座談会 「WTO農業交渉 10の争点」 「多様な農業の共存」の時代をどう実現するのか |
明治大学農学部教授 | JA全国農協青年組織協議会会長 | 東洋大学経済学部教授 |
滝沢 昭義 氏 | 若林 英毅 氏 | 服部 信司 氏 |
(たきざわ・あきよし)昭和10年山形県生まれ。北海道大学大学院修了。平成2年より現職。主な著書に『農産物物流経済論』(日本経済評論社)、『激変する食糧法下の米市場』(共編著・筑波書房)、『日本のコメはどうなる』(リベルタ出版)、『現代の農業市場』(共著・ミネルヴァ書房)、『米流通・管理制度の比較研究』(共著・北大図書刊行会)、『流通再編下の食料・農産物市場』(共編著・筑波書房)など多数。 |
(わかばやし・ひでき)昭和35年山形県生まれ。置賜農業高等学校卒業後、就農。平成11年度山形県農協青年組織協議会委員長、12年度JA全国青年組織協議会会長。水稲4.4ヘクタール、受託3.6ヘクタール、採草地2ヘクタール、繁殖牛26頭。 |
(はっとり・しんじ)昭和13年静岡県生まれ。東京大学経済学部卒。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。岐阜経済大学助教授、教授を経て、平成5年より現職。食料・農林漁業・環境フォーラム幹事長を兼務。おもな著書に『WTO農業交渉』(農林統計協会)、『大転換するアメリカ農業政策』(農林統計協会)、『先進国の環境問題と農業』(富民協会)など多数。 |
司会 農政ジャーナリスト 並河一雄 氏 |
本紙では、第47回全国青年大会の開催を期に、本格化するWTO農業交渉に向けて一人ひとりの農業者が営農や生活の現場から考えるために「WTO10の争点」(下表)を提起し、本紙ホームページの掲示板「談話室」でディスカッションを始めている。そこで、掲示板で幅広い議論を起こすため、今回、座談会を企画。JA全青協の若林会長に全青協としてのWTO農業交渉に対する考え方や今後の運動方針を聞くとともに、服部信司東洋大学教授と滝沢昭義明治大学教授と10の争点について議論してもらった。生産現場からの力強い運動づくりに役立てば幸いである。(『談話室』テーマと論点) |
@ | 「改革過程の継続」を前提とすれば、関税率については"引き下げ交渉"となるがどう対応するべきか。 | 2ページ |
A | 米の高関税率は維持できるのか。 | |
B | ミニマム・アクセス機会(3%〜5%)の提供制度についてどう改善交渉をするのか。また、ミニマム・アクセスの拡大を求められたらどうするのか。 | |
C | 特別セーフガードの維持、及び一般品目への拡大は可能か。 | |
D | 価格支持などの「黄」の政策の削減についてどう交渉するのか。 | 3ページ |
E | 「青」の政策についてどういう主張をするのか。 | |
F | 条件不利地域への直接支払いなどの「緑」の政策の維持、拡大をどう主張し、 交渉するのか。 | |
G | 輸入国の立場から輸出制限などについてどう改善を図るか。 | 4ページ |
H | 輸出補助金についてどう主張するのか。 | |
I | 食料援助についてどう主張するか。 |
WTO農業交渉の現状と「日本提案」をどうみるか 並河 論点の議論に入る前にWTO農業交渉の経過と現段階の状況についてまず服部先生から総括的に解説していただけますか。 各国提案の特徴 並河 各国の提案のポイントを解説していただけますか。 服部 米国の提案は、関税に関しては各国間の関税の不均衡を削減、ないし撤廃すべきとしているのが一つの特徴です。これは高い関税の品目に関しては大幅に下げるべきだということを言外に言っているわけです。 これは米国やケアンズグループの大幅削減への対抗案として出したと考えていいと思います。 並河 では、日本提案についてみなさんはどう評価されていますか。 服部 日本提案の重要な特徴は、ミニマム・アクセスについて制度の改善(それをとおした削減)を提起したこと、腐敗性作物についての新しいセーフガードを提案したこと、そして、輸出補助金に関しては「引き続き削減する」として、EUと同じ「削減の立場」を出したことだと思っています。これはEUと多面的機能を軸に連携するために打ち出したのだと思います。私は、日本政府は大変な決断をしたと評価しています。 若林 本題に入る前に話しておきたいのは、米国もケアンズ・グループも、国と農業者の間では考え方に違いがあるということを世界青年農業者大会などに出席して感じたことです。たとえば、米国でも、農業者が地下水が枯渇して砂漠化が進んでいることを懸念して、これは農業の多面的機能の問題として考えるべきだという人もいました。ところが、ファーム・ビューローなど政治に近い農業団体では、それは理解できないという発言になる。 滝沢 日本提案を読んでいちばん最初に感じたのは、WTO体制下の6年間で日本農業の変化の状況をいったいどのように捉えているんだろうかということです。つまり、現在の状況を捉えて、それにどう対応するのかという点が必要だと思いますが、そこがあまり見えないのではないかということです。 基本的な方向、つまり、例外なき関税化を行い、しかも関税は徐々に下げていくという路線は不変だという前提なのか、それともその前提までも見直せるのか、そこをふまえて日本提案を吟味してみなくてはならないと思いました。 |
1ページ 2ページ : 「国境措置」の争点−(争点@、A、B、C) 3ページ : 「国内支持」の争点−(争点D、E、F) 4ページ : 「輸出入規律」をめぐって−(争点G、H、I) |
農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
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