JAの活動:新世紀JA研究会 課題別セミナー
【意見交換】組合員に寄り添い 農家手取りアップ2018年6月21日
※発言者(敬称略)
▽岩城晴哉・JA全農代表理事専務
▽山本貞郎・同米穀部長
▽井口義朗・JAみっかび代表理事専務
▽兵藤健一・JA栗っこ営農部販売推進課長
▽八木岡努・新世紀JA研究会代表
▽白石正彦・同顧問
▽福間莞爾・同常任幹事の各氏
新世紀JA研究会は、先月開いた第18回課題別セミナーで、JAの販売事業改革について意見交換した。前回に引き続き、JA全農の取り組みと、全体の意見交換を紹介する。販売に限らず、全農の組織・事業全般について活発なディスカッションを行った。
JA・全農一体で機能発揮
◆全農広域事業を核に
【白石】 全農には、まだ未合併の地域が九州等にあり、県本部ではない経済連もありますが、改革していくうえで、そういうところでの調整や課題はどういうことがありますか。
【岩城】 JAグループの組織整備は、平成3年の第19回JA全国大会からJAの広域合併および県経済連と全農の統合を両輪として推進し、従来の3段階制から事業・組織2段階制を基本とした効率化・合理化により組合員メリットを創出する目的で組織をあげて取り組んできています。
本会は、平成10年から3経済連との統合を皮切りに、平成16年までに36都府県(現在は34)の経済連との統合を実現しています。現時点では、1道7県が経済連、5県が単一JAとなっています。全農は、現在取り組んでいる自己改革(生産資材の新たな購買方式等)や広域事業(系統飼料工場の再編等)への参画を呼びかけているところです。
【福間】 畜産について肉牛等の全農直営農場の取り組みの実態と考え方についてはどうですか。
【岩城】 畜産事業は、生産者の高齢化や飼料価格の高止まり、輸入畜産物との競合激化等により廃業がすすみ、生産基盤の脆弱化が懸念されています。また畜産経営は専門化、大規模化し、農協が農場経営をおこなうことが困難なケースがあります。
全農は、地域の生産基盤が縮小し、JAによる補完生産ができない場合で、地域JAの了解がとれる場合に、補完機能の発揮のため農場事業をおこないます。
【兵藤】 JAは基本的に生産農家に寄り添う仕事です。JAが全農を選ぶように、農家もJAを選ぶ。その際大事なのは、人との付き合い・総合事業など、金銭以外のことで頼りにされることです。JAとしては自らの考え方と合致すれば全農を利用するという考え方ですが、一体となった機能発揮が重要と考えています。今後さらに広域合併を進め、6農協が合併して日本一の集荷数量のJAができます。合併メリットは、規模拡大による有利販売にあります。
【山本】 課題は基本的にはJAと同じです。とくに、これまでのように、生産者から委託を受けた米を売るだけではなく、国産の米をいかに実需者に結び付けて行くかが重要で、そのための機能発揮に全力を挙げます。業務提携などを進め、生産者と実需者双方へ支持される提案を行い、安定取引につなげて行きたい。とりわけ、今後は担い手等への積極的な提案が重要だと考えています。
(写真)意見交換するセミナー報告者
◆相対取引で米価安定
【白石】 今年度で10a当たり7500円の戸別所得補償がなくなります。米の価格形成のあり方についてどう考えますか。
【山本】 農産物なので、価格は当然需給で左右されます。しかし、一方的に市場に任せればよいというものではありません。将来にわたる国産米の安定取引で農家手取りを安定させることが重要です。そのため、入札のように大きく価格が変動する取引ではなく、相対取引によって、播種前などの早い段階で結び付ける取り組みを進め、安定価格を実現して行きたい。また、業務用米と家庭用米でも事情は異なり、相場に左右されやすい用途では、出来秋の調整も必要になります。いずれにしても長期・安定取引を基本に安定的な価格形成に取組みます。
◆独禁法への備えを
【福間】 JAみっかびについて厳しい部会の規約がありますが、独禁法適用除外違反との関連で公取から指摘を受けたことがあるのですか。
【井口】 名古屋の公取から指摘を受けたことがあります。最初は部会の取り決めは取引の排他的行為に当たるということでしたが、次には産地のブランドを守るためにはやむを得ない、JA以外に売る自由度があれば良いというように見解が違ってきました。税務署と同じで、その都度判断が異なるようです。ただ、問題にされないように、罰則規定や全量取引についての規定を見直し・改正してきています。
【福間】 今回の農協法改正で、JAは組合員にJAの利用を強制してはならないと規定しましたが、協同活動のためにはある程度の強制力が必要と思うが、その点をどう考えますか。
【井口】 要は、生産者・組合員本人の納得感が重要。組合員が納得していれば公取から指摘されることはないと思います。
【白石】 機能性表示食品についての取り組みについてどうですか。
