JAの活動:体験型農園の魅力と可能性
【現地レポート JA広島中央(広島県)】地域住民を「担い手」に育成2017年8月3日
・小農家が地域の農地守る
・体験型農園の魅力と可能性
JA広島中央は、地域住民のなかから小農家を育成し、農家とともに地域に暮らす人々全体で農地を守り、地域に食を提供していこうという目的で体験農園を開設した。開設から3年めを迎え、意欲ある担い手として着実に育っている。インショップ向け販売など、これまでのJAの販売努力が小農家の育成にもつながった。生産と消費、地域住民と組合員など「地域をつなぐ」JAの役割が明確だ。
◆地域住民を農につなぐ
(写真)農園で研修する地域住民
JA広島中央が平成27年から始めた小農家育成基本プラン「楽農」(らくのう)は体験農園で野菜づくりの指導を受けながら、いずれ出荷販売農家になってもらおうという、いわば地域農業の担い手づくりのための体験農園事業である。
高齢化と後継者不足、耕作放棄地の増加は多くの地域の課題だ。
「ただ、一方で食べ物を育てたい、農業ができないかと考える人は多い。地域住民を農業に結びつけることができないか、そのためにJAが意欲ある人たちに門戸を広げることができないかと考えました」とこの事業を企画した同JA営農販売部販売施設課の藤井優一課長は話す。
東広島市を中心としたJA管内は広島市内への通勤圏でニュータウン造成などで人口が増加している。といっても、緑豊かで農地も多い。住民のなかには農ある暮らし、さらには仕事として農業ができないかと考える人も増えているが、その思いをJAが支援し具体的な一歩につなげてもらおうというのがこのプランである。
農場は同JA高屋支店の裏にJAが借りている農地。支店敷地内には資材販売店舗や、産直市、野菜の集出荷場もあり、資材の利用や収穫物の販売、また営農指導員の指導なども効率的にできる。
小農家を育成するために段階別に「喜」(初級コース)、「豊」(中級コース)、「匠」(上級コース)の3つのプランを設定し、27年度は初級コースとして1区画30平方mを20区画募集した。料金はテキスト代の3600円のみ。専任の指導員(JAのOB職員)とJAの指導販売課職員が月に1回研修することを基本とした。
種子、苗と肥料、農薬はJAの資材店舗(グリーンセンター)に小ロット商品を用意して必要に応じて購入できるようにし、農業機械は燃料費や整備費の負担をしてもらうかたちで必要な人に貸し出すことにした。
新聞折り込みとチラシの配布などで募集すると2日間で埋まった。高屋地区にあるニュータウンの住民が多く自家用車で5~10分程度の人たちがほとんどだ。そのほか農家になる意欲まではないが、野菜栽培を教えてもらいたいという問い合わせも多かったという。
一年目はコース名のとおり農作物を作る「喜び」、楽しみを味わってもらうことが狙いで、果菜類を中心に月1回の研修で得意な作物を見つけ出してもらった。
◆食べてもらう喜びへアップ
28年度は初級コースを終えた20名から野菜出荷販売を志す13名を中級コース「豊」へと再編し、4月に栽培研修を開始した。
月1回の栽培管理講習会にはほぼすべての研修生が参加し、座学、ほ場での指導と合わせ野菜を育てるポイントを学んだ。重点推進品目であるナス、ピーマン、冬の白ネギの栽培体験を行い、年間を通して露地栽培が可能な33品目の栽培体験も行った。
収穫だけでなく出荷に向けた調整作業と、支店祭りや産直市の日などのイベントで対面販売も行い、出荷作業の大変さを学ぶとともに、栽培した野菜を生産者として販売する喜びを体験した。
29年度に中級コース2年めを迎えた13人はJA広島中央に出荷者登録し研修ほ場での栽培ではあるものの、産直市などへ収穫出荷を行っている。
作る楽しみから「食べてもらう喜び」へ、そして「儲かる喜び」へとステップアップして小農家を育成し、いずれは自立して地域の農家とともに農業を持続させていこうというのがこのプランだが、その基本にはこれまでのJAの産地づくりと販売戦略がある。
(写真)東広島市内のインショップ
