農政・農協ニュース

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今こそ報徳思想を学び農業・農協の復興を  新世紀JA研究会第10回セミナーinJAはだの(神奈川県)

 2012国際協同組合年をにらんで、今、改めて日本の農村復興運動の祖である二宮尊徳に学び、協同組合運動の基本的精神を考えようと、新世紀JA研究会は7月21、22日の両日、尊徳生誕の地である神奈川県小田原市などを会場として、第10回セミナーinJAはだの「国際協同組合年に向けて尊徳翁に学ぶ―職場の活性化と組合員教育―」を開いた。当初は4月下旬に予定していたが震災のため延期となり、「東日本大震災復興チャリティーセミナー」として開催。被災地JAも含めて全国から120人が参加した。

新世紀JA研究会第10回セミナーinJAはだの◆「行き過ぎた欲望を改め、質素倹約を」鈴木代表

鈴木昭雄代表(福島県・JA東西しらかわ代表理事組合長) 新世紀JA研究会は、JA役職員同士の意見・情報交換を密にし、JAのヨコのつながりを強化しようと平成18年に発足。今年で5周年を迎えた。
 開会式で鈴木昭雄代表(福島県・JA東西しらかわ代表理事組合長)は、「記念すべき10回目のセミナーを、尊徳の理念が息づいているJAはだので開催できたのは意義深い」とあいさつ。また被災地JAの組合長として全国からの支援に謝辞を表し、「(震災をうけて)行き過ぎた欲望を改め、質素倹約を実践しなければならない時代となった。今セミナーで報徳思想を改めて学び、農協経営だけでなく、一人ひとりが生きる意味をも考える2日間にしたい」と期待を込めた。

(写真)鈴木昭雄代表


◆稲わらのセシウム汚染で緊急報告

 セミナーで発表したのは5人。
 古谷義幸・秦野市長は市の農業振興策について、古谷茂男・JAはだの代表理事組合長は「JAの職場が活性化すれば、組合員と地域が元気になり人が集まる」との理念で職場活性化と教育活動に力を入れていることなどを紹介した。
 白石正彦・東農大名誉教授は2012国際協同組合年全国実行委員としてそれに向けたJA役員のあり方について提言し、同委員会副代表で作家の童門冬二氏と報徳博物館館長代理の齋藤清一郎氏は報徳思想とその実践について講演した。
 また、鈴木代表から特別報告として福島県の農家が撮影した、放射性セシウムに汚染された稲ワラを実際に牛が食べているビデオ映像の上映があった。
 「非常にショッキングな内容かもしれないが、ぜひ現状を知ってもらいたい」と鈴木代表が紹介したビデオは、県内のとある農場で撮影されたもの。
 震災前に仕入れた稲ワラからは1時間あたり0.4マイクロシーベルトの放射線しか検出されなかったのに対し、震災後の稲ワラからは同60マイクロシーベルトが検出され、検査に立ち会った生産者らが驚愕するシーンなどを記録。汚染稲ワラを食べた牛の息から同じ程の高い数値が検出されると会場がどよめき、「(実際に映像を見て)ことの重大さを再認識した」などの意見が出た。


◆協同組合憲章、JA組合員憲章の制定めざす

 毎セミナー終了時に採択している大会アピールは東日本大震災へへの対応やTPP反対運動の強化など7項目を盛り込んだ(概要別掲)。
協同組合憲章、JA組合員憲章の制定めざす 政府の震災対応については、JAグループの要請内容の実現、義援金の迅速な配分と複数年にわたる活用、固定資産取得にあたっての圧縮記帳の措置などの対策のほか、エネルギー政策の転換を求めていく。
 TPPでは反対運動強化とともに、国民への情報公開を進めることなどを政府、JAグループに対して求めていく。
 また、2012国際協同組合年全国実行委員会が取り組もうとしている「協同組合憲章」の制定を強く求めるとともに、組合員に協同組合員としての自覚を促すための「JA組合員憲章」(仮称)の起草に向けた研究を始めること、などを決めた。
 新世紀JA研究会代表らは、この大会アピールを基にして8月中旬にJAグループ全国連や政府などに対して要請活動を行う予定だ。


◆最新設備の野菜工場に高い関心

現地視察 現地視察で訪れたのは尊徳記念館(二宮尊徳の生家)、秦野市で大規模な野菜水耕栽培施設を運営する生産法人「グランパファーム秦野」、JAファーマーズ・マーケットの「はだのじばさんず」。
 グランパファーム秦野は野菜工場の開発でいくつもの特許を取得し、主に外食産業などに向けて農産物を出荷している。今年開発したエアドーム式ハウスは、農産物の成長に合わせて自動で栽培台が動く仕組み。建設費用は573平方mでおよそ3000万円。試算ではレタスならば年間40回の収穫が可能だというその高い生産能力に驚嘆の声が上がった。

◇   ◇

生産法人「グランパファーム秦野」 今セミナーは震災の影響で延期開催となったが、秋には通常どおり第11回セミナーをJAひまわり(愛知県)で開催する。テーマ、日時・会場などは未定。