【井口】 100年間のデータ蓄積が基本になっています。みかんを食べれば骨が強くなる、骨が強くなるにはミカンが必要だということを立証しなければなりません。サプリメントなどでは、その因果関係を立証するのは比較的簡単ですが、自然の農産物相手にこのことを立証するのは大変難しい。なお、地理的表示については,みっかびミカンと地域性との関連を証明するのが難しく申請はしていません。
【岩城】 品質も含め、定時・定量の生産物を約束ができるというのがJAみっかびの強みだと思います。そのような体制があるからこそ、売り場の相談・商談ができるのです。
◆青果センター充実へ
【白石】 全農は、昭和40年代に青果センター構想を打ち出し、東京・大阪・神奈川に3センターを設置・稼働させましたが、時代の変化とともに青果センターの役割・位置づけが変わってきているように思いますが、どうですか。
【岩城】 昭和43年に東京(埼玉戸田)、47年に大阪(摂津 H1高槻市に移転)、48年に大和(H23平塚市に移転し「神奈川センター」に改称)に青果センター(当時の名称は「生鮮食品集配センター」)を設置しました。
開設当時の青果センターのコンセプトは、(1)青果物の価格形成に生産者の意思を反映させ、かつ量販店の朝開店時100%品揃えを可能とする予約相対取引方式の導入、(2)量販店等実需者ニーズに対応した包装加工機能の具備、(3)協同組合間提携による生協との連携強化、の3点にありました。
その後、卸売市場においても、青果センターをモデルとした相対取引方式の導入や仲卸による包装加工機能の整備をすすめ、青果センターとの機能の差異は縮小しました。
青果センターでは、その後もハード面では、「新鮮でおいしい野菜・果物の栄養価をなくさないように消費者にお届けする」をコンセプトに、産地から取引先まで品質管理ができるよう冷蔵施設化をすすめ、コールドチェーン体制の整備をおこないました。また、生協との連携強化の一環として、生協共同購入(個配)セット事業の受託をすすめ、この取り組みを通じて、生協向け商品開発を強化してきました。
ソフト面では、青果流通業界ではなじみの少なかった「商品企画書」による商談など、先駆的な取り組みを行ってきました。現在は、従来の量販店・生協店舗向けの生鮮青果物の販売事業に加えて、青果物消費の57%を占める加工・業務需要に対応するため、加工・業務対応専門部署を設置し、契約産地づくり・原料販売の強化を図っています。また、合わせて、新規事業分野として、加熱済み半調理惣菜製品(水煮)の開発・販売を展開しています。
今後は、開設時の3点のコンセプトを維持しつつ、(1)量販店・生協店舗向けの生鮮青果物販売、(2)加工・業務実需者向け契約栽培・契約販売、(3)物流事業(生協セット事業受託)、(4)加工食品の製造・販売、の4つの事業機能の更なるブラッシュアップをすすめ、組合員(生産者)手取り向上に資する事業に取り組んでいきます。更に、拡大する加工・業務需要に対応するため、専用物流センター等についても検討・設置をすすめていきます。
昨年の4月、戸井CO(元イトーヨーカドー社長)が、本年3月、寺嶋上席主管(元マックスバリュー東海社長)を本会に招聘しましたが、両氏の意見も参考にしながら、次期3か年に向けて新たな体制を構築していきたいと考えています。
【福間】 消費者から要望の強い無農薬・有機栽培等への全農の対応はどのようになっていますか。
【岩城】 全農では、経営理念の「安全で新鮮な農畜産物を消費者にお届けします」にのっとり、生産現場での土壌診断にもとづく適正施肥、防除基準に基づいた農薬の適正使用の徹底、施肥・防除記録の指導、残留農薬検査の実施などによって安全・安心な農産物を生産・販売する態勢を整えています。このような取り組みによって、生協、量販店、実需者様と安定的に取引いただいています。一方、有機栽培面積は2.3万ha、全耕地面積の0.5%(27年度推計値)、取り組む農家戸数は1万2000戸(22年度)とその生産は非常に限られていますが、全農は、有機JAS適合資材として新たに認定されたひまし粕などの有機質肥料、害虫発生を抑制できる天敵生物や防虫ネットなど、有機栽培や無農薬栽培に使用できる資材を取り扱い、これらに取り組む生産者にも対応しています。
【八木岡】 担い手・後継者対策についてJAではどのような対策を考えていますか。
【兵藤】 耕作放棄地を活用した農協自らの農業経営を進めています。雇用拡大等の面を考えれば、JA出資型法人が適切と考えています。
【井口】 管内には数千万円の売り上げを持つ組合員もいますが、それでも後継者確保は頭が痛い。新規参入となれば莫大な資金が必要でリスクが大きい。一番良いのは、居抜きで経営を引き継ぐ方法だと思っています。
(写真)意見交換するセミナー報告者
※このページ「紙上セミナー」は新世紀JA研究会の責任で編集しています。
新世紀JA研究会のこれまでの活動をテーマごとにまとめています。ぜひご覧下さい。
(関連記事)
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