トップページにもどる 農業協同組合新聞 社団法人農協協会 農協・関連企業名鑑

検証・最近の米情勢 (1)

マージン確保 VS 消費者の低価格志向
 ジレンマに陥るコメ卸業界

 11年産米自主流通米価格は、6月23日の入札で1万6818円(60キロ)となった。2月の入札以来、わずかに上昇しているが、10年産の平均価格と比べると60キロあたり2000円近くも下がったままだ。米価暴落が問題となり、過去最大の生産調整目標面積や経営安定策を盛り込んだ「新たな米政策」が打ち出された9年産米の平均指標価格1万7625円よりも低い水準。産地からは「米価が安く生産者の意欲が薄れてきている」、「減反実施者がバカを見る状況になりつつある」(本紙のアンケート調査より。詳細は4、5面)などの声もあがっている。なぜ、このような状況になってしまったのか。米販売業界の動向をレポートする。

検証・最近の米情勢 (2) 計画流通米の確保が最大の課題 JAグループの取り組み


◆価格反転したが拡大した落札残

 11年産第12回自主流通米入札が6月23日に行われたが、ある意味で最近のコメの販売状況を象徴するような結果となった。
 落札加重平均価格(指標価格)は前回の5月入札の指標価格(1万6813円)比5円のアップ1万6818円となった。価格自体が低水準で推移している事には変わりがないが、一応2月から5ヵ月連続の反転という事になる。

自主流通米の指標価格の推移(全銘柄平均)

平成11年産第12回入札取引 (平成12年6月23日) における指標価格の水準

平成11年産 第12回入札取引結果 (平成12年6月23日)

 しかし落札残数量は逆に拡大し、今回は前回の115トンから379トンに増大。落札残が発生したのは新潟一般コシヒカリ(1315トン)、新潟魚沼コシヒカリ(392トン)、新潟岩船コシヒカリ(345トン)、栃木コシヒカリ(194トン)、秋田あきたこまち(720トン)などで、これまで最大の売れ筋商品として人気を集めてきたはずの産地銘柄が軒並み売れ残りを出す格好になったからだ。
 何故、こういう結果になったのか。この背景には消費者の低価格米志向に伴う米卸の動向の変化がある。新潟コシヒカリや新潟魚沼コシヒカリ、秋田あきたこまちなどが現在でも量販店等に於ける最大の売れ筋商品の地位を維持している事には変わりがない。量販店や米卸から見ても、ブランドイメージが定着し今更、特段の宣伝等を行わなくても一定の販売を見込める新潟コシヒカリや秋田あきたこまちは、売りやすいアイテムである事は間違いない。

 だが、不景気の影響なのか量販店等に於けるコメの売れ筋商品に変化が発生、「小売価格が5kg1980円でないと売れない(売れ行きが落ちる)」(複数の米卸)ような状況が発生。これに替わる形で各種の安い銘柄や古米などを使用したいわゆるブレンド米やBランクのコメが人気商品として台頭してくる形になってきているからだ。

◆売上げ伸ばすブレンド米

 これを裏付けるように単品銘柄志向が強いと言われていた関東方面でもブレンド米が売れる事例が増加。例えば大手卸であるヤマタネが量販店の西友向けに開発したブレンド米「ふっくらごはんで元気一杯」は、秋田あきたこまちなどのブランド商品に肉薄する売上を記録するまでになった。同じく大手卸のミツハシが量販店向けに投入している「大満足コシヒカリ」「大満足あきたこまち」等のブレンド米のシリーズ商品も順調に売上を伸ばし、今や定番アイテムとしてすっかり定着してきた。

