強まる米国対日市場開放要求【萩原伸次郎・横浜国立大学名誉教授】2018年4月6日
・首切り続くトランプ政権の内幕
米国のトランプ大統領は昨年1月の政権発足以来、意見の異なる政権幹部を次々と更迭してきたが、ここに来て国務長官や大統領補佐官を交代させ、さらに中国をターゲットにした関税引き上げなど、強行な姿勢を強めている。4月から5月にかけて日米首脳会談、米朝首脳会談が行われるが米国は日本に対してどのような姿勢をとるのか。最近の米国政権の動向と日米首脳会談の課題などを萩原伸次郎氏に指摘してもらった。
◆「私は馬鹿ではない」
トランプ大統領による政権幹部の首切りが継続している。
ティラーソン国務長官に続く、国家安全保障担当補佐官のマクマスター補佐官の首切りは、アメリカの対外政策の焦眉の急、北朝鮮との直接対話をこの5月に控えて、大きな問題を提起している。というのは、ティラーソン国務長官の後任に、ポンペイオ中央情報局(CIA)長官を充て、マクマスター補佐官の後任には、ボルトン元国連大使を充てると発表されたからだ。
トランプ大統領とティラーソン国務長官とは、北朝鮮問題のアプローチの違いから不仲がささやかれていた。トランプ大統領が、金正恩朝鮮労働党委員長を「小さなロケットマン」(small rocket man)と揶揄し、「北朝鮮を武力で完全に破壊する」などという物騒な発言を、ティラーソン国務長官は批判し、「大統領は馬鹿(moron)だ」といったことが一般に知れ渡った。
モロン(moron)とは、英語で知能的に低い馬鹿という意味だが、そういわれた大統領が、わたしは、馬鹿ではないなどと記者たちの前で反論する光景は、異常な事態だったし、ティラーソン国務長官はその発言を取り消すことも行わず、「わたしは大統領のためではなく、アメリカ国民のために仕事をする」といって国務長官を辞任することなど考えもしなかった。しかし、この解任劇は、3月13日のツイッター上で表明され、ティラーソン国務長官は、そのとき、アフリカ訪問中だった。
後任のポンペイオは、陸軍士官学校の出身、CIA長官につく前は、下院議員だった。彼は、トランプ大統領に、「忠実」な人物、北朝鮮問題ではトランプ大統領と同じ強硬派であり、ティラーソン国務長官と違って、イラン核合意破棄を主張している。
(写真)トランプ大統領
◆右旋回する米政権
マクマスター国家安全保障担当補佐官の解任は3月22日、やはり大統領自身のツイッターで発表され、外交政策実行上重要な任務にあるこの補佐官を4月9日付けで解任するとした。
マクマスター解任の直接的要因は、かれが、トランプ大統領に、「再選されたロシア大統領プーチンに祝辞を送ることはやるべきではない」と進言し、それが、マスメディアにリークされ、大統領がそれに対し憤慨したことが影響しているようだ。再選されたロシア大統領プーチンには、最近ロンドンで暗殺されたロシア人スパイの件で、その黒幕という疑惑が払しょくされず、23人のロシア人外交官がイギリスから国外追放にあっている。そんな状況にあるプーチン大統領に、祝辞を、たとえ形式的であろうと送るべきではないというのが補佐官の進言だったようだ。
しかし、トランプ大統領は、それを無視してプーチン再選の祝辞を送った。しかも、トランプ大統領によれば、マクマスターの発言は、常々説教じみて長ったらしく、それが癪に触っていたようだ。マクマスター補佐官は、昨年の2月12日、あのロシア疑惑で解任せざるを得なかった、マイケル・フリンの後任であり、ティラーソン国務長官と同様、ロシア関係については、厳しい姿勢で臨むという考えの持ち主だった。
後任に就くことが予定されているボルトン元国連大使は、北朝鮮問題では、武力行使も辞さないという強硬派であり、ブッシュ政権下では、2003年に引き起こしたイラクに対する先制攻撃を当然視する、新保守主義(ネオコン)の中心人物だ。アメリカの右派メディアFOXニュースでコメンテーターを務めている。
(写真)ポンペイオ中央情報局(CIA)長官 photo by Gage Skidmore Follow
こうしてみてくると、トランプ政権の外交政策は完全に右旋回し、北朝鮮をめぐってきな臭い状況が起こりかねない事態となっている。それを察知してか、北朝鮮が動き出した。3月26日、中朝首脳会談が行われ、北朝鮮が6か国協議に復帰の意向を示し、朝鮮半島非核化実現への尽力は一貫した立場であると強調、南北と米朝首脳会談行うにあたって、中国の後ろ盾を得るというしたたかな戦略に打って出た。
ホワイトハウスでは、昨年から政権幹部が次々と辞任している。フリン国家安全保障担当補佐官、バノン主席戦略官、プリーバス首席補佐官、スパイサー報道官、スカラムチ広報部長、パウエル国際担当副補佐官、プライス厚生省長官などが政権を去った。さらに、プリーバスの後任であるケリー首席補佐官やロシア疑惑関連でセッションズ司法長官やローゼンシュタイン司法副長官などもトランプ大統領は首を切りたいようだ。
特に、ローゼンシュタインは、ロシア疑惑捜査のためマレー独立検察官を任命した人物で、できれば、ローゼンシュタインの首を切り、つづけてマレー独立検察官の任務を解き、ロシア疑惑の幕引きを図りたいのがトランプ大統領の腹の内というものだろう。
◆米中で貿易戦争か?
