【TPP】自民党の対策決定-マルキンなど法制化2015年11月17日
自民党の農林水産戦略調査会と農林部会の合同会議は農林水産分野のTPP対策を11月17日に決めた。農業分野も含めて党として20日に全体的なTPP対策を決め、それをふまえて政府は25日に「総合的なTPP関連政策大綱」を決める。
13日には素案を提示し議論、出された意見をふまえて16日に「農林水産分野におけるTPP対策」(案)を示した。
「農政新時代-努力が報われる農林水産業の実現に向けて」と題されている。
党での議論で、日本農業を国民が支えていく重要性とTPP対策を国民に理解してもらうことが必要との意見が出されたことをふまえ「国民のみなさんへ」のタイトルでこの対策の狙いなどを記した。
17日の会合で小泉農林部会長は当初、"農業新時代"としていたタイトルを「農政」と変更したことについて「われわれ政治の側が変わらなければならないということ」と強調した。
対策は▽生産者の不安払しょく、▽成長産業化に取り組む生産者の最大限の力の発揮、▽夢と希望の持てる農政新時代の創造を目標を対策を整理し、28年秋をめどに「生産者を始め国民の意見を聞きながら政策の具体的内容を詰める」のが基本的考え。
対策の具体的項目は体質強化対策として8項目、重要5品目関連の経営安定・安定供給の備えとして米、麦、牛肉・豚肉・乳製品、甘味資源作物の4項目を挙げた。
米では政府備蓄米の棚上げ備蓄期間を現在の原則5年間から3年程度に短縮し、米国・豪州向けの国別枠の輸入量に相当する国産米を政府が備蓄米として買い入れる。
畜産では牛と豚の経営安定対策であるマルキン事業を法制化する。また補てん率を8割から9割に引き上げるととともに豚マルキンの国庫負担水準を「国1対生産者1」から「国3対生産者1」に引き上げるなどの措置を講じるなど、対策の基本が決まっているものもあるほか、来年の通常国会で法改正を行うものも見込まれるが、対策の具体化に向けて議論はこれからも続く。小泉部会長は「今回の対策はここで終わりではない、ということも一つのメッセージであると理解してほしい」と強調している。
(写真)農林水産分野のTPP対策を決めた自民党の合同会議 11月17日
(対策全文を掲載)
農林水産分野におけるTPP対策
【農政新時代】~努力が報われる農林水産業の実現に向けて~
平成27年11月17日 自由民主党
農林水産戦略調査会 農林部会
国民の皆さんへ
今日、日本の食が、国内外で高い評価を得ています。和食は世界遺産となり、ミラノ万博では連日日本の食を求め、多くの人が行列をつくり、日本にやってくる多くの外国人観光客も日本の食を楽しみの一つにしています。
私たち日本人の日々の生活においても、青果・精肉・鮮魚店、コンビニやスーパーでは毎日バラエティに富んだ食材・商品があふれ、多様な飲食店がまちを彩り、全国各地に展開する道の駅では、地元の新鮮な農林水産物が賑わいの源になっています。
この豊かな日本の食を創り出しているのが現場の生産者です。そして、生産者の方々が営々と続けてきた農林水産業が、中山間地域を含む美しく活力ある地域を創り上げてきました。これらの地域をこれからも守っていかなければいけません。
TPP大筋合意を受け、いま、日本の農政は農政新時代とも言うべき新たなステージを迎えています。生産者の持つ可能性と潜在力をいかんなく発揮できる環境を整えることで、次の世代に対しても日本の豊かな食や美しく活力ある地域を引き渡していけると確信しています。
今こそ我々政治の側が変わらなければなりません。この新しい時代に立ち向かおうとしている現場の生産者の努力や挑戦を皆さんとともに全力で支えます。
そして、消費者の皆さんの日々の選択こそが、生産者を支え、日本の食の未来を形づくる基礎になります。
今後は、農林水産業の持つ様々な価値や魅力、日本の食の潜在力や安定供給の重要性などに対する理解や信頼を高め、皆さんとともに農政新時代を日本の農林水産業の輝ける時代にしていく決意です。
Ⅰ基本的考え方
1 生産者の不安を払拭するために
農林水産業・農山漁村の維持発展に貢献している生産者の不安を払拭し、希望を持って経営できるようにする。
○TPP合意のマイナス影響を抑制するための万全の措置
○経営安定対策の充実(既存の政策の見直し・改善を含む)
2 成長産業化に取り組む生産者がその力を最大限に発揮するために
