JAの活動:新世紀JA研究会 課題別セミナー
主食米の9割直販へ【山本貞郎・JA全農米穀部長】2018年5月30日
政府の「農林水産業・地域の活力創造プラン」に対し、JA全農を中心にJAグループはどのように対応しているか。特に米と園芸の販売事業について、5月23日、新世紀JA研究会が開いたセミナーでは、直販・買取りを中心とした販売や、実需に対応した産地づくりなど、事業改革が着実に進行していることが報告された。本日は、全農の米の取り組みを紹介する。(次回は園芸の取り組みを報告する)
【全農米穀事業改革の概要】
28年11月に「農林水産業・地域の活力創造プラン」が改訂され、この活力創造プランへの対応として、本会の米穀事業は、従来の事業方式を根本的に見直すこととし、実需者への直接販売と買取り販売の拡大に取り組むこととしました。
実需者直接販売は、実需者に直接推進して本会との長期安定的な取り組みを確立すること、パール卸やパートナー卸と連携して実需者との3者契約の締結を推進することにより拡大をはかります。
また、買取り販売は、さまざまな手法(出来秋一括買取や集荷後価格決定方式)から地域実態にあわせた手法を各県が選択し、特に主産県は、生産者に早期精算が可能な集荷後価格決定方式を積極的に導入することにより拡大をはかります。
そして、29年3月の全農総代会において、実需者直接販売は、現行80万tから29年度100万t、30年度125万t、36年度には主食米取扱の90%、買取り販売は、現行22万tから29年度30万t、30年度50万t、36年度には主食米取扱の70%まで拡大するとした年次目標とその達成に向けた実施具体策を決定しました。
(写真)山本貞郎・JA全農米穀部長
【29年度の取り組み結果】
初年度となる29年度は、実需者直接販売・買取り販売とも、それぞれ100万t、30万tの数値目標を達成する見込み。達成に向け、この1年間で次のことに取り組みました。
実需者直接販売では、29年9月に営業開発部(実需者推進チーム)を設置のうえ主要実需者40社程度に直接推進を実施。また、実需者への販路を確立しているパール卸・米卸と実需者に同行推進し、実需者と結びついた契約(特定契約)を拡大しました。
買取り販売では、全量買取り銘柄の設置や共同計算からの買取りの導入など、県主体で拡大を推進。県産米を全量買取りで取扱う県も全国で6県(前年から2県増加)となりました。
さらに、実需者・米卸との連携強化をはかるため、29年10月に大手米卸の木徳神糧㈱と業務提携契約を締結(30年4月に出資)。また、直接販売につながる産地インフラを整備するため、全国3か所に米穀広域集出荷施設(フレコン検査場所併設連合倉庫)を設置しました。
【30年産度の取り組み具体策】
30年産米は、実需者直接販売125万t(前年目標100万t)、買取り販売50万t(同30万t)のほか、播種前や複数年契約などの事前契約140万t(前年見込み131万t)、連合会集荷(水田活用米穀含む)305万t(同275万t)の目標達成に取り組みます。
このため、本会米穀事業の軸足を実需者に置き、実需者との直接商談を積極展開することで実需者ニーズをふまえた米を、JAを通じて生産者に作付け提案し、生産された米を本会が買取りで扱います。この生産提案型事業(作付提案・契約栽培)を最大限拡大するとともに、パールライス卸やパートナー卸と連携した特定契約のさらなる拡大を目指します。
こうした基本方針のもと、実需者対策5、生産(作付)対策4、集荷対策3、販売(原料供給)対策2、消費者・消費拡大対策2の計16項目の具体策に取り組みます。
本日は、特に、JAとも連携して取り組む必要がある生産対策・集荷対策のなかから5項目について報告し、共有させていただきたいと考えます。
(1)計画生産について、30年産米は行政による生産数量目標配分が廃止されるなか、主食用米の適正生産(国の目安735万t)と水田活用米穀等の需要に応じた生産が重要であり、特に、輸出用米・加工用米の生産を推進します。
(2)実需者ニーズにもとづく作付け提案・契約栽培について、全農は本所に県担当、各県本部に推進担当を設置し体制を整えました。特に、JA未利用・低利用の生産者にも推進の機会となるので、是非、問い合わせいただきたい。
(3)多収品種等の取り組み拡大について、30年産は1万t、31年産は3万tを目指します。また、多収品種の種子確保に向け、農研機構等と連携をはかるとともに、栽培フォローや種子供給の体制整備にも取り組みます。
(4)広域集出荷施設の取得について、30年度も2か所、31年度にも2か所の設置を予定しています。県によっては、JA倉庫の老朽化や収容力不足が深刻な県もあり、こうした声に応えるためにも、積極的な設置を進めて行きたい。
(5)集荷拡大について、生産者の利便性向上や作業の効率化などから、フレコン集荷・庭先集荷のニーズが高まるなか、広域集出荷施設を活用しながら、JAとともに運送会社とも連携したフレコンによる庭先集荷の拡大に取り組みます。
30年度の取り組みを進めるなかで、全農は、国産米を将来にわたって必要としていただく実需者と、米作りには生産者手取りの増大や水田営農の安定が不可欠であるとの理念を共有し、生産者・消費者・流通事業者が「三方よし」の業界とすべく、また、自らも生産者・実需者から求められる事業体へ変革するよう活動します。
【30年産米をとり巻く情勢】
29年産米は、3年連続の計画生産達成により、需給はタイトでスタート、価格も3年前に比べ約3割上昇しました。そして、30年10月末の持越在庫は12万t程度(前年差▲4万t)と近年に比べて低い水準になることが見込まれます。
一方、価格の高騰により、業務用での価格転嫁が難航し、米の使用量で調整、SBS輸入米で対応するなどの動きも見られ、需要は想定以上に減少していると推測されます。
30年産の主食用米の生産量は、一部に主食用への作付け転換の動きが見られるものの、全体としては平年作で国の目安(735万t)程度になると想定されます。しかしながら、需要の減少による在庫増は避けられないと考えており、需給緩和も想定しながら取り組みを進める必要があると考えています。
※このページ「紙上セミナー」は新世紀JA研究会の責任で編集しています。
新世紀JA研究会のこれまでの活動をテーマごとにまとめています。ぜひご覧下さい。
(関連記事)
・直販事業拡大へ業務提携-JA全農(18.03.29)
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