JAの活動:JA全国女性大会特集2018 農協があってよかった―女性が創る農協運動
【インタビュー 中家徹・全国農業協同組合中央会会長】新しい農業協同組合へ 女性の行動力を活かせ2018年1月23日
女性の参画はJAが掲げる自己改革にとっても大きな課題だといえる。しかし現実を見れば、JAの運営に直接携わる女性幹部の登用は全国レベルでみてもまだまだ少ないのが実情だ。プロダクトアウトからマーケットインへという時代的な潮流変化の中で生産者でもあり消費生活者でもある女性の感性をどうJAの自己改革へとつなげていくのか。第63回JA全国女性大会に向けて、常に「女性に見捨てられたJAには未来がない」とするJA全中の中家徹会長に語っていただいた。聞き手は「女性参画についてのリップサービスはもはや要らない」とする岡山大学大学院の小松泰信教授。
女性に見捨てられたJAに未来はない!
◆数値目標はあくまで手段 女性の声を活かす組織に
小松 中家会長はJA紀南の管理部長時代から積極的に女性職員の登用を図ってこられた実績があります。
中家 女性職員の地位向上と、その根底にある「女性に見捨てられたJAには未来がない」との信念は、今も昔も私自身の中で生き続けています。
小松 全中が発表した「女性のJA運営参画について」によると、第27回JA全国大会決議において、JAの自己改革の実践を支えるための「多様な組合員の理事登用」が打ち出されています。そこでは女性のJA運営参画にかかる数値目標として、(1)正組合員を25%以上、(2)総代10%以上、(3)理事など2名以上の3点が具体的に盛り込まれています。ただし現実をみれば、総代の数は全国で1割に達しておりません。もはやリップサービスは要らず、具体的な成果につなげていく時期なのではありませんか。
(写真)中家徹・全国農業協同組合中央会会長
中家 たとえば「三冠JA」という形で女性のJA運営参画3目標を掲げていますけど、本来は自然発生的な形で増えていかないといけない。数値目標の達成というのはあくまで手段なんです。女性の声を聴いて、その感性などをしっかりと運営に反映させていくことの方がむしろ大事だと思います。
また、女性のJA運営参画の必要性について考えるとき、いま起きているプロダクトアウトからマーケットインへという大きな潮流の変化を見逃すことはできません。農家の女性は生産者であると同時に、生活者・消費者という側面をも持っています。そしてその実態は「財布を握っているのは女性である」ということなんです。実際、最近では財布を握っている女性の准組合員が増えてきています。ですから、そういう女性陣を「JAの味方につけなくてどうする?」という思いがあります。
小松 一般論として、女性のもっているポテンシャルというものをどうご覧になっていますか。
中家 ものすごい潜在能力を秘めていると思っていますよ。たとえばJA和歌山グループでの一括採用試験をみても、成績も面接での印象も圧倒的に女性の方が優秀です。
小松 しかし、そうした優秀な女性たちも、だいたい3年もすると、「寿退社」とかの理由で辞めていってしまう。結婚-出産-育児という過程を踏んでも、再び職場にカムバックできるような態勢づくりが今後、きわめて大事になってくると思います。
中家 まったく同感です。その一方で気になるのは、女性組織メンバーの減少です。彼女らにとっていかに魅力的な組織にするかは喫緊の課題です。あそこに行ったら仲間がいる。そうした共有意識を持つことができる組織づくりをどう進めていくか。その可視化も含めて真剣に考えなくてはいけません。
◆6500万人の協同組合員と連携し発信力強化へ
小松 さて話を変えますと、ICA(国際協同組合同盟)大会などを見ると、女性の意識の高さはもちろん、協同組合精神に対する尊敬の意識がきわめて高いことを実感させられます。
中家 私は、このほどICAの理事になりましたが、諸外国の理事をみると「かつて大臣を務めていました」とか、ものすごいレベルの方が理事になっている。その辺からも、協同組合精神に対する理解の深さを窺うことができますね。
