◆唐突な見直しの諮問
わが国では03年生まれ以降の牛のBSE発生は確認されていない。このまま発生が確認されなければOIE(国際獣疫事務局)の要件(もっとも遅く生まれたBSE牛の生後から11年経過)を満たし「無視できるリスクの国」になる。
にもかかわらず昨年秋のAPEC首脳会合の際の日米首脳会談で野田首相はBSE対策の見直しに着手したことをオバマ大統領に表明、年末には厚労省が食品安全委員会に諮問した。シンポジウムではこうしたプロセスが問題点にあがった。
生活クラブ連合会の植田泉・消費者委員長は「この時期の諮問に唐突感がある。米国への手みやげでは、という思いをぬぐいきれない。政治的圧力のなかでの諮問には憤りを覚える」と述べた。
パルシステム連合会の原英二・商品コミュニケーション部次席スタッフは「BSEには分からないことが多い。完全に撲滅されたことが確認されなければ検査や輸入規制を緩和すべきではない」と話した。
また、米国の飼養実態や食肉管理体制の問題点も話し合われた。米国では全面禁止の日本とは違い、豚と鶏には牛のSRM(特定危険部位)を使用した肉骨粉の給与が認められおり、牛の飼料への混入の危険性が指摘されている。BSE検査も農場で見つかった30か月齢以上の歩行困難牛などリスク牛のみが対象である。
植田氏は「日本では禁止されている成長ホルモン剤の使用が許されている。そういう国であることに信頼が置けない」と指摘、日本の輸入を促進しようという産業界などからの情報で判断するのではなく、第三者の検証や消費者の判断に加われるかたちを考えるべきでは、と提起した。
また、輸入牛肉が規制緩和されると牛肉全体への信頼がなくなり、「国内生産者も苦しむ。自給率50%目標はどうなるのか? 慎重に考えるべきだ」と強調した。
◆BSE撲滅をめざせ
今回は国内規制の見直しも諮問されているが、JA全農畜産総合対策部の谷清司次長は「日本では携帯電話からでも生産履歴が確認できるトレーサビリティシステムがある。他国では真似のできないこと」と指摘。日本は来年の2月に「無視できるリスクの国」の要件を満たすとしても、植田氏は「トレサは誇れる制度で信頼があるから国産を、と組合員に呼びかけていた。わざわざ信頼を下げる必要はない」と提起し、谷氏も「リスクを無視できる国を維持していくために、厳しくするという考え方もある」として緩和ありき、ではないと釘を刺した。
その点で強調されたのがBSEが原因で発生するヒトのvCJD(変異型クロイツフェルトヤコブ病)への懸念が社会から薄れてはいないか、ということ。植田氏によると英国でヒトの発症が確認された1996年当時、滞在していた日本人は2万人で現在も献血が認められていないという。植田氏はBSEもvCJDも不明な点が多いことを改めて認識すべきとした。
安全性確保のために国際的には「30か月齢以上」を検査や特定危険部位除去の対象としている。谷氏によると英国のBSE発生頭数約18万5000頭のうち、確かに99.95%が30か月齢以上だと報告されているという。しかし「残り0.05%といっても頭数にすれば90頭は30か月齢以下ということ。これを科学的に調査し納得できるデータを提示して安全評価を議論すべきだ」と提起、日本でも21か月齢での発生が確認されており、検査月齢を30か月齢以上に引き上げるなら「あの事例は何だったのかということになる」と強調した。
原氏は、わが国では実質的に全頭検査が行われてきたことで安全・安心が確保されてきており「国際平準化とか、米国の基準に適合する完全自由化は納得できない」として飼料規制や食肉検査などによって「BSE撲滅をめざして日本が国際社会に貢献することこそ求められている」と訴えた。
(表)
今回、米国のカリフォルニア州で確認された同国4例目のBSE牛は25日段階の農水省発表では30か月齢以上の雌の乳用牛とされている。米国は月齢についてこれから精査するとしているが、かりに生後3年経っているとすると09年生まれということになり、米国が「無視できるリスクの国」の要件を満たすのはこのまま発生確認がなければ2020年以降ということになる。
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