経済政策関連でいうと、ゲーリー・コーン国家経済会議議長が、この3月6日、辞任した。コーンは、自由貿易派の考えの持ち主だが、トランプ政権の保護主義に嫌気がさしたのかもしれない。
トランプ政権は、3月1日、鉄鋼とアルミの輸入品にそれぞれ25%、10%の関税をかけると表明した。この措置には、3月13日投票のペンシルベニア州第18選挙区の連邦下院議員補欠選挙において、共和党候補の勝利を後押ししようとする大統領の思惑があった。事実大統領は、このラストベルト(さび付いた地域)の選挙区を直接訪れ、鉄鋼、アルミの関税で、雇用が戻ることを強調し、自分の政策の正当性を訴えた。大統領選では、ヒラリー・クリントンを20ポイントも引き離してトランプが圧勝した地域だが、結果は、民主党の勝ちとなった。
この関税措置に関しては、カナダ、メキシコ、EU、中国などが、猛反発、アメリカ国内においても、鉄鋼、アルミを使用して製品を作る自動車、ビール業界(アルミ缶)などが反対しており、トランプ大統領は、カナダ、メキシコ、韓国、EUは、適用除外とせざるをえなかった。しかし、日本は適応を除外されてはおらず、トランプ政権が、この関税措置をチラつかせ、日米経済関係でこれまで以上の日本の譲歩を迫るのは必至だろう。
この関税措置のターゲットは、中国にあることは明らかだ。トランプ大統領は、政権発足当時から、新たに国家通商会議を創設、その議長に、対中強硬派のピーター・ナバロ、カリフォルニア大学教授を任命した。この関税攻勢は、ロス商務長官とライトハイザー米通商代表によって仕切られている。
中国に関しては、この鉄鋼、アルミの関税措置のみならず、知的財産権侵害への制裁措置へ、600億ドルの輸入品への関税をかける意向を表明、ライトハイザー米通商代表へそのリストの作成を命じた。中国は、即対抗措置を発表、アメリカへの報復関税128品目、果物、ドライフルーツ、ワイン、継ぎ目なし鋼管など、約30億ドル、4月2日から最高25%の高関税をかけると発表した。
(写真)萩原伸次郎・横浜国立大学名誉教授
◆圧力増す日米FTA
日本に対しては、トランプ政権は、かねてよりFTA(2国間自由貿易協定)交渉を求めてきた。日本は、TPP(環太平洋経済連携協定)を進める立場だから、日米2国間交渉を避けてきた。4月の安倍首相の訪米でトランプ大統領が、日米経済不均衡を理由に、従来以上に2国間交渉を要求してくることは明らかだろう。
日本とEPA(経済連携協定)を結ぶオーストラリアからは、関税の低い牛肉が、日本市場に入ってきているから、アメリカの畜産農家の不満は高まっている。3月30日に米国通商代表部が発表した『2018外国貿易障壁報告書』によれば、日本については、「広範な障壁」があるとして、食品安全、米や食肉の輸入、保険、自動車、武器購入など多くの分野で対日市場開放を要求していることをわたしたちは、忘れてはならない。
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