◆遺伝子の98%の働きを把握
この研究は2008年、茨城県つくば市にある生物研のほ場で行われた。
遺伝子の研究は実験室の中に特定の環境をつくって行われるのが一般的で、自然環境での実験は極めてまれだ。
実験では、水稲品種の「日本晴」と「農林8号」を使い、移植から収穫まで、イネの葉の遺伝子の働きとイネの生育状況を逐次サンプリングし、そのパターンを測定した。このパターンと、風量・気温・湿度・大気圧・日射量・降水量などの気象データを合致させることで、イネの葉で働く全遺伝子1万7616のうちの、実に98%にあたる1万7193の遺伝子の働きと気象条件との因果関係を推測した。
この推測に基づき、イネの遺伝子の働きやイネの生育が、どういった気象条件の下で発生するかというモデルを構築。このモデルを09年の気象データに当てはめたところ、ほぼ一致したという。
これにより、イネの葉の遺伝子の働きは、気象条件によってほぼ確実に予測できることがわかった。
◆モデル制度の向上が課題
このモデルを利用すれば、気象データや田植えをした日などから、イネの生育状態を知ることができ、また、遺伝子の働きを調べれば、その後の病気の発症や発芽期や出穂期、収量などの正確な予測、その予測に応じた効率的な施肥や防除の実施、などができるようになると期待される。
また、気象庁が持っている過去の気象データと、このモデルを合致させることで、冷害や高温障害、または豊作などがあった時、どのような遺伝子によってそれが引き起こされたのか原因を究明することが可能となり、今後の品種育成や栽培技術の発展が大きく進む可能性もある。
この研究を主導した生物研の井澤毅氏は、「(ほぼすべての遺伝子の働きを推測するという)予想以上の結果が出て、非常に驚いている」。この研究を実用化するには「早くても5年ぐらいはかかる」とのことで、「これから、全国各地のさまざまな環境変動の下で実験を行うとともに、日本晴だけでなくコシヒカリなど主要水稲品種のデータも合わせることで、モデルの精度を実用レベルに上げていきたい」と意欲的だ。 この研究論文は、12月7日付で米国の科学雑誌『Cell』に掲載された。
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