輸入品からの国内市場の奪還、輸出力の強化、マーケティング力の強化、生産現場の体質強化・生産性の向上、付加価値の向上など、成長産業化に取り組む生産者を応援する。
○競争力強化・体質強化対策の充実(既存の政策の見直し・改善を含む)
○農政新時代を支える革新的技術の研究開発
3 夢と希望の持てる農政新時代を創造するために
未来の農林水産業・食料政策のイメージを明確にするとともに、生産者の努力では対応できない分野の環境を整える。
○農政新時代に必要な人材力を強化するシステムの整備
○生産者の所得向上につながる生産資材(飼料、機械、肥料など)価格形成の仕組みの見直し
○生産者が有利な条件で安定取引を行うことができる流通・加工の業界構造の確立
○真に必要な基盤整備を円滑に行うための土地改良制度の在り方の見直し
○戦略的輸出体制の整備
○原料原産地表示など
以上について、28年秋を目途に、生産者を始め国民の意見を聞きながら、政策の具体的内容を詰める。
このため、[農林水産業骨太方針策定PT]を設置し若者を含めた生産者、経済界、有識者の参画を得て、「農林水産業・食料2050」、「農政新時代人材力強化」、「輸出力強化」などについて継続的に検討を進める。
Ⅱ 今回決定する対策の項目
従来から、農林水産業の成長産業化を促進する産業政策と多面的機能の維持・発揮を促進する地域政策を車の両輪として進める「農林水産業・地域の活力創造プラン」に基づき実施している政策に加えて、TPP対策として追加又は拡充する対策は次のとおりである。
1 攻めの農林水産業への転換(体質強化対策)
関税削減により長期的に国内農林水産業への影響が懸念される中で、農林漁業者の将来への不安を払拭し、経営マインドを持った農林漁業者の経営発展に向けた投資意欲を後押しする以下の対策を講ずる。
(1)次世代を担う経営感覚に優れた担い手の育成
農業者の減少・高齢化が進む中、今後の農業界を牽引する優れた経営感覚を備えた担い手を育成・支援することにより人材力強化を進め、力強く持続可能な農業構造を実現する。
具体的には、意欲ある農業者の経営発展を促進する機械・施設の導入、無利子化等の金融支援措置の充実、農地中間管理事業の重点実施区域等における農地の更なる大区画化・汎用化、中山間地域等における担い手の収益力向上を推進する。
(2)国際競争力のある産地イノベーションの促進
水田・畑作・野菜・果樹の産地・担い手が創意工夫を活かして地域の強みを活かしたイノベーションを起こすのを支援することにより、農業の国際競争力の強化を図る。
具体的には、新たに産地パワーアップ事業を創設し、地域の営農戦略に基づき農業者等が行う高性能な機械・施設の導入や改植などによる高収益作物・栽培体系への転換を図るとともに、水田の畑地化、畑地・樹園地の高機能化、新たな国産ブランド品種や生産性向上など戦略的な革新的技術の開発、農林漁業成長産業化支援機構の更なる活用、製粉工場・製糖工場等の再編整備を推進する。
(3)畜産・酪農収益力強化総合プロジェクトの推進
省力化機械の整備等による生産コストの削減や品質向上など収益力・生産基盤を強化することにより、畜産・酪農の国際競争力の強化を図る。
具体的には、畜産クラスター事業を拡充するとともにこれを後押しする草地の大区画化、和牛の生産拡大、生乳供給力の向上、豚の生産能力の向上、畜産物のブランド化等の高付加価値化、自給飼料の一層の生産拡大、畜産農家の既往負債の軽減対策、家畜防疫体制の強化、食肉処理施設・乳業工場の再編整備を推進する。
(4)高品質な我が国農林水産物の輸出等需要フロンティアの開拓
米・牛肉・青果物・茶・林産物・水産物など重点品目の全てで輸出先国の関税が撤廃される中、高品質な我が国農林水産物の一層の輸出拡大、輸出阻害要因の解消、6次産業化・地産地消による地域の収益力強化等により、攻めの農林水産業を推進する。
具体的には、米・牛肉・青果物・茶・林産物・水産物などの重点品目ごとの輸出促進対策、戦略的な動植物検疫協議、日本発の食品安全管理規格等の策定、産地と外食・中食等が連携した新商品開発、訪日外国人旅行者への地域農林水産物の販売促進を推進する。
(5)合板・製材の国際競争力の強化
原木供給の低コスト化を含めて合板・製材の生産コスト低減を進めることにより、合板・製材の国産シェアを拡大する。
具体的には、大規模・高効率の加工施設の整備、原料供給のための間伐・路網整備を推進する。併せて違法伐採対策を講ずる。
