◆福島の農業を次世代に引き継いでいく
新世紀JA研究会は年2回、大規模なセミナーを開催している。今年1回目となったこのセミナーには、全国のJAなどから120人が参加した。
研究会代表の鈴木昭雄・JA東西しらかわ代表理事組合長は「震災と原発事故を決して風化させることなく、国を挙げて問題解決にとりかかってほしい。全国各地に原発は依然あり、どうやって福島を立て直すかというのは全国共通の問題だと思う」と開催趣旨を紹介。「原発事故はなぜ起こったか、今後何が起こるのか、また損害賠償はどうあるべきか、といった問題を、現場からの報告も交えて全国から集まってくれた皆さんと一緒に考えたい」とあいさつした。
JAグループ福島五連の庄條徳一会長は、「必ず、澄んだ空気、きれいな自然、豊饒の大地を取り戻し、先人が築いてきた福島県の農業を次世代に引き継いでいきたい」と今後も原発事故の被害対策、放射能除染活動などに尽力することを誓った。
セミナーではまずセミナー開催の地元であるJAあいづの五十嵐孝夫組合長から、風評被害の実態とそれと闘っている現場の状況が報告された。
次いで佐藤栄佐久前福島県知事が「想定外ではなかった原発事故」と題して講演した。このなかで佐藤氏は2006年にチェルノブイリ原発事故20周年を記念して開催された国際会議で、原発の立地や安全性には「政府が本質的に責任を負う」など「各国政府の役割」など5つの基本原則を謳った「スラヴィティチ基本原則」の重要性を強調した。
◆福島から「差別反対」の声を
次いで近畿大学人権問題研究所の奥田均教授が「原発事故と差別問題」について講演。
このなかで奥田教授は、「福島差別の現実」を新聞報道などに基づいて報告するとともに、原爆被爆者やハンセン病回復者の人びとからの「原爆被爆者が被ってきた差別を福島の人びとに再び繰り返してはならない」という訴えを紹介するとともに、その代表的な意見として宮本勝彬水俣市長が水俣市役所のホームページトップに掲載した「水俣病公式確認から55年目を迎える水俣市からの緊急メッセージ」を紹介した(別掲)。
そして「食品などで論じられる『安全』の問題と、人間に対する『差別』の問題を混同してはならない。差別は、いかなる理由においても正当化されてはならない」。「福島地元からの『差別反対』の声がどうしても必要であり、全国の仲間がそれに連帯する」ことが必要だと結んだ。
第一日目の最後に原子力損害賠償紛争審査委員会委員である中島肇弁護士が「原発の損害賠償について」と題して、原賠審でどのうような論議がされているかを報告した。
◆詳細な汚染マップの作成ベースに安全対策を
二日目は、福島大学の小山良太准教授が、チェルノブイリ原発事故の被災地国であるベラルーシとウクライナを2011年秋に調査(清水修二福島大学副学長団長)した結果をもとに「放射能にどう対応するのか―放射能汚染問題と農協の課題―」と題して講演した。
小山准教授は、ベラルーシでは、全農地の詳細な汚染マップの作成と土壌分析に基づいて、作付けする作物選択の体系を構築し、汚染度の高い農地では非食用作物を作付けするなど汚染度合いに応じたきめ細かい栽培・営農指導が行われていることを報告。
日本では「穴だらけのサンプル調査に、消費者だけではなく生産者も不安を感じており、全農地の汚染マップの作成」など安全対策など体系立てた調査・検査が必要だと指摘。
すでに伊達市小国地区で100mメッシュ空間線量マップを作成している事例を紹介し、県内全域で行う必要性を強調した。
そして最後に、JAそうまの鈴木良重組合長が「大津波・放射能・風評被害に立ち向かう」と題して講演した。
鈴木組合長は、原発事故最前線での総合農協としての取組みについて報告するとともに、今後の方向として「バイオエタノール用米資源循環再生利用構想プロジェクト」などについて検討していると語った。
そして[1]原状回復・復旧をベースにした災害対策、[2]東京電力と国の責任を明確にした原発事故の被害対策と福島への差別を繰り返さないための啓蒙・情報管理、[3]脱原発のエネルギー政策、[4]東日本大震災・福島第一原発事故の風化の防止、[5]TPPへの継続的な反対運動、[6]協同組運動の力強い取り組み、[7]過去の大会アピールの実現、の7項目を内容とする大会アピールを採択しセミナーは終了した。
2月24日には、この大会宣言をもとに研究会代表団がJAグループ全国連や行政への要請活動を行う予定にしている。
次回セミナーは6月頃、JA鳥取中央での開催を予定している。
(写真)
(顔写真上から)鈴木代表、庄條会長
(会場風景)中島氏の講演の様子
水俣病公式確認から55年目を迎える水俣市からの緊急メッセージ(抄)
(原発事故は)時間の経過とともに新たな問題も起こり始めています。
その問題は水俣病のこれまでの経験と重なり合う部分が極めて多く、水俣病の教訓を発信している水俣市としましては、今後のことが心配でなりません。
特に懸念しておりますのが、風評被害からの偏見や差別の問題です。水俣病の被害は命や健康を奪われることに止まらず、被害者を含め市民すべてが偏見や差別を受け、物が売れない、人が来ないなどの影響を受けたり、就職を断られる、婚約が解消されるなどの影響を受けたこともあります。言いようのない辛さであります。
原発事故のあった福島県からの避難者に対する差別や偏見を知り、水俣市民はとても心を痛めています。
放射線は確かに怖いものです。しかし、事実に基づかない偏見差別、非難中傷は、人としてもっと怖く悲しい行動です。
また、国外からの偏見や差別も一部あるようです。水俣市で起こった悲劇を日本全体が受けかねない状況でもありますので、国外へも正しい情報の提供と国際的な理解を求めていく必要があると思います。
水俣病のような悲しい経験を繰り返してはなりません。
2011年4月26日
水俣市長 宮本勝彬
(全文は水俣市ホームページで)
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