農政・農協ニュース

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6人の酪農家を表彰 第30回全農酪農経営発表会

 JA全農は優秀な酪農経営者を選定・表彰する「全農酪農経営発表会」を9月14日都内で開いた。昭和58年から続く発表会は今年で30回目を迎えたが、一昨年は口蹄疫、昨年は東日本大震災の発生で中止したため3年ぶりの開催となった。
 今回は6人の酪農家が受賞し、最優秀賞には北海道の松田浩二さんが選ばれた。

◆最優秀賞は北海道の松田さん

第30回全農酪農経営発表会 受賞者6人による体験発表を受け、審査委員長の小林信一氏は従来より所得率があまりよくない点を指摘したが、「個々の経営努力だけではどうしようもない酪農情勢の厳しさの反映ともいえる。そのなかで自給飼料生産に力を入れている面が共通していた」と講評した。
松田浩二さん 今年最優秀賞に輝いたのは「Uターン就農は基本を忠実に!!」をテーマに発表した北海道の松田浩二さん。12年間のJA職員を経て平成18年にUターン就農。「牛を健康に飼うこと」を基本に置き、徹底した飼養管理で低コスト・高生産の経営を展開している。JA職員時代の経験と知識を生かし、経営に対する明確な理念を持つ姿勢が高く評価された。
高田雅晴さん また今回は「後継者へ夢を託せる酪農経営を目指して」を発表した島根県の高田雅晴さんに特別賞が贈られた。
 「仲間と助け合いながら地域で末永く酪農を続けられる環境をつくり、次世代につなげていける酪農経営を目指したい」と語った高田さんは6戸の農家で土地の共同利用による自給粗飼料の生産や収穫の共同化を行っている。すでに6戸すべての農家に後継者がおり、後継者問題が深刻ななか地域で支えあう仕組みをつくり、それを実現できていることが評価された。
 その他の受賞者と発表テーマは次の通り。
▽「消費者目線の循環型エコ酪農へのこだわり」渡邉友裕さん(三重県)
▽「乳成分・自給飼料 経営の柱ができた!!」長塩昌也さん(熊本県)
▽「夢に向かって」岡部雄一さん(青森県)
▽「環境にやさしい地域循環型農業の実践〜都市近郊酪農への挑戦〜」藤沼一裕さん(栃木県)

(写真)
上:松田浩二さん
下:高田雅晴さん


【特別講演・口蹄疫からの復興】
◆改めて感じた絆の大切さ

黒木俊勝さん また、特別講演として口蹄疫の苦難を乗り越え復興を果たした宮崎県の酪農家、黒木俊勝さんから口蹄疫発生から再開にいたるまでの苦労や思いが発表された。
 黒木さんの農場の牛が口蹄疫に侵されたのは口蹄疫発生の第一報から約3週間後のこと。殺処分の連絡を受けた後は悲しむ余裕などなく、近所の畜産農家に感染させてはいけないという加害者意識に苛まれ「生きた心地がしなかった」という。
 全頭処分が終了した夜、「もう一度やろう」という両親からの意外な言葉にうれしさが溢れ、経営再開に向け歩みだすことを決めた。
 新たな農場の体制を整えながら再開をめざし、口蹄疫発生から約9カ月後に初出荷、その後は過去最高の出荷乳量にもなり「酪農の楽しさを実感できるまでになった」。
 この苦境の中で黒木さんが改めて感じたのは絆の力。終息宣言までの間、JAや商工会の青年部の盟友らが自ら町内の道路の消毒作業や殺処分の準備などを行い、青年部OBやJA部会、消防団までもが奮闘してくれたことに「大勢で立ち向かえばどんな困難も怖くないことを痛感した」と語った。

(写真)黒木俊勝さん


【全農学生「酪農の夢」コンクール】
◆「持続的な酪農を実現したい」

新潟大学農学部農業生産科学科4年・栗村美帆さん また、酪農や畜産を学ぶ学生を対象とした「全農学生『酪農の夢』コンクール」の表彰式も行った。第6回目となる今回は、全国26校の113人から夢を綴った力作が寄せられ、最優秀賞には新潟大学農学部農業生産科学科4年・栗村美帆さんの「日本の酪農の持続的な発展を夢見て」が選ばれた。
 栗村さんの夢は「飼料自給率の向上で環境や農業経営などすべての面で持続的な酪農を実現すること」。酪農の仕事に興味を持ち、高校卒業後の進路を決めるなかで日本の飼料自給率の低さと、それが酪農経営に影響を与えている現状などを知り、「輸入飼料に依存した日本の酪農はいつか破綻するのでは」という不安を抱いたことがきっかけだった。
 大学入学当初は「持続的な酪農」を環境の観点からとらえ、科学技術による効率化で経済性を追求し発展してきた酪農に疑問を抱いていたというが、講義や実習を通して「酪農に関わる各分野が正の循環を成し持続可能であること」がこれからの日本の酪農には必要と考えるようになったという。
 現在は自給粗飼料の生産基盤確立の条件などをテーマに卒業研究に励んでおり、「研究を通して現場を見る目や意見を聞く力を培い、各分野に働きかけながら酪農が持続的に発展していくための最善策を模索していく人間になりたい」と強く夢を語った。
 審査委員の永木正和氏は「担い手の育成は日本の農業の喫緊の課題であるが、担い手を支える人も大事。酪農に携わりたいという気持ちが表現され、酪農界に強いエールを送っていただいた」と講評した。
 栗村さんは「酪農に対する気持ちを文章にする機会を与えていただきうれしい。文章にするために気持ちを整理するのが難しかった」と話した。

(写真)最優秀賞受賞の新潟大学農学部農業生産科学科4年・栗村美帆さん


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