管内ではナス、ピーマン、そして冬は白ネギを主力として多彩な品目を生産している。ある品目に特化した大産地をめざすのではなく、年間を通して生産できる輪作体系の確立をめざしてきた。そこには年間を通じた安定的な農業所得の確保という狙いもある。
一方、年間を通じてさまざまな地場の安心・安全な野菜の供給は消費者、実需者が求めていたことでもあった。
今でこそ直売所やインショップでの販売方式は普及しているが、JA広島中央が生協や量販店にインショップ(産直市)を設置したのは平成13年。また、生協への販売で生産履歴記帳への取り組みを始めたのは平成11年と全国的に先駆けて実践した。
こうした生産・販売方法をJAとしての産地振興の基本としてきたのである。市場出荷から、地域の量販店などとの直接取引を重視し、現在は8つの取引先すべての店舗に地場野菜コーナーがある。JAの各拠点から出荷されるほか、生協など取引先自身が需要に合わせて各支店に分荷する機能を担っているところもある。
「市場を通さずに地場の野菜を販売する仕組みづくりに力を入れてきました。生産者にも消費者ニーズを伝えてどんな生産をすべきか提案してきました」と藤井課長は話す。
ただ、こうした取り組みが成果を上げてきたとはいえ、農家の高齢化は進む。人口増加で地場野菜への需要が増えるなか、農地の保全、生産力の維持が課題となってきた。小農家育成プランはこうした課題に応えるためでもあるが、実は地場野菜の直売というJAの事業としての仕組みを確立したうえで、いわばそのビジネスモデルを地域住民に提案し農家になってもらおうという事業でもあるといえるだろう。
「出荷者として登録するわけですから、しっかりと農業をやっていこうという志のある地域住民が集まりました。それが地域農業の応援団にもなり、農協との関わりを深めることになります」と、藤井課長。
高屋支店裏の畑で作業をしていた桑原邦夫さんはこの地区にできたニュータウンに25年ほど前から暮らし広島市内の企業に通勤してきた。定年退職を前にこの小農家育成プランに応募。これまでの栽培品目を聞くと「ナス、キュウリ、ピーマン、シシトウ......」と次々に挙がり20品目以上となった。2年前まで農業の経験はなかったが「指導をしっかりしてもらいました」と話す。
「収穫物を出荷するルートもJAが確立しており、出荷先によっては買取りもありますから着実に所得が得られます」と話す。
◆体験農園核に 農業参入促す
桑原さんをはじめ2年めを迎えた中級コース研修生は来年の6月で体験農園を卒業することになっている。
その先は"自立"して野菜栽培を中心とした農家になってもらうことが目標だ。そのための方法としては農家との共同経営をモデルとして考えているという。後継者不足や地域の耕作放棄地などに悩んでいる農家とともに共同で農業を経営する。耕作放棄された農地を既存の農家が借りて、それを活用して農業参入することも考えられる。
その受け皿のひとつになろうとしているのが助実放牧夢クラブという体験型農園だ。
(写真)JAのOB職員が指導
助実地区は市街化区域に隣接する市街化調整区域。目の前の市街化区域で数年先に大型量販店が建設されることになっており、都市化が進む。一方、道路一本隔てた助実地区は丘陵地帯にかけて水田が広がる。こうした地域の景観と農地を保全し、新しく住み始めた人々に農業への理解を深めてもらおうと地域の農家6戸が中心になって地元小学校と連携した体験農園を始めた。水田には和牛も放牧されている。
29年度からはこの地域の農地をさらに借りて、地元農家が指導する親子体験農園や、収穫体験ができるイベント農園などを計画。さらにJAの小農家育成プラン卒業生が農地を活用して自ら経営し、地域農業振興にもつなげようという構想だ。
「収穫体験などのイベントは地場野菜コーナーを設置してもらっている生協や量販店からお客さんに参加を呼びかけてもらうことも考えています。そのなかから年間を通した体験農園に参加しようという人も出てくるかもしれない。JAは取引先などさまざまな関係者とコラボする。地域に住んでいる人で農地を守るという意識が広がることが大事だと考えています」と藤井課長は話している。
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