――そうしないと世の中の変化に対応できないわけですね。

◆小売現場が求めるのは商品の物語性

 社会が変わっていくということは、全農も変わっていかないとダメだということです。これからは利便性や時間短縮を求める人が増えれば、ネット社会がどんどん広がるので、全農も対応できるようにしていかないと置いていかれるだけではなく、外されますね。
 ネットと同時にドラッグストアでも食品の扱いが増えていることなど変わってきますから、そうしたことを押さえて考えていく必要があると私は見ています。

 

 ――小売りの世界は本当にどんどん変わってきているわけですね。

 そうです、生き残りをかけて、戦っていますからね。

 

 ――JAの若い職員さんや担い手農家の人たちへのメッセージがあればお願いします。

 私たち営業開発部は、消費の現場と生産現場の接着剤の役割を果たしたいと考えています。接着剤にもいろいろな種類があり、瞬間的に接着するものもあれば長時間かけてじっくり接着するものもあります。それを判断して、接着していきます。
 そのときに大事なことは、モノづくりをされているJAや生産者の皆さんは、その商品の物語をきちんともっておられることです。小売りの現場も外食も、商品そのものだけではなく、物語を求めています。
 物語があれば私たち営業も相手に伝えやすいですし、そのことで、生産サイドと消費サイドの心と心が通じあえると思います。

 

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