JAの活動:第64回JA全国青年大会特集
【インタビュー・全国農協青年組織協議会 飯野芳彦会長】農地を農地として、地域を地域として、次世代に引き継ぐ2018年2月21日
農業従事者の高齢化、減少が続く中で、農業の次代を担う農業青年の役割は、過去に例がないほど大きい。農業の衰退は食料生産だけでなく、伝統的地域文化の喪失にもつながる。特に協同組合であるJAに結集する農業青年の役割は重要である。30年、50年先を展望した活動が必要という全国農協青年組織協議会(JA全青協)の飯野芳彦会長に、農業青年・青年組織の役割を聞いた。
--農業新時代といわれていますが、どのように捉えていますか。
農業は、毎年毎年、毎日毎日の繰り返しです。収量は変化しても、米粒一つから米を作ることは弥生時代から変わっていません。われわれの先祖が水稲を選択したのは連作障害や病害虫のリスクが少ないためです。その米を、国民が食べ続けることができること、それが食料安全保障ではないでしょうか。農業新時代とは、その当たり前のことを改めて考え、実践することだと思います。
山の多い日本で農業用水路を巧みにつくり、給・排水を分離させた用水を4万kmにもわたって張り巡らせています。それを人々は協同の力で長い間、維持してきました。このことは先人たちが、自然と共生してきた証(あかし)と言えるのではないでしょうか。
私は、埼玉県で畑作をやっていますが、畑から360度周囲を見渡すと、かつて畑が広がっていた地域に住宅や耕作放棄地が増え、この30年で景色は一変しています。今ある畑はこれから誰が守るのでしょうか。私一人では無理です。だからこそ協同の力をもって守っていくべきではないでしょうか。
(写真)飯野芳彦・全国農協青年組織協議会会長
◆切磋琢磨の競争で
市場経済の社会ですから、作った米や野菜は、換金しなければ営農や生活が脅かされます。つまり消費者のみなさんに農産物を食べていただくことが、農地を守ることになるのです。これが協同ということではないでしょうか。ただ、協同であっても切磋琢磨という競争をしています。協同における競争は成功した人が遅れた人を指導し、お互いが学びあいながら、一緒に階段を登ることが大事で、相手をなぎ倒しながら進むことではないのです。
ここで思い出されるのは戦前、産業組合中央会会長だった千石興太郎氏の言葉です。「経済上の弱者、都市では中小商工業者を初めとして困窮生活者、労働者、また地方では農業者、漁業者等の経済上の弱者にとっては、経済的地位を確立し、生活を安定向上させるためには、その経済的活動を協同化するより他に方法はない」と言っています。まさにその通りです。農商工業者、そして消費者が協同に参画することで、農村が、町が維持されるのです。
農業だけでなく、その地域も繁栄しないと農業も豊かになりません。いま農業は大変な状況にありますが、地域の中小企業も同じです。経営者の高齢化、後継者難に悩んでいます
今年は積極的に、JC(日本青年会議所)の会頭や漁連の会長と対談し、また他の団体とも交流しました。その中で気づいたことは、「地域をどうしたらいいのだろうか」という共通の認識です。いま地方が注目されているのは、みんな郷土への憧れがあるからではないかと思います。従って、地域では、そこにあるさまざまな組織・団体の連帯の中から生まれる協同の力がいま求められているのではないでしょうか。
◆草の根食農活動を
--いま青年部が、重点的に取り組まなければならない活動はどのようなことでしょうか。
次世代に向けた草の根の食農教育だと思います。地域に住むわれわれは、集落内のさまざまなやりとり、貸し借りなどで、昔から助け合いの恩恵を受けています。しかし、いまの若い世代はすべてお金であり、ビジネスライクです。親も、おじいちゃんも農業を知らない世代が増えています。
消費者はいま、食の安全性に不安を持っています。それは農業に接する機会が無いからです。農業者なら、どのように種をまき、育てたかを知っています。だから安心して食べられます。しかしいま、消費者は生産現場から切り離されているため農業のことを知りません。だから何度も検査を通っている外国産の農産物の方が安心だと考える消費者がいるかも知れません。
従って、生産者は農産物の安全性を担保する必要があります。それは書類などではなく、現場で食農教育をしっかりやることです。学校教育にも食農をプログラム化することを、ポリシーブックでも掲げています。現在、日本の食料自給率は38%まで低下していますが、われわれは、それを「だから大変だ」と脅すだけではだめです。日本の安全な農産物を食べようと、消費者と一緒に運動していかなければなりません。
そうした農業の価値を発信し、それを恒久化すること、憲法に食料の自給を盛り込むことも視野に入れた取り組みが必要です。それはJAの青年部だけではできません。国民全体の運動にしていかなければ力になりません。それでないと、食料自給率45%はとても達成できないでしょう。JAグループが実施する全JA調査では、各JAにおける食農教育の回数、延べ参加者数も調査項目に入れるよう要望しています。
◆ポリシーブック核に
--今回の大会は、青年部の活動のなかでどのような意義がありますか。
ポリシーブックは高い評価を得ています。農業は現状の評価だけでなく、20年、30年後を見据え、問題になること、なりそうなことをピックアップして議論していかなければなりません。取り組みから7年目になりますが、そこで出てきた課題をどのように解決するか、その結果から、新たにどのような問題が出て、どのように対処すべきか、そのサイクルを回すことで、10年先の問題が浮き上がってくるのではないかと思います。
われわれの目的は、甘えや寄りかかりではない、真の協同をつくることです。そのためにはポリシーブックでしっかりディスカッションを続けることです。ポリシ-ブックに上がってくる材料は年々違ってきます。長期的・短期的な課題と、毎年色合いが変わります。地域の理解を得るにはどうしたらよいか、農産物の国際認証をとるにはどうするかなど、現場には多くの悩みがあることが分かります。JA全国青年大会は、こうしたボトムアップで得た悩みや要望を、しっかり述べていただきたい。
その中で、新しく出た問題だと思ったことが、実は潜在的に存在していたということもあると思います。あるいは今、気づかないような課題が、何年か先には大きな問題になることもあるでしょう。そうしたことを整理し、いまある問題を持ち越すことのないよう、ポリシーブックの作成を始めた当時の役員と一緒に協議する機会をつくろうと思っています。
◆縦割りの弊害克服へ
--今のJA改革にポリシ-ブックにはどのような役割を期待しますか。
JAの自己改革の取り組みを、JAの8割がプラスの評価をしていますが、担い手農業者の評価は全体の2割です。これは連合会を含め、JAの事業が縦割りになっているためだと思います。ポリシーブックの役割は、これに横串を通すことです。例えば、生産資材を軽減するだけではだめで、経営診断という横串を通さないと、JA改革の第1に掲げる農業所得の増大にはつながりません。第64回の全国大会では、横串を通すことの必要性を確認する大会にしたいと思っています。
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