【大会アピール】 (要約)
1.(東日本大震災について)政府がJAグループの要請に基づき、その実現をはかること、また、原子力に代わる再生可能なエネルギーの開発・推進を計画的に進めることなどを要請する。
2.TPPの推進を即時取り止めるよう運動をすすめ、TPPのもたらす影響を広く国民に公開し、国民全体が十分に議論できるよう情報公開と議論の場を設定するよう求める。
3.23年産米の需給調整、過剰米対策、コメの先物取引上場の廃止、戸別所得補償制度の運用改善、畜産・酪農・園芸対策などについて万全を期す。
4.2012国際協同組合年を迎えるにあたり、政府に対して「協同組合憲章」の制定を求める運動を強化するとともに、国際感覚豊かなJAマンを育成するための制度づくりに取り組む。
5.組合員の組織活動や教育活動を強化し、組合員の権利と義務を明らかにした「JA組合員憲章」(仮称)の研究に取り組む。
6.新世紀JA研究会への加入促進に取り組む。
7.第1回から9回までの申し合わせ・アピール内容の実現をはかる。


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【講演1】
古谷 義幸 氏
秦野市長

◆秦野の地域特性活かし、“地産全消”めざす

nous1107290808.jpg 秦野市は、「耕地には耕地の徳がある。千町歩の開墾もヒトクワから始まる」という尊徳の考えに従い、多品種少量生産という秦野の地域特性を活かした農業振興策を進めている。
 トマトジュースをつくったり、お茶の加工・通信販売などに積極的に取り組む地元の青年農業者組織・秦友会(しんゆうかい)をしばしば訪れるという古谷市長。彼らからは「高齢者と若手はいるが、その中間層がいない」という悩みを聞くことが多い。「こういった6次産業化に取り組む青年農業者らが、農業活性化のリーダーとなれるような施策を打ち、秦野農業の活性化と、農産物の“地産全消”をめざしたい」と述べた。
 市では、荒廃農地に年間300本ずつの八重桜を植樹して、それを使ったお菓子を作ったり、萱場を開墾して障害者農場を作るなど、農地を荒らさない対策にも力を入れる。「新しいことをやるのは難しいが、1つできてしまえば不思議と同じことはすぐできるものだ」と、運動の広がりに期待した。


【講演2】
古谷 茂男 氏
JAはだの代表理事組合長

◆准組合員をただ増やすだけでは意味がない

nous1107290809.jpg JAはだのでは「JAの職場が活性化し、組合員と地域が元気になれば人が集まる。協同組合運動の基本は人。人が集まらなければ文化も事業もできない」との理念の下、職場の活性化と教育活動に力を入れている。
 職場の活性化策として、職員研修などを手上げ方式にして自主的な参加を促している。無事修了し資格などを得た職員には、5000円から3万円ほどの手当てを支給する一方、修了できなかった職員には研修費用の自己負担などのペナルティを課している。「毎年のべ100人ほどが何らかの研修を受けているが、必ず数人は自己負担が出てしまう。これがいつかゼロになるように期待している」という。また職場環境の改善のため、毎年240人全職員と常勤役員との面接を行い個人や職場などさまざまな問題について意見を交わし、風通しの良い環境づくりをすすめている。
 組合員対策では組合員増加運動が功を奏し、平成15年に6692人だった組合員数が22年には1万1517人と、8年間で1.7倍になった。しかし「ただ増やしても意味はない。協同組合の理念をしっかり勉強してもらいたい」として、准組員とその家族向けの基礎講座などを開いている。また組合員同士の結集力を高めるため、年1回の海外研修は各支所1人ずつを定員とし、異なる地区の組合員同士が交流できるような仕掛けを作っている。

 


【講演3】
白石 正彦 氏
東京農業大学名誉教授、2012国際協同組合年全国実行委員

◆JA役員は意識改革を

nous1107290811.jpg 白石氏は「2012国際協同組合年に向けてJA役職員に期待すること」として、[1]粘り強い経営管理力、[2]東日本大震災と原発事故という巨大複合災害を視野に入れた地域個性創造型の復興・連帯活動を率いるリーダーシップ、[3]男女共同参画型教育文化活動を進めようとする意識改革、の3点を挙げた。
 とくに[1]については、JAの広域合併を例にとり、「組織再編を進めてきた一方で、そこに魂を入れることをおろそかにしてきたのではないか」と提言。「究極的には事業力の強化が目的だが、そのためには組合員の組織力の活性化と、その土台としての営利企業ではマネのできない教育文化活動が必要になる。(JAの常勤役員は)この3つを結び付けるガバナンス力を発揮してほしい」と呼びかけた。


