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JAの活動:体験型農園の魅力と可能性

【現地レポート JAはだの(神奈川県)】貸し農園から体験農園へ 市民を都市農業の担い手に2017年3月31日

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 神奈川県のJAはだのと秦野市は、市民参加で都市の優良農地を維持する体験型農園の開設を計画している。同JAは秦野市と連携し、都市における「農」の担い手を支援する「はだの都市農業支援センター」の設置や、「市民農業塾」、「かながわ農業サポーター事業」などに取り組み、新規就農者の育成で実績があるが、市街化区域における農地保全に資する新たな取り組みとして、体験型農園の開設が必要と判断した。早ければ29年度内に開園の見込みだ。

◆農業サポーターづくり

体験農園の候補地の生産緑地地区。樹林地もある 秦野市には市街化調整区域内の農業振興区域が3430ha(市街化調整区域の43.4%)、市街化区域内の生産緑地が105ha(市街化区域の4.3%)あり、市はこれを「都市農業」と位置づけて都市農業振興計画を策定している。計画では、秦野市の将来像を「農業者として市民が営む、農のある快適なまち」として、(1)農業経営の安定化と担い手の育成・確保、(2)農業の保全と農地の持つ多面的機能の活用、(3)安全な農産物生産・消費による地産地消、(4)農業に対する理解の促進と交流の4つを基本目標に掲げる。
 同市の計画は、市民を都市農業の担い手として位置づけているところに特徴がある。本来の生産者である農家が高齢化し、後継者不足が深刻になるなかで、市民の農業に対する関心は高まっており、これに対応しようというわけだ。これまでJAは新規就農や新たに農業参画を望む市民を対象にした「市民農業塾」を開講している。その中には2年の新規就農コースがあり、1年目は基礎的な栽培の技術を学び、2年目は研修ほ場の1区画を受け持って、自ら栽培計画を立てて野菜をつくる。
 これを県の「かながわ農業サポーター」事業と連携させ、研修の修了生には10~40aの農地をあっせんする。平成18年からスタートした農業塾の新規就農コースのこれまでの修了生は67人で、このうち54人が就農し、全体の経営面積は11haを超す。このほかJAが運営する市民農園「さわやか農園」、秦野市が開設する「コミュニティ農園」が、市内全体で1000区画以上ある。ただ、市街化区域内にある市民農園は155区画と少ない。

◆市街化区域の担い手は?

 市街化区域内の優良農地である生産緑地は100ha以上あるが、その所有者である農家の高齢化も進んでおり、後継者が確保できず、耕作放棄地も増えている。JAと市による「秦野市都市農地保全活用推進協議会」が行なった調査によると、生産緑地内に農地を持つ農家のアンケートでは、「農業後継者がいる」農家が18.9%で、「農業後継者はいるが未就農」が20・8%、「農業後継者は未定だが誰かが継ぐ」が26.6%、「農業後継者がいない」が33・6%だった。「誰かが継ぐ」を含めて、なんとか農地と農業を維持できそうなのは半分に満たない。
 その中で農作業の中心となっている人は60~69歳が39.5%と最も多く、70歳以上が49.6%を占める。つまり市街化区域内で農業を営んでいる農家は90%近くが、あと数年でリタイアする年齢にきている。その後は、農地を維持する人がいなくなることになる。
 推進協議会の会長を務めるJAはだのの宮永均専務は「生産緑地など計画的に保全すべき農地であっても所有者の高齢化や後継者の不在、遊休農地や買い取り申し出による生産緑地の廃止などで、農業多面的機能の確保や継続が困難になるケースが多くなっている」と分析する。
 加えて生産緑地の平成34年問題がある。平成34年は、生産緑地の指定が始まった平成4年から30年経ち、主たる従事者の死亡や故障がなくても、生産緑地の買い取り申し出が可能になり、農地を維持できなくなった農家が大量に申し出る恐れがある。
 JAはだのと秦野市が進めている新しいタイプの体験型農園は、農地の所有者が農作業できなくなっても農地を農地として維持できる仕組みだ。これは全中が、東京都練馬区が普及をすすめる体験型農園を参考にした。
 練馬区内には17か所の体験農園があり、(1)園主が講習会などを通じて利用者を指導する、(2)作付けする種類や作業などを細かく説明・指導する、(3)園主が種苗や農機具を準備する、(4)流通を目的とせず、多少の手間がかかっても、伝統野菜にこだわるなど、賃貸で、運営・管理は利用者に任せる市民農園と大きく異なる。

◆コミュニティ形成の核に

市内のいたるところにある湧水と市街化区域内の農地 つまり、農地を貸すのではなく、あくまで園主が主体となった農業経営に利用者が参加するという仕組みであり、園主が作付計画を決め、栽培指導し、種苗や農機具を用意することで、利用者は高品質の農産物を手に入れることができる。このため、所有者である園主の責任と指導のもとに、農園は常にきちんと管理でき、市民農園のように放任区画が散在するというようなことはなく、都市景観の維持にもなる。計画的な運営のためには、園主と利用者の日常的な交流が必要で、これが体験農園を基盤にした新しいコミュニティの形成にもつながる。
 また生産緑地の場合、自ら耕作している農地については、相続税・贈与税の納税猶予が適用されるが、農地所有者が他人に貸し付けているとその対象にならない。農地所有者は体験農園の運営主体であり、一部を他人に委託しても運営の主たる部分を担っていれば納税猶予の適用を受けられる可能性があると同協議会は判断している。
 協議会は、こうした体験農園の候補地として、市内3か所をケーススタディとして意向調査を行なっている。それぞれ条件の違いはあるものの、いずれも生産緑地を含み、所有者は高齢化し、後継者はいても就農するかどうかは分からないという農家が多い。
 宮永専務は、こうした体験農園について、「市街化区域内の農地の荒廃を防ぐことで、コモンズ(共有資源)的な性格を持つ都市の農地を守ることができる」と期待する。特に秦野市には環境省の「名水百選」に選定された豊富な湧水があり、これを利用し、都市の憩いの場としての役目を持たすこともできる。
 また都市農業は、かつて主要な野菜供給地であり、蓄積された技術もある。体験農園は、それを利用者に伝えることで、技術の継承にもつながる。「農家は技術を売り、利用者はそれに授業料を払って高品質な農産物を手に入れることで、お互いの喜びになる」と宮永専務。そのためには、園主には技術とともに、応接スキルも必要になる。候補地では体験農園に関心を持つ若い担い手もおり「新しい農民像が求められる」と言う。早ければ今年度内に整備し、オープンさせる方針だ。
(写真上から)体験農園の候補地の生産緑地地区。樹林地もある
       市内のいたるところにある湧水と市街化区域内の農地

・YouTubeのJAグループチャンネル:体験型農園の紹介は、簡約版はこちら、全体版はこちらから。

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