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「協同」の源は歴史に 伝統のルール再確認をーJC総研が公開研究会2017年9月19日

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 日本のJAや漁協などの協同組合組織は、地域に密着した総合事業を営むことで発展してきた。しかし今日、組合員の世代交代や階層分化が進み、本来、事業運営に関して暗黙の了解だった共通のルールが崩壊しつつあり混乱を招いている。(一社)JC総研はこうした問題意識のもとに9月16日、都内で公開研究会を開き、北海道JAグループの組合員勘定制度(クミカン)やJAの生産者部会の活動、限られて範囲の濃密な人間関係で成り立つ漁協の報告をもとに意見交換した。

◆北海道の「クミカン」協同の理念そのもの

小林国之・北海道大学准教授 「クミカン」は昭和36年から始まった北海道JAグループオリジナルの制度で、組合員の営農と生活に関するJAとのさまざまな取り引き内容について一元的決済と取り引き情報を管理する仕組み。組合員が作成した営農計画書を積み上げて事業計画書をつくり、JAは事業を展開する。組合員との間で行なった事業結果はフィールドバックして、組合員の営農計画に役立てる。もちろん、そのデータは税務申告にもそのまま使える。
 この制度で最も重要なのは組合員による営農計画書の作成で、計画時における実践目標の明確化や、計画に基づく実践、期中実績の点検、次年度に向けた課題整理といった一連の経営管理(マネジメントサイクル)の基幹となるものであり、農業者の経営マインドが求められる。
 一方JAは、この営農計画に基づいて、その年の資金供給限度額、貸越限度額を決めるとともに、取引者もしくは保証人の確認を得てその年の供給を管理する。いわば農業者とJAの究極の経営管理システムであり、報告した小林国之北海道大学准教授は「株式会社にはない協同組合の理念そのもの」と評価する。
 現在、この制度は全道105JA、正組合員の約7割が利用している。この制度が北海道で生まれた背景について、同准教授は、畜産や畑作など、運転資金需要が大きく、一年一作で専業経営が主流になっていることを挙げる。
 規制改革会議はこの制度について、(1)農協利用の強制、(2)単年度生産の弊害、(3)経営感覚の欠如を挙げて批判しているが、実際はJA以外に販売したり、JA以外から購入したりすることも可能であり、複数年度にまたがる資金需要にも応じている。またJAの営農指導と一体となった経営改善が可能で、単年度精算はむしろ経営感覚の涵養につながると同准教授はみる。「情報による結びつきは組合員とJAをつなぐ信頼を生んでいる」という。

(写真)小林国之・北海道大学准教授

 
 
◆厳しい部会のルール JAの結集力向上に

坂知樹・JA長野開発機構研究員 規制改革会議等で、独占禁止法に抵触するとして問題視されたJAの生産部会による部会員に対する販売・購買に対するルールについて、長野県のJA中野市のぶどう部会による産地づくりを紹介し、(一社)長野県農協地域開発機構の坂知樹研究員がこの問題に触れた。同部会はシャインマスカットを主力に約36億円(2017年)を持つ同JAの主力品目。
 生産部会は目的、事業、会員資格等の規約、品種、栽培方法などの生産に関する決まり、規格、品質などの販売についての決まりがあるが、明文化されていない習慣的なものも混在しており、販路や部会員の多様化などで旧来のルールに従わない生産者が出てきたのも事実。これらが独禁法違反として問題になっているのだが、JA中野市のぶどう部会は厳しいルールを守ることで、部会やJAへの結集力を高めている。
 同JAはブランド力アップのため選果場を1か所に集約し、検査基準を統一。品質を100点満点で評価し、その点数でランク付けして市場を分け、また点数でグループ化して生産金額に反映。さらに実需者のニーズに応じた出荷形態別にプール計算を行なって、市場の評価を高めると共に、個人の努力が反映される仕組みになっている。
 「生産者が不合理だと感じるルールは部会の結集率低下を招くが、JA中野市は、JAによるさまざまな施策と、部会と一緒に一体的に取り組むことで、ぶどう生産を急回復させている。この背景には、部会のルールのプラス作用によって部会員同士・JAとの結集力を高めていることがある」と坂研究員は指摘する。

(写真)坂知樹・JA長野開発機構研究員

 

◆組合あっての組合員 漁村の生活環境反映

佐藤力生・鳥羽磯部漁協監事 同じ協同組合組織でも漁協はJAや生協と比べ、エリアも狭く、力を合わせなければならない漁業の性格から、さまざまな協働のルールがある。三重県鳥羽磯部漁協の佐藤力生監事が同漁協答志支所の漁村社会と漁協を「海賊協同精神」と称して報告した。答志支所は伊勢湾に面する鳥羽市の答志島にあり、かつての九鬼水軍の伝統の残る島で「地縁・血縁関係を含め、九鬼水軍以来の寝屋子制度(一定の年齢に達した男を他人に預ける)による人間関係等も含め、多様な地域社会集団の累積体が漁協だ」と性格付ける。
 従って、協同組合は1900年の産業組合法の前からあるこうした共同体の上に乗ったものであり「法律で規定する事業は、実体的機能のほんの一部にすぎない」と言う。つまり漁協は組合員のための経済事業体にとどまらず、地域住民全体を含めた生活、安全、防災、教育、さらに歴史文化の保存・伝承までも責任をもった地域協同体そのものだと言える。
 これが漁協の結束力になっている。漁協の稼ぎ口となっている黒ノリの委託加工施設を建設するとき、その参加条件に各自が所有する乾燥機は、耐用年数にかかわらず全て破壊することと、途中参加は絶対認めないという、強引とも思われる措置も、ここから説明できる。
 佐藤監事は「一般には組合員あっての組合というが、ここではまったく逆。組合があるから組合員はやっていけるのだ。いろいろ文句は言っても、最後は結束する」と、漁協の特性を強調した。

(写真)佐藤力生・鳥羽磯部漁協監事

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