しかし、こうした現状を黙ってみている場合ではなくて、心強いのは日本の協同組合の組合員の数だけでも約6500万人いる事実です。日本の人口の半分以上が何らかの協同組合のメンバーとなる数字です。この勢力を保ちつつ、農協が他の協同組合と連携し、さらに外向けに発信力を高めていけば、ものすごいパワーになると思います。
また、いわゆる「行き過ぎた競争社会の進展」がもたらした「格差社会」の弊害がさまざまな形で表面化し、大きな社会問題となっています。そういう中で、今後、協同組合が掲げる崇高な精神が必ずや見直されていくと思いますし、現実にそうなりつつあると実感しています。
小松 いま「格差」という言葉が出てきましたが、たとえばいま女性を中心に「子ども食堂」や「フードバンク」などの試みが展開されてきていますが、無条件で弱者に寄り添ってくれる愛情とそこから生まれる行動力は、やはり女性ならではの強みですね。
中家 女性の方がある意味、男性よりも、いざとなった時の行動力は、もの凄いですよ。女性の起業家などを見るとそうじゃないですか。
◆活性化している地域は「女性が輝いている」
小松 農業振興は地域活性化と同義語であると思っていますが、そうした中で、女性組織、あるいは女性にどういうことを期待されますか。
中家 女性が輝いてる地域は活性化していますよ。そうした動きをJAが応援していく。その小さな積み重ねこそが「真のJAの自己改革の実現」へと結びついていく。私はそう確信しています。極端な話、女性組織自体が「新しいJAを創っていこうではないか」くらいの強烈な意識があってもおかしくはないと思っています。まさに発想の転換ですね。
ですから、今後は対話集会などで、女性組織から頂戴した貴重な意見や要望なども、そのまま放っておくのではなくて、それに一つひとつ丁寧に答えていく。しかもその結果などを積極的に開示していく必要がありますね。
生活面や消費者に対する目線は、JA全体にとってもきわめて大事なものとなりますが、そこに女性ならではの感性を発揮してもらい、もっともっと表舞台で活躍してもらうことが重要です。
(写真)小松泰信・岡山大学大学院環境生命科学研究科教授
◆農業を守ることは 日本文化を守ること
中家 ところで、いま私が最も懸念していることがあります。それは「食」に対する国民の意識低下です。これは農家だけの問題ではありません。食料自給率が低下し、異常気象などのリスクが高まる中、食料安全保障の観点から、いまや国民的な課題であると考えています。「これだけ農業が疲弊していいのですか」という問いかけを、より一層高いボルテージで上げなくてはならないと考えています。
小松 生命の営みと密接に繋がっているのが農業です。と同時に、農業は半分以上は女性の力によって支えられている。中家会長の下で、JAグループの女性たちが、良い意味での化学反応を起こしていくことを期待したいですね。
中家 いまの政府の方針では「農業は成長産業だ」との認識が示されていますが、それはたしかに間違いないことなのですが、そこには「農村をどうする」という最も大切な視点が欠けているような気がしてなりません。それは「農業をどうするか」以前の話で、神社仏閣も含めた日本の伝統文化や風景をどう維持していくのか。これは国民一人ひとりが考えるべき問題だと強く訴えたい点です。
私は大晦日の紅白歌合戦の後に放送されるNHKの「ゆく年くる年」が大好きなんです。その年の終わりと翌年の初めに、見知らぬ地方のひなびた神社仏閣で五穀豊穣や幸せを願う人々の姿が映し出されます。新年を迎える前の人々の神妙な佇まい。あの模様そのものが日本の原点であると思っています。そうした風景を絶対に残していくこと。そこに尽きますね。
小松 ありがとうございました。
【インタビューを終えて】
女性組織に「新しいJAを創っていこうではないか」という、姿勢や気概を求めることには同感。それを許すような環境ではないことも、残念ながらその覚悟がうかがえないことも承知している。「地位が人を創り、その人が組織を変える」とすれば、女性たちが化学反応を起こすための触媒が必要である。
この4月から実施する日本弁護士連合会にならって、"副会長への女性の登用"などは一考に値しよう。歯の浮くようなリップサービスよりも、苦き劇薬を時代は求めている。(小松)
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