(6)持続可能な収益性の高い操業体制への転換
浜の広域的な機能再編等を通じて持続可能な収益性の高い操業体制への転換を進めることにより、水産業の体質強化を図る。
具体的には、広域浜プランに基づく担い手へのリース方式による漁船導入、産地の施設の再編整備、漁船漁業の構造改革、漁業経営セーフティーネット構築事業の運用改善等を推進する。
(7)消費者との連携強化
消費者の国産農林水産物・食品に対する認知度をより一層高めることにより、安全・安心な国産農林水産物・食品に対する消費者の選択に資する。
具体的には、大規模集客施設での販促活動、商工会議所・商工会等と連携した新商品開発、諸外国との地理的表示の相互認証を推進する。併せて、病害虫等の侵入防止など動植物検疫体制を強化する。
(8)規制改革・税制改正
攻めの農林水産業への転換を促進する規制や税制の在り方を検証し、実行する。
2 経営安定・安定供給のための備え(重要5品目関連)
関税削減等に対する農業者の懸念と不安を払拭し、TPP協定発効後の経営安定に万全を期すため、生産コスト削減や収益性向上への意欲を持続させることに配慮しつつ、経営安定対策の充実等の措置を講ずる。
(1)米
国別枠の輸入量の増加が国産の主食用米の需給及び価格に与える影響を遮断するため、消費者により鮮度の高い備蓄米を供給する観点も踏まえ、毎年の政府備蓄米の運営を見直し(原則5年の保管期間を3年程度に短縮)、国別枠の輸入量に相当する国産米を政府が備蓄米として買い入れる。
(2)麦
マークアップの引下げやそれに伴う国産麦価格が下落するおそれがある中で、国産麦の安定供給を図るため、引き続き、経営所得安定対策を着実に実施する。
(3)牛肉・豚肉、乳製品
国産の牛肉・豚肉、乳製品の安定供給を図るため、畜産・酪農の経営安定対策を以下のとおり充実する。
○肉用牛肥育経営安定特別対策事業(牛マルキン)及び養豚経営安定対策事業(豚マルキン)を法制化する。
○牛・豚マルキンの補填率を引き上げるとともに(8割→9割)、豚マルキンの国庫負担水準を引き上げる(国1:生産者1→国3:生産者1)。
○肉用子牛保証基準価格を現在の経営の実情に即したものに見直す。
○生クリーム等の液状乳製品を加工原料乳生産者補給金制度の対象に追加し、補給金単価を一本化した上で、当該単価を将来的な経済状況の変化を踏まえ適切に見直す。
(4)甘味資源作物
国産甘味資源作物の安定供給を図るため,加糖調製品を新たに糖価調整法に基づく調整金の対象とする。
3 対策の進め方
(1)対策の財源については、TPP協定が発効し関税削減プロセスが実施されていく中で将来的に麦のマークアップや牛肉の関税が減少することにも鑑み、既存の農林水産予算が削減・抑制されることなく安定財源を確保する。
(2)また、機動的・効率的に対策が実施されることにより生産現場で安心して営農ができるよう、基金など弾力的な執行が可能となる仕組みを構築するものとする。
4 対策の効果検証・検討の継続
(1)1の施策の推進に当たっては、事業成果が着実に上がるよう、定量的な成果目標を設定し進捗管理を行うとともに、既存施策を含め施策の不断の点検と見直しを行う。
(2)今後、次の項目を中心に検討する。
○農政新時代に必要な人材力を強化するシステムの整備(再掲)
○生産者の所得向上につながる生産資材(飼料、機械、肥料など)価格形成の仕組みの見直し(再掲)
○生産者が有利な条件で安定取引を行うことができる流通・加工の業界構造の確立(再掲)
○真に必要な基盤整備を円滑に行うための土地改良制度の在り方の見直し(再掲)
○戦略的輸出体制の整備(再掲)
○原料原産地表示(再掲)
○チェックオフ制度の導入
○従前から行っている収入保険制度の導入に向けた検討の継続
○農家が安心して飼料用米に取り組めるよう、食料・農業・農村基本計画に明記された生産努力目標の確実な達成に向け、生産性を向上させながら、飼料用米を推進するための取組方策
○配合飼料価格安定制度の安定運営のための施策
○肉用牛・酪農の生産基盤の強化策の更なる検討(再掲)
○農村地域における農業者の就業構造改善の仕組み
(3)さらに農林水産業の成長産業化を一層進めるために必要な戦略や具体的施策について検討し、実現していくものとする。
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