取扱高5兆円目標 JA全農 新3か年計画2019年3月28日
JA全農は3月26日の臨時総代会で平成31年度から33年度までの新3か年計画を決めた。スローガンは「全力結集で挑戦し、未来を創る」。作物別に戦略を策定し農業総産出額を計画的に拡大させる事業を展開し、それによって全農の取扱高も3年間で3300億円増やし、2021年度には5兆円をめざす。
◆生産強化と地域支援
農業就業人口の減少の一方、大規模経営体への農地集積が加速するなど農業構造の変化と、単身・共働き世帯の増加にともなう中食・外食市場の拡大などマーケットの変化や、急速に変化する生産・流通・消費構造と不透明な海外情勢に対応するため、JA全農は今後3年間で5年後、10年後を見据えた事業を展開する。
めざす方向は5つ。
1つ目は「作物別・品目別戦略策定による農業総産出額の計画的・段階的な拡大」である。
平成29年の国内農業産出額は9.3兆円で、ピーク時の11.7兆円(昭和59年)より2.4兆円減少しているが、JA全農は「12兆円台への復活」をめざす。
国内で1年間に消費される農畜産物は約8600万t。このうち50%を国内で生産し、残りを輸入に依存している(表)。
ただし品目別にみると米などほぼ完全に自給できている品目もあれば、野菜・果実など輸入が増えている品目もある。こうした状況をふまえて(1)国内需要をまかなう生産力を持つ品目の完全自給、(2)国内需要に対して不足している品目の生産拡大、(3)野菜など輸入量の多い品目の国産への転換、(4)和牛など国際競争力のある品目の輸出など、品目別に戦略を策定する。
2つ目は「マーケットニーズをふまえた販売戦略の構築」。
生鮮食品分野の販売拡大とともに、加工・業務用への対応強化、さらに国産を原料にした付加価値の高い商品を開発し多様な販売チャネルで販売することで国産農畜産物の消費拡大を図り「食のトップブランド」としての地位を確立する。
3つ目は「元気な地域社会づくりへの支援」
直売所や生活店舗などの拠点機能の再編強化、中山間地域のライフライン対策のほか、インバウンド需要の取り込み、農泊事業などでも地域経済の活性化を支援する。
4つ目は「急変する海外動向に対応した新たな海外戦略の構築」。
米中貿易摩擦など自国優先主義が強まるなか、海外穀物市況の不透明さが増すことや世界経済の減速が懸念される。このため飼料穀物・肥料原料などの調達力強化や、国内産地から海外の取引先までのサプライチェーンの構築による輸出拡大など、新たな海外戦略を構築する。
そして、5つ目は「会員還元の最大化」である。
将来に向けて打ち出す4つの方向を実現するには、JAグループ内の機能分担を見直して、グループ全体で事業運営コストを抑制する必要があるとして、JAと協議し、物流の合理化、拠点型事業の一体運営・受託、産地づくり支援などに取り組み事業を拡大、会員への還元を最大化する。
◆実需者直接販売を拡大
この5つの方向の実現に向け、これまで取り組んできた自己改革もさらに加速させる。
米穀事業では実需者直接販売を3か年計画では取扱量の60%(129万t)から70%(161万t)に拡大する。買取販売も同30%(65万t)から50%(110万t)に拡大する。また、生産面では業務用需要に対応した多収米などの作付け提案や、複数年・契約栽培を拡大するなど、生産提案型事業をさらに発展させ連合会の集荷拡大に取り組む。
また、国内農業振興など全農と基本姿勢を共有する実需者や米卸等との出資、業務提携も推進する。これらにより米の完全自給を持続させる。
園芸事業の直販事業も30年度で3380億円と計画比102%を達成しており、3か年計画で4300億円をめざす。そのために端境期を中心とした加工・業務用野菜の生産拡大や、輸入量の多い野菜の国産への奪還に向けた生産振興・販売強化で国産野菜産出額3兆円(29年産約2.5兆円)をめざす。
そのほか、冷凍青果物事業の展開や業務提携先との取り組み強化で農業・食品マーケットでのシェア拡大と、広域集出荷施設などインフラ整備で農業労働力支援と直販事業の拡大もはかる。
◆中国ターゲットに米輸出
フードマーケット事業では30年度にオンラインショップ「JAタウン」を全面リニューアル、31年度以降は、国内農業を取り巻くあらゆる参加者のビジネスマッチングを核とした新たなeコマース基盤を構築する。この基盤の活用で事業者向けeコマースの拡大、参加者間の双方向コミュニケーションなどを実現させ国産農畜産物の販売拡大に取り組む。
輸出事業では拠点として英国、シンガポール、米国に加え、30年4月に香港、8月に台湾に現地法人を設立した。今後は海外拠点で現地採用を拡大し、営業体制の強化を行う。
