◆どこから来たのか?
BSE(牛海綿状脳症)の病原体は「プリオン」と考えられている。米国の研究者、プルジナーの造語でこのプリオン仮説でノーベル賞を受賞した。
その後の研究で明らかになったのは、牛やヒトに限らず、どの生体にも正常なプリオン蛋白質がつくられていること。ただし、そもそもそれがどんな働きをしているかは分かってはいない。しかし、それが異常なタンパク質に変化し神経を中心に蓄積すると、脳を損傷し病気になると考えられるようになった。
プリオンそのものが異常なものであって、しかも感染性を持つ。
BSEやヒトへの感染が確認された変異型クロイツフェルトヤコブ病(vCJD)などは感染性プリオン病と呼ばれるが、それは外来性のプリオンが原因だからだ。BSEは感染した牛から製造された肉骨粉を与えたことで広がった。
ただ、プリオン病は感染による物だけではない。正常なプリオン蛋白質が遺伝子の変異や、加齢によって細胞がガン化するようなメカニズムでプリオンとなり生体内に蓄積されることもある。これらは遺伝性プリオン病、孤発性プリオン病と呼ばれる。
BSEは英国で大発生した。1992年のピーク時には3万7000頭で確認され、これまでに18万頭以上が発症している。発生確認から約10年後にヒトへの感染も確認。09年までにvCJDの患者数は同国で160人を超えている。
しかし、英国がBSEの初発の場所かどうかは今も不明で、プリオンがどこから来たのかも分かっていないことだと毛利センター長は指摘した。
◆プリオンはどこに蓄積?
同様に、vCJDを発症した人は「牛の何をどの程度食べて感染したのか」など、ヒトへの感染のメカニズムも分かっていないのだという。
冒頭に触れたように現在は、プリオンが蓄積する頭部(舌と頬肉を除く)や脊髄、脊柱などを特定危険部位(SRM)と指定し、と畜場でそれを徹底して除去することで安全性を確保している。
ただし、日本の感染実験ではプリオンは特定危険部位以外の末梢神経や副腎にも蓄積されていることも明らかになっており、プリオンが牛の体内でどのような経路で感染していくかも今後の研究課題だという。
◆非定型BSEとは?
このようにBSEには不明な点が多いなか、今回の対策見直しの検証課題のひとつとなっているのが「非定型BSE」だ。
これは従来型のBSEとは検査結果のパターンに明らかな違いが認められるもので、これまで14か国で60例以上が確認されている。 日本でも2例が非定型BSEと確認され、分析の結果、脳内は従来型よりも空胞が大きく感染性も強いことが分かった。
発症が確認された月齢はほとんどが8歳以上なのでBSE対策上は、かりに規制を「30か月齢以下」にしたとしても毛利センター長は「影響がないと考えられる」という。ただし、非定型BSEが確認されたことは、BSEの原因は1種類のプリオンが引き起こすのではなく、新しいプリオンが存在することを示した。
4月に米国で確認された同国4例目のBSE牛も非定型BSEと公表している。米国農務省は今回の牛は10歳7か月の雌の乳牛であるとしたものの、農場等は明らかにしていない。
そのうえで非定型BSEについて「極めてまれな病気」としている。研究者のなかにも、非定型BSEは先ほど触れた偶発的な要因で発生する「孤発性」だとする説もある。つまり、汚染された飼料の摂取が原因ではないというわけだ。
しかし、毛利氏によれば牛がレンダリングに回されて肉骨粉が製造されることが繰り返されるうちに、従来型のプリオンが変成したのだとする説もあるという。そうなると飼料が原因の可能性も否定できなくなるのではないか。非定型BSEの起源はまだ解明されていないのである。
にもかかわらず米国の4例目は極めてまれな非定型BSEだから安全性に影響を及ぼすものではないと米国政府は主張している。学習会で講師を務めた農政ジャーナリストの中村康彦氏は「日本政府もこの事例には大騒ぎしないで下火になるのを待つかのごとき印象だ」と批判する。
毛利氏は非定型BSEについては「わが国のBSE対策においても注意が必要な問題」と指摘。他国のBSEに関するリスク評価はもちろん、日本でもまだ解明すべき課題が多いことを示した。
(写真)6月7日に開かれた学習会
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