◆羊で荒廃農地を再生
この試験はJA全農、麻布大学、信州豊丘めん羊飼育協議会の3者が共同で行っている。
協議会事務局長の羽生田登志さんが3年前、都内で開かれたイベントで、羊の放牧で耕作放棄地を復旧させたいとJA全農に相談したところ、麻布大学も含めた3者の提携がとんとん拍子に決まった。
協議会に参加しているのは地元・須坂市の畜産生産者や畑作農業者など15人。22年7月、早熟・早肥で肉用専用種として北海道などでもよく飼育されているサフォーク種の羊を導入し、およそ3haの耕作放棄地で放牧をスタートした。
当初は、慣れない毛刈り作業が大きな負担になったり、羊が寄生虫に対して非常に弱いことを知らずに多くの羊を死なせてしまったり、と苦労の連続だったが、「飼育を始めて2年が過ぎ、ようやく安定」(羽生田さん)し、24年には合計39頭を飼育。
羊の導入前には雑草が生え荒廃していた農地も、羊導入の半年後にはきれいな平地へと改善。草むらがなくなり、羊が群れをなして住んでいることで、サル、イノシシなども平地に降りてこなくなり獣害被害も減った。また、地元小学生との触れ合いや体験学習の場にもなり、「地域に愛される取り組みになってきた」という。
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信州豊丘めん羊飼育協議会の羽生田登志事務局長
◆羊肉を販売 経済的自立めざす
しかし、単に羊を飼育するだけでは「持続的な取り組みにはならない」。繁殖から肥育まで一貫した高い生産性を実現し、品質の高い羊肉を販売することで「経済的に自立した事業を確立する」のが目標だ。
その初めての成果として、この秋、3頭の羊を都内のフランス料理レストラン「un cafe」(東京・神宮前)に販売。試験的な販売ということで、1頭5万円と「経済的な自立」を達成するには至らない価格だったが、「初めて売れたことで」一歩前進したと、「協議会のみんなも喜んでいる」という。
今回販売したのは、いわゆる子羊(ラム肉)ではなく、生後1年半ほど経った「ホゲット」と呼ばれる羊肉だ。一般的に生育した羊は特有の臭みが出るものだが、飼育の仕方や飼料の工夫で臭みが抑えられ、また、子羊より歩留まりもいいという。
シェフの藤木徳彦さんも「フランス料理ではめったに使わない肉。臭みがなく、色々な料理に使える」と高く評価。お披露目会では、ロースト肉、カレー、ハムなどとして供されたが、「食感がいい、おいしい」と好評だった。
会には地元JA須高の牧良一代表理事組合長も出席。「古くは灰野牛というブランド牛があり、畜産や酪農で栄えた地域だった。これからは羊の町として、新たな産地づくりを実現したい」と、大きな期待を寄せている。
羽生田さんは、「リンゴ粕など地元で生産できる飼料を利用し、よりよい品質の羊肉をつくりたい。その中で、輸入品と対抗できるような価格をめざす」。 今後もJA全農らと連携を密にし、全国の耕作放棄地再生のモデル地区にしたいと目標を語った。
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この日、お披露目された羊肉料理。カレー、ハムなどさまざまな料理が出された。
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