人体に悪影響を及ぼすカドミウムは、土壌から農作物が吸収し、その農作物を食べることで人体に入る。日本人の場合、カドミウム摂取量の4〜5割が米によるものだ。
イネが土壌からカドミウムを吸収するのを防ぐには、客土による汚染土壌の入れ替えや出穂期前後の湛水管理の徹底などがあったが、重労働であったり、カドミウムが減る代わりにヒ素濃度が高まるなどの問題があった。
東大農学部の中西啓仁特任准教授、NIAESの石川覚研究員らの研究チームは平成24年3月、カドミウムをほとんど含まないコシヒカリ「1cd-kmt1」を開発した。
1cd-kmt1は、鉄、マンガン、亜鉛など植物の生育に欠かせない栄養素は吸収するが、生育に必要のないカドミウムはほとんど吸収しない性質を持つ。それにより、1kgあたり0.35〜1.4mgというカドミウム濃度が非常に高い土壌で栽培しても、同0.03mgと極めて低い濃度の米ができる(食品中のカドミウム規制値は1kgあたり0.4mg)。
このたび、同研究チームは、この原因となる遺伝子を特定し、遺伝子(DNA)マーカーを開発した。
遺伝子マーカーとは、個々の遺伝子の配列の違いを識別するための目印。これが特定されると、遺伝子組換え技術を使わずに、従来の交配育種のみで求められる品種を育成することが可能になる。
研究チームは、1cd-kmt1を元にした品種を育成することで、出穂期前後の湛水管理が不要となり、それによりヒ素濃度低減や、水田からのメタンガスの発生削減など、さまざまな効果が期待できるとしている。また、「植物の生育に必要のない物質を吸収しない、という性質は、放射性物質による土壌、食品汚染の問題解決にも重要な示唆を与える」としている。
この研究成果は、同日付で米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」のオンライン版にも掲載された。
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