【講演 4】
童門 冬二 氏
作家、2012国際協同組合年全国実行委員副代表

◆JAリーダーに必要なのは勇気、努力、人間力

nous1107290810.jpg 二宮尊徳は、大飢饉からの復興には人々の意識と町を丸ごとすべて変えなくてはいけないと考えたが、東日本大震災からの復興も尋常の考え方ではできない。非常時だという意識改革が必要だ。決して“復旧”ではなく、新しいものを作りだす“復興”であるべきだ。尊徳が報徳仕法を実践した桜町や小田原は、前の状態に戻すのではなく新しいものを作り出した。「新しい酒には新しい革袋」との諺もあるが、震災復興という非常時において、JAこそが地域の新しい革袋となるべきだ。
童門氏の講演 その時必要なのが、常に他人の立場に立ってものを考える思いやり、いわゆる“恕の精神”と、他人の苦しみや悲しみを見るに堪えないと感じる“忍びざるの心”だ。これに加えて尊徳は“農民を愛する心”を持って活動した。JAは金による結合体ではなく、人による協同組織。組織を改善し人々の思いに応えていけるのが、協同組合の良さであり、原点だろう。
 尊徳の考え方の中に、人間の利は天の利を上回るというものがある。人間の意志、行動で自然の力を利用したり、乗り越えたりすることだが、これは震災からの復興でも一番大事なことではないか。
 復興は厳しい。しかし、いたずらなセンチメンタリズムや感情論に流されず、毅然と冷静な態度で、復興に立ち向かわなければいけない。震災から雄々しく立ち上がるためには、人間の利を信じて大きく立ち上がろうとする勇気が必要だ。尊徳は、村が酒匂川の大氾濫で流失した時、「何もかもに絶望するのは自分のためにも良くない、まずは農作業をしっかりやろう」と立ち上がった。
 尊徳の教えは、分度、勤労、推譲の心だ。
 収入に応じた支出計画を考え(分度)、一生懸命働き(勤労)、計画の枠を超えて得られるものがあれば、その余剰分を自分に譲り(推譲)、来年分の予算を確保するようなゆとりある使い方をしよう、ということ。さらに余りがあれば、家族、隣人、地域コミュニティ、国などに推譲していく。私の勝手な考えだが「譲る」というのは何か消極的だが、積極的に言えば「差し出す」ということだろう。
 リーダーに求められるのは、(1)先見力、(2)情報力、(3)分析力、(4)決断力、(5)実行力、(6)体力だが、社会のIT化で大きな変革が訪れ、生活環境、ものの考え方、価値観が変容した。ほとんどをコンピューターがやってくれるようになり、人々のニーズも変わり、日本人は相対的にとても注文が多くなってしまった。JAのみなさんは、恕の精神、忍びざるの心を発揮し、組合員のニーズすべてに対応しようと努力するが、もう一つの考え方として、それらすべてに答えるのではなく優先順位を決めてできないことは勇気を出して断わることが必要だ。
 その時、JAリーダーに必要なのは、相手に「なら」と思わせる力。「あの人“なら”信じられる、ついていける」と思われるような、合理的な理屈を超えた、人間としての持ち味を身につけなければいけない。
 私には座右の銘がある。ルーマニアの小説家、コンスタンティン・ ゲオルギウの小説『25時』の最後の言葉だ。「我々は絶望しません。世界の終りが明日になっても、今日もリンゴの木を植え続ける」。JAのみなさんは努力の結果実ったリンゴを、惜しげもなく推譲している。JAリーダーにはいつまでもリンゴの木を植え続ける勇気、努力、ヒューマニズムを持ち続けてほしい。


【講演 5】
齋藤 清一郎 氏
報徳博物館館長代理

◆日々、報徳の気持ちを忘れずに

nous1107290812.jpg 二宮尊徳は、江戸時代に農村復興などで尽力した人だが、現代にも通じる教えをたくさん残した。そのひとつが「報徳訓」(下記参照)だ。この世のすべてのものには徳があり、その徳に報いることが大事だという報徳思想を、わかりやすく要約したものである。
 人間の時間的な存在を表した第4連は、「今の衣食は昨年の努力によるものであり、今苦しいのは来年の衣食のためだ」と、一見して当たり前のことを言っているのだが、その実践が非常に難しいので世の中の人々は苦しんでいるのである。食事をしても、時間がたてばまた空腹になる。しかし空腹になってから次のご飯のことを考えているようでは本来間に合わないので、おかみさんたちは食事が終わったらすぐに次の食事の準備をする。尊徳は、次のために今動くことの大切さを繰り返し農民に説き、その例としておかみさんたちの働きを非常に褒めていた。
 報徳訓の最後の行、まとめは常に報徳の気持ちを忘れるべからず、という教えを説いている。いつでもどこでも恩返しの気持ちを忘れず、勤労、分度、推譲の心で道徳と経済を一体として考えて日々を暮らすべきだ。みんながそういう意識で暮らせば、世の中はもっと幸せに豊かになれるだろう。
【参照・報徳訓】
父母の根元は天地の令命にあり
身体の根元は父母の生育にあり
子孫の相続は夫婦の丹精にあり
父母の富貴は祖先の勤功にあり
吾身の富貴は父母の積善にあり
子孫の富貴は自己の勤労にあり
身命の長養は衣食住の三つにあり
衣食住の三つは田畑山林にあり
田畑山林は人民の勤耕にあり
今年の衣食は昨年の産業にあり
来年の衣食は今年の艱難にあり
年年歳歳報徳を忘るべからず

(2011.07.29)