品目別の取り組みでは、米は中国をターゲットに輸出拡大をめざし、大都市を中心に試食などのプロモーション活動や、販売チャネルとしてeコマースの活用も行う。
青果は常設棚の確保やリレー出荷の強化のほか、現地パートナー企業との連携により現地で在庫から詰め合わせ・リパックなど加工と配送まで一体となったビジネスモデルも構築する。
畜産では米国に設立した国産和牛肉の加工会社による現地での加工販売の事業モデルを米国以外の国でも展開する取り組みを進める。
◆肥料の銘柄集約さらに
肥料事業の改革では全体で約550銘柄を25銘柄に集約し、30年度は合計で11万tを超える予約を積み上げた結果、基準価格に対し1割~3割の引き下げとなった。
31年度以降は、被覆入り複合肥料の銘柄集約と、飼料用米や多収米などを対象にしたブロックごとの銘柄開発に取り組むほか、有機化成ではブロックごとに結集銘柄を設定し取り扱い強化をすすめる。神出元一理事長はこれらの取り組みによって「肥料事業改革の大宗はやり終えるところまできたといえる」と話す。
農薬の担い手直送規格の取り扱いJA数は30年度見込みで353。供給実績は計画の8万haを達成する見込みだ。31年度は対象品目を29品目から43品目へ拡大し、取扱いJA数は486JAを計画、12万haの供給実績をめざす。
共同購入トラクターは30年度に目標600台購入を大きく上回る800台を超える納品実績となる見込みで、今後の3年間で2400台の目標達成に向けた取り組みを進める。
飼料事業では配合飼料の供給体制整備として、西日本で倉敷新工場と宇和島工場による製造・供給体制や北海道での合弁会社設立、海外事業では米国に加え、ブラジル、カナダでの飼料原料等の調達事業の拡大に取り組む。
◆グループ一体で商品開発
中長期的な販売戦略、生産振興も進める。
販売では営業開発部に全農グループMD(マーチャンダイジング)部会を設置する。量販店、コンビニ、eコマースなど各販売先に対して国産農畜産物を原料にした商品開発を行う。食品メーカーや商社、関係団体と連携し、あらゆる食品分野で開発する。
生産振興ではJAによる生産指導やTAC活動の支援、生産性向上につながる品種や栽培技術の普及・拡大、ICT技術の導入などを行う。これらによる生産振興と全農グループMD部会との両輪でバリューチェーンを構築する。
労働力支援も本格化させる。パートナー企業と連携した農作業受託事業の全国展開などと、農福連携にも取り組む。地域ごとの実態をふまえ福祉施設等と連携し農作業委託や集出荷施設での作業委託などを通じて障害者の社会参加を支援する。地域経済の活性化にもつながるもので「地方創生の核になる」と位置づける。
一方、スマート農業も加速化させる。
このうちクラウド型営農管理システム「Z-GIS」は33年度に1000組織まで普及・拡大に取り組む。また、今後は土壌診断結果や、気象情報、ドローン等との連携など機能拡充をはかる。また、大手ロボットメーカーと連携し、生産・加工作業の軽減や事業の合理化・効率化につながるロボット開発の検討に着手する。
◆事業利用配当を実施へ
3か年計画の経営計画では取扱計画を31年度は4兆6600億円、33年度(2021年度)は5兆円を計画する。3年間で3300億円増やす。
神出元一理事長は「日本の農業生産額を伸ばすことを支援し、それが事業分量に連動するのはやりがいのあること。まさに協同組合にふさわしい事業計画。今の農業産出額9.3兆円が3年後に9.6兆円になれば、次の計画では10兆円をめざす展望も出てくる」と話す。
その成果を会員に還元することで最終的には生産者への還元につなげる。具体的には32年度から事業利益を黒字化させ、同年度に10億円、33年度に20億円の事業利用分量配当を実施する計画だ。
また、販売力強化や農業者の所得増大に向けた施設などへの投資を3年間で1150億円を計画している。現行の3か年計画では投資費用は600億円だったがこれを倍近く増やす。
わが国の農業総産出額の増大を事業目標に掲げたJA全農-。神出理事長は「農業産出額を伸ばすと打ち出すのは全農しかない。20年、30年と農業をやろうとしている若手に夢と希望と勇気を与え一緒にやろうとメッセージを打ち出していく。引っ込めるつもりはありません。3年後どうなっているか非常に楽しみだ」と力を込めた。
(関連記事)
・全力結集で挑戦し、未来を創る JA全農臨時総代会(19.03.27)
・機構改革の詳細が明らかに JA全農(19.02.15)
・「耕種資材部」、「米穀生産集荷対策部など新設-JA全農 大幅に機構改革(19.02.08)
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