【TPP】秋田県の生産減少287億円 政府試算の24倍-県中央会公表2016年3月9日
JA秋田中央会は3月8日、TPPが秋田県農業と関連産業に及ぼす影響についての推定結果を公表した。
東京大学の鈴木宣弘研究室が試算した。
政府が昨年12月に公表したTPP協定の影響試算では農産物合計で約878億円~約1516億円の生産減少額としていた。秋田県が受ける影響を国の試算方法によって推定すると7.1億円~14.2億円となる。
しかし、鈴木研究室の試算では217億円~287億円と国試算と約24倍もの開きが出た。試算は秋田県の25年度農業産出額1716億円をもとにした。最大で17.7%減少する推計結果だ。
鈴木教授は国の影響試算が国内対策の実施を前提にし、関税削減・撤廃で農産物価格が下がっても生産量や所得への影響はないとしていることを「影響→対策の順で検討すべきを対策→影響なし、と本末転倒だ」と批判。たとえば米について、政府は輸入が増えても備蓄米を増やして影響を隔離するとしているが「在庫が順次市場に出てくることを織り込んだ価格形成が行われるから主食用の価格は下がる」などとして全国ベースで1000億円の生産額減少が推定されるという試算結果をすでに発表している。
秋田県に同様の考え方を主要品目(84品目)ごとに当てはめて試算した。このうち米の生産額は1012億円だが、TPP協定によって68億円減少すると推定した。生産額171億円の豚は83億円の減少。46億円ある肉用牛も19億円減少するとの結果で打撃が大きい。
農業の生産減少による全産業の生産減少額は約336億円~444億円。波及倍率は1.55倍だという。
雇用に与える影響も大きく、対象品目の生産に関わる農業で約9700人~1万3000人、全産業で約1万1000人~1万4000人の減少が見込まれる。
県内の総生産(GDP)は約188億円~248億円の減少となり、TPP協定によってGDPを0.54%~0.71%押し下げることになる。生産減少、就業者数の減少を通じた家計消費の減少額は、約92億円~121億円。GDP低下率の0.54%~0.71%のうち、0.26~0.35ポイントの寄与となる。
鈴木教授はTPP協定によって水田面積が3.7%程度減少すると試算しており、これを秋田県の水田にあてはめると水田の持つ多面的機能は115億円失われるという。
◆国会審議に生かせ
鈴木教授は対策を前提に極端に過小評価している国の影響試算と大きな差が出るのは当然だとして、「国は極めて合理性に欠ける試算方法の活用を県に通達すべきではない」と強く批判している。
前提条件が違うとはいえ専門家による推計で国の試算と24倍もの差が出たことに現場は不信が高まる。
実際、山形県知事は当面は国の試算方法を活用しない方針を示したほか、県によっては一部品目について独自の試算も行っている。
また、岩手県は国の算出方法で機械的に推計し約40億円~73億円減少との結果を公表している。米の生産減少額は国と同様にゼロ。ただし、同県は「国内対策で所得が確保され生産量が維持されることを前提にしているものであり、実際の本県への影響額はこれより大きくなるものと想定される」と注釈をつけている。
政府は3月8日にTPP協定文を承認案として関連対策とともに閣議決定し今後、国会審議が行われる。生産現場は政府の試算結果に対して疑問と不信が根強く、将来不安は森山農相が言うほど(8日の会見)解消などされていない。TPP合意が国会決議を守れたかどうか。農業への影響試算は妥当なものかどうか、さらに食の安全性、医療保険制度などの懸念まで含めてしっかり審議することが国会議員に求められる。拙速な審議は決して許されない。
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