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TPPは「1%のための1%の合意」 J・ケルシー教授

 TPP(環太平洋連携協定)の危険性を著書「異常な契約」(農文協刊)で告発したニュージーランド・オークランド大のジェーン・ケルシー教授が来日し6月21日、「STOP TPP!! 市民アクション」が主催したシンポジウムで講演した。ケルシー教授はTPPは「1%による1%のための合意」と批判したうえで投資の自由化をめぐる合意などTPP交渉の現状について解説するとともに、国際的な反TPP運動が盛り上がっていることも紹介した。

◆ルールは覆せず

J・ケルシー教授 TPP交渉にメキシコとカナダが参加することが認められたと報じられている。
 米国の場合は議会に通告し公聴会を開くなどの手続きが必要で、米政府がその通告をしたても、議会が認めるかどうかは不透明だが、ケルシー教授は米国議会が了承し「(両国と)交渉できると信じられなければオバマ大統領は(両国の交渉参加を)発表しないだろう」と話した。
 ただしメキシコもカナダも議会の承認が得られるまでは交渉参加はできず、7月2日から米国のサンディエゴで開かれるTPP交渉第13回会合にはオブザーバー資格も与えられていない。それでも参加を米国が認めたことについてケルシー教授は「メキシコとカナダは政治的な論議を起こす国ではない」からで、交渉に参加しても「すでに(交渉参加国で)決着している事項を蒸し返すことはできない」との見方を示した。


◆日本に厳しい要求

 そのうえで、「日本はメキシコとカナダとは別扱いということがはっきりしてきた」と指摘。その理由はメキシコとカナダには求めていない事前協議を日本には求めていることを挙げた。ケルシー教授によると、ニュージーランド貿易相が「日本が置かれている立場は異なる」、「日本側の準備が整い、すべての参加国によって交渉参加の合意がなされたら歓迎する」と発言していることや、米国議員も「TPP交渉参加前の包括的取り組み」を日本には求めているという。
 そのうえで「野田首相が参加すると決断しても、日本がルールに影響を及ぼさないよう確実にする。(日本の参加を米議会が認めるのは)すでに決着がついていて日本が影響を及ぼすことはできない(と判断する)ということ」などと指摘した。
 ケルシー教授の指摘は、米国が関心を示した自動車や保険、牛肉などをめぐる事前協議が日本とのTPP交渉の前提条件となっていることだけではなく、交渉参加国が日本の参加を認めるのはすでに合意されたルールが日本によって影響をされないと判断したとき、すなわち、日本はルールづくりに参加できないことを意味するということだろう。
 これまでの交渉では参加国は農産物を含む物品関税については即時撤廃ではないにしても7年から10年後には撤廃する方向で議論されていると日本政府も報告している。
 例外扱いを認めないのが原則で、ケルシー教授の分析は、たとえば例外扱いのルールづくりに日本が関与できるような交渉ではないことを指摘するものだ。


◆暴露された投資協定

 6月12日、反TPP運動を展開している米国の市民団体「パブリックシチズン」がTPP交渉で合意されている投資に関する章が世界に暴露されたことを伝えた。
 ケルシー教授によると豪州は投資家が外国政府を訴える訴訟権(ISDS条項)に反対したというが、多く国は「外国企業の権利の章典」ともいうべき規定に合意をみたようだと話した。暴露された文書には、公衆衛生や環境などを自由な投資の例外とする規定はなく、また、投資には「公的債務」も含まれているという。かりにそうであるなら財政破綻で国債の返済ができなくなった場合も投資家がその政府を訴えることができることになる。
 ただ、ケルシー教授は投資家がこうした訴訟権を持つことは賠償を得ることが目当てではなく、政府に対して企業への規制を及び腰にさせることが目的で、「いかに利益を上げるか、そのために政府に圧力をかける」ことだとした。


◆対立点も多いTPP

 一方でケルシー教授はTPP交渉の現状について「ドーハ化した」との交渉担当者の言葉を紹介した。
 ドーハ化、とはWTO(世界貿易機関)ドーハラウンドのことで、めざす協定内容が野心的すぎて、ドーハラウンドと同じように暗礁に乗り上げているとの見方を示したものだという。
 たとえば、投資家が外国政府を訴える権利についても、訴えられる対象には国有企業も含まれるとされ、これは日本でいえば日本郵政もターゲットになる。しかし、米国は自国の国有企業は例外と主張しているという。リーマンショック後に経営破綻したゼネラル・モータース(GM)は政府の支援を受けて実質国有企業化している。こうした企業の保護が米国の狙いだ。
 また、米国は農業分野の市場開放については、いまだに2国間での個別交渉を要求しているという。そのなかでニュージーランドの乳製品の輸入は拒否している。そのほか、医薬品の特許など知的財産所有権、著作権などについては米国提案が拒否され再起草されているという。


◆国際的な連帯強化を

 こうした状況のなか各国の官僚による交渉では対立や合意が困難なことも多いという。
 その一方、交渉を妥結させるよう求める政治的圧力も高まっている。たとえば大統領選挙を控えたオバマ大統領からは9月に開催されるAPEC首脳会議までに交渉の大枠をまとめるようにという「大変な圧力がかかっている」。
 ケルシー教授は問題の多い協定内容に政治家が合意してしまうリスクもないわけではないのが今の状況で「交渉が停滞することも急に締結されることもありえる」と指摘した。
 ただ、今回の投資に関する文書の暴露によって秘密主義で進められているTPP交渉には米国でもニュージーランドでも批判が高まっており、議会で公聴会を開くことを求める動きもあるとして「秘密裏に国民を売り渡すようなことをさせてはならない。私たちには将来の世代に公平で公正な世界を残す義務がある。国際的な連帯の一層の強化を」と訴えていた。


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