 関西方面では昔からブレンド米が認知されていたが、関東ではブレンド米は売れないというのが定説だった事を考えると、実は劇的な変化が起きている事を意味する。ミツハシの「大満足シリーズ」の場合、前述通り普通のブレンド米と異なり銘柄だけはコシヒカリ、あきたこまちと指定している。だが、コシヒカリやあきたこまちの作付が全国的に広がった現状であれば、原料に新潟コシヒカリや秋田あきたこまちを使用する必要は特段ない。
 またミツハシの「大満足シリーズ」にせよ、ヤマタネの「ふっくらごはんで元気一杯」にしろ、小売価格は全て5kg2000円割れの1800円から1900円程度の設定になっているが、小売価格を5kg2000円割れで設定するためには、精米や袋詰めの経費などを差し引くと玄米60kg換算で1万6000円程度でないと採算が合わない。

 このため、今回の入札価格が1万6507円の秋田あきたこまちでは原料としては使いにくく、例えば同じあきたこまちでも秋田よりも岩手(今入札の指標価格は秋田産より500円安い1万6000円)産などに仕入れをシフトするというように、秋田あきたこまち自体の需要が縮小傾向が出てきたと考えられるからだ(もちろん1万6507円という価格は1等米換算だから、秋田あきたこまちでも2等米を使えば5kg2000円以下での販売は可能。ミツハシやヤマタネのブレンド米の事例を挙げたが、ブレンド原料は各社とも企業秘密だから、ブレンド米の販売増加が秋田あきたこまち等の販売不振の原因とは必ずしも言えない。ブランド離れのひとつの例としてあえて紹介したに過ぎない)。

◆5キロ2000円割れが定着

 ただ小売価格が5kg2000円割れでないと売れない状況が定着してきた事は、非常に重い課題をコメ業界全体に投げ掛ける格好になってきている。@売れ筋の小売価格が5kg2000円割れとなった事で、米卸は仕入れを可能な範囲で60kg1万6000円以下の産地銘柄にシフト、A同じ銘柄に比べて、どうしても割高な価格になる新潟コシヒカリや新潟魚沼コシヒカリ、秋田あきたこまちが恒常的に売れ残る可能性が出てきたB売れ残る産地銘柄なら、何も慌てて買う必要がないから各卸は在庫を持たなくなるC各卸が流通在庫を絞る事で、実態以上に需給がダブ付く構図になってきている−からだ。

◆低価格志向で残るブランド米

 また新潟コシヒカリ等のブランド米も60kg1万6000円を睨んだ価格になれば売れるのだが、新潟コシヒカリが例えば1000円下がれば他産地のコシヒカリ等もこれに併せて下落、単なる値下げ合戦に陥る恐れがあるからだ。

 つまり@消費者の低価格米志向が続く限り、新潟コシヒカリ等のブランド米が売れ残り、これが米価を引き下げる方向に作用する恐れがあるAそうかと言って、新潟コシヒカリなどの価格がどんどん下がれば値下げ合戦という産地間競争になりかねず、新潟コシヒカリ、秋田あきたこまち等のブランド米は安易に値下げ出来ないB新潟コシヒカリが現行の価格水準を維持していると、やはり売れ残りが発生。需給がなかなか締まらない−という悪循環に陥りつつある事がポイント。
 冒頭で、今回の入札結果を最近のコメの販売状況を象徴するような結果とした所以である。

◆コメ卸業界にジレンマ

 ただ米卸もこれ以上の米価下落を望んでいる訳では決してない。販売業者側から見た場合、米価が高い方がマージンを確保出来るからだ。それでも米価低迷の悪循環に陥っている事に対し、ある大手米卸では「新潟コシヒカリ等の比較的高いブランド米だけを納入していたら、量販店から取引を中止されてしまう。米卸は400社もあり、一部の卸がブランド商品を大切にしようとしても安いコメを供給するライバル会社が現れるからだ。また量販店どうしの競争も激しく、安いコメを販売出来ない量販店はどんどん脱落していくからだ。米価下落に懸念を抱きつつも、消費者の低価格米志向に引きずられる格好で、コメ業界は次第にこうしたジレンマに陥りつつあるのが実情ではないか」と話している。

 

検証・最近の米情勢 (2) 計画流通米の確保が最大の課題 JAグループの取り組み


 

農協・関連企業名鑑 社団法人農協協会 農業協同組合新聞 トップページにもどる

農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
webmaster@jacom.or.jp