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なぜできない? 原料原産地表示の拡大  食品表示一元化問題

 食品表示の一元化を検討してきた消費者庁の検討会は8月9日に報告書を公表した。しかし、生産者や消費者が求めていた加工食品の原料原産地表示の拡大や食品添加物、遺伝子組換え商品の表示適正化などは先送りされた。
 とくに原料原産地表示の拡大は閣議決定されている課題であることから、関係者の間から検討会の報告に反発する声が強い。生産者団体もこの問題については「表示がしっかりしていなければ安全でおいしいものを、という思いが消費者に届かない」との考えで、JAグループもその拡大を求めている。
 また消費者や事業者からも「食料自給率を上げるために原料原産地表示を拡大すべき」との声も強い。
 消費庁は今後の検討作業で「幅広く意見をいただくことが何よりも重要」(阿南久・消費者庁長官)との姿勢を示しており、今後、消費者と連携した提言活動も重要になる。今回の議論の問題点を整理してみた。

積極的な提言が必要

◆表示一元化の背景

 食品の表示は現在、食品衛生法、JAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)、健康増進法という複数の法律が根拠になっており、それぞれ表示の目的が異なる。
 食衛法では「食品安全の確保のために必要な情報」であり、JAS法では「消費者の選択に資するための品質に関する情報」、健康増進法では「健康の増進を図るための栄養成分、熱量に関する情報」となっている。このため複雑で分かりにくいという指摘が出ていた。
 一方、平成21年には消費者庁が設立。これを受けて22年に制定された消費者基本計画では、食品表示に関して消費者庁が一元的に所管し、そのための新たな法律をつくることを政府は決めた。
 その際、表示一元化の新法案について平成24年度の提出をめざすとされたほか、加工食品における原材料の原産地表示の義務付けを着実に拡大することも閣議決定された。
 こうした方針に基づき消費者庁は昨年9月から有識者や消費者団体、業界団体代表などで委員を構成した「食品表示一元化検討会」を開催し8月9日に報告書をとりまとめた。


◆高齢化を強調する狙いは?

 報告書では食品表示の新制度の目的について(1)食品の安全に関わる情報の確実な提供を最優先、とするとともに、(2)消費者が商品選択するうえでその判断に影響を及ぼす重要な情報を表示することも目的だとした。
 (2)は食品安全情報に関わること以外の原産地表示や栄養成分表示などになるといえる。ただし、報告書ではこの(2)については、何が重要な情報なのかは消費者個々によって違うことを強調し、これを義務づける場合には「表示によるメリットと表示によるコスト増というデメリットをバランスよくさせることが重要」との指摘も盛り込まれた。
 同時に、報告書は高齢化が進展するなかで「高齢者がきちんと読み取れる文字サイズ」での表示も必要で文字を大きくする必要性も強調した。そうなれば記載できる情報量は少なくならざるを得ない。したがって、表示に義務づけを課す場合には、何を表示すべきか、その「優先順位」も検討すべきであるとの指摘も行った。
 また、情報提供の手法としてインターネットなどを利用することを前提に容器包装での表示省略も考慮する必要があるという。


◆後退する議論を懸念

 報告書ではこうした基本的な枠組みのもとで具体的には栄養表示の義務化とそのための消費者、事業者双方の環境整備を提言した。
 しかし、冒頭で触れたように加工食品の原料原産地表示拡大や遺伝子組換え食品の適切な表示などは議論がまとまらず先送りした。
 これを受けて8月28日には国会内で「食品表示を考える市民ネットワーク」が緊急の学習会を開いた。これにはJA全中、JA全農も共催団体となった。
食品表示緊急学集会で発言するJA全青協の牟田天平参与 会合では報告書の内容について「高齢化が進展するから表示の字を大きくし、表示する情報も簡素に、ということでないか」、「コストが増えるなど事業者の声が反映されたもの」など「表示制度を後退させるもの」という指摘が相次いだ。
 JA全青協の牟田天平参与は「私たちは自信をもって生産している。それをしっかり判断できる表示を」と訴えたほか、ホクレンの熊谷利恵子・食品安全安心推進課課長代理も「表示によって国産を選択してもらえれば生産者の大変な励みになる」と指摘。いずれも今回の議論に欠けていた点だ。
 また、リンゴジュースに原料原産地表示をしている青森県のJAアオレン、神尚紀・営業部長は「逆になぜ他の業者は表示をしていないのか、バラバラで分かりにくいとの問い合わせがある。一定のルールで制度化すべき」との販売先や消費者の声を紹介した。

(写真)
食品表示緊急学集会で発言するJA全青協の牟田天平参与


◆国産選択の意思、制度で反映を

 JA全農の立石幸一食品品質・表示管理部長は消費者庁の消費者委員会食品表示部会の委員を務める。
 原料原産地表示の拡大が必要な理由として▽輸入原料を使用し国産と誤認を与えている実態の是正、▽原材料の素性を知りたいという消費者の要望への対応と業界内の公正な競争の促進、▽国産原料品への需要結集による食料自給率の向上を主張してきた。飲食料の最終消費額は約80兆円でそのうち半分の40兆円が加工食品だ。加工食品で国産品を選択しようとしても今の表示では国産を求める消費者の要望には応えられない。
 こうした主張は今回の食品表示一元化検討会以前から行われてきた農水省や厚労省の調査会でも強調され、原料原産地表示の拡大の必要性は議論されてきた。しかし、今回、「またしても先送り棚上げされることになった」(立石部長)。
 その壁は事業者側の理由。反対理由として事業者は(1)産地の固定化、原料調達が制限される、(2)中小事業者の実行性が困難、(3)原産地が頻繁に変わる場合の表示や輸入中間加工品の表示の問題などのほか、コストアップも懸念している。
 しかし、実際には国の定める範囲よりも広く原料原産地表示を実践している事例はある。それが東京都の条例だ。


◆東京都、業者に理解と定着

 東京都は平成20年1月に発生した中国産冷凍餃子事件をきっかけに、都内で販売する調理冷凍食品に対して原料原産地表示をすることを検討、21年5月から条例で表示の義務づけを実施した。
 現在、原産地を表示すべき食品として生鮮食品のほか、カット野菜やフライをつけた食肉など22食品群などを対象に実施されている(下表)。
 緊急学習会では東京都から経過報告されたが、導入初年度の店頭検査では5%ほどの表示未実施が発見されたが、2年目の検査では100%実施されていたという。東京都の担当者は「表示する情報量が多く事業者から厳しいとの声もあったが、一定の理解のもとに定着しているといえる」と評価した。
阿南久・消費者庁長官 また、韓国では1994年から258品目を対象に原料原産地表示が義務化されているという。
 立石部長はこのような実践例が国内外にあるため、問題点をあげるばかりではなく「なぜ可能になったかこそ議論すべき」だと指摘し、たとえば韓国のルールや導入を実現した経過などを研究し、具体的なルールを示して議論することが必要だと強調している。
 阿南久・消費者庁長官(8月10日就任)はこの場のあいさつで「多くのみなさまから幅広い意見をいただくことが何よりも重要だと考えている」と述べ、生産者、消費者からの問題提起もふまえて表示制度を検討していく姿勢を示した。

(写真)
阿南久・消費者庁長官

 

東京都の原料原産地表示条例の概要

 

 

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