◆見直される都市農地の役割
かつて都市の農地は、都市開発の邪魔者扱いされてきたが、今日では、[1]新鮮で安全な食料の供給、[2]防災空間の確保、[3]ヒートアイランドの緩和などの観点からその高い社会的必要性が見直されつつある。しかし一方で、依然として宅地化のための農地転用を進めようとする圧力も強い。JAグループではこうした動きを阻止し、都市で農業が可能な政策の実現を求めて運動している。
シンポジウムでは農水省の都市農業の振興に関する検討会の委員でもある東京大学の安藤光義准教授が、検討会の議論を踏まえて情勢を報告。「農家の私有財産である農地の位置づけは困難を極めるが、少なくともこれまでとは違う方向に議論を踏み出そうとしている」と流れが変わりつつあることを指摘する。 その上で、[1]農地や屋敷林、樹林地などを維持するための相続税優遇措置を含めた「緑農地制度」の創設、[2]相続税納税猶予適用による市街化区域内農地の賃貸借の促進、[3]耕せなくなった農地の耕作代行など、良好な都市環境形成のための農地の保全策、[4]生産緑地法の下限面積の緩和など現行制度の改善、[5]公有地の拡大による農地の保全―など、取り組むべき課題を挙げた。
◆都市農家の健全経営が理解と支持を得る
パネルディスカッションでは、国産レモンづくりを通じて農家との交流を続けている神奈川県消費者の会連絡会の今井澄江代表幹事が、「生産者とは顔の見える関係でお互いの立場を理解、尊重することを学んでいる。市民農園は相続税の優遇措置がないなど、そんなことが本当に、と思うことも多い」と、農家とのコミュニケーションの必要性を強調した。
また、神奈川県農協青壮年部協議会の三澤元芳委員長は「都市農地は農家だけでは守れない。都市の人に、農地や農家があってよかったと思ってもらえるような取り組みをしたい」と決意を述べた。 都市農業を支援するアグリサポート事業を展開するJA横浜の矢沢定則常務は、安藤准教授の挙げた課題実現のため農家のコンセンサスづくりの必要性を強調。「基本は農家。農家が健全経営を維持していないと実態のない運動になる。その農家の事情、要望は一軒一軒異なる。アグリサポートの相談機能によってこれを一つにして新しい運動のうねりをつくっていくべきだ」と指摘した。
シンポジウムは最後に「申し合わせ」で、「農業理解の促進を通じ、多くの市民の理解と支持を得ながら、安心して農業経営が継続できる農業政策や税制の早期実現に向け、関係者が一丸となって取り組む」ことを確認した。
(写真)農業・農地の維持を決意した都市農業シンポジウム(横浜市・新横浜国際ホテル)
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