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(071)残る仕事は何か(食と農業関係抜粋と雑感)2018年2月23日

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【三石誠司 宮城大学教授】

 先週紹介したフレイ&オズボーンのリスト(702職種のランキング)の中で、食料と農業に関する主なものを抽出したのが表である。左側の数字は順位であり、右側が職種である。参考までに括弧内に英語の標記を記した。
 簡単な英語で記されたこれらの仕事がそもそも何を示しているかについて、多くの議論や異論があることを承知で、あえてランキングだけから強引な私的解釈を試みてみたい。

フレイ&オズボーンのリストに見る食料と農業関係の職種(抜粋)(数字は702職種中の順位)

 農家、牧場主、その他農業関連マネジャーの順位は137位である。1つ上の136位には花のデザイナーがおり、1つ下の138位には森林火事調査員・防止専門職がある。フレイ&オズボーンの分析によれば、一般の農家や牧場主、そして農業関連マネジャーは702職種のうち上位19.5%となり、全業種の中でも残る職種上位2位に含まれている。
 興味深いのは、これよりはるかに高い38位、つまり全体の上位5%に農場および家庭のマネジメント・アドバイザーという職種が出ている点である。これは様々な解釈が可能であろう。
 例えば、今後の農業では、農場全体の経営の重要性が増し、農業と経営の専門知識が一層必要となり、それに応える知識を提供する専門家が求められる。それが出来ればかなりの確率で生き残れるし、その分野の専門家も将来的には相当有望職ということでもある。
 ただし、同じ38位の職種名には家庭(home)という言葉が入ることが気になる。共稼ぎ世帯が増え、男女ともに朝から晩まで働くことが普通になれば、ワーク・ライフ・バランスの重要性が増し、いかに家庭を維持するかについても夫婦や家族だけで考えるのではなく、専門家のアドバイスをもらいつつ考える世の中を暗示しているのかもしれない。

  ※  ※  ※

 もうひとつ興味深い点は、食品科学者および技術者(158位)、フードサービス・マネジャー(162位)の順位が農家よりもはるかに低いことである。この分野で立派な業績を上げている友人・知人は数多くいるため、実際の感度を聞いてみたいと考えている。
 財務アナリスト(217位)、通訳および翻訳者(265位)などは、恐らく自動化が進むと相当の技術と人間関係を維持していない限り、難しい状況に陥るのかもしれない。
 環境関連エンジニア(81位)と農業関連エンジニア(295位)は興味深い対照を成している。例えば、農業土木の世界と一般土木の世界は、土木工学という共通点はあるものの、対象領域が微妙に異なるが、それでも素人の筆者としては大きな目で見れば隣接していると考えられる。特に、後者は土地や水などの環境資源の維持に関わる以上、視点をほんの少し農業だけから農業を含む環境にシフトするだけで、生存順位は大きく向上する可能性があることがわかる。その意味では、筆者の勤務する宮城大学にファーム、フードとともに環境システムを備えたことは先見の明があったと今更ながら思う次第である。
 家畜のと畜や食肉、家禽、魚類等の加工処理は、食の安全のニーズから、今後は益々自動化が進み、人の手が全く触れないで全てが完了するシステムへ移行する可能性が高い。設備投資への資金調達という課題はあるが着実に進展していくと考えられる。

  ※  ※  ※

 一方、600位以降には農場検査者(608位)というものがある。具体的に何を意味しているかは不明だが、例えば各農場を回り、定期的なヒアリング調査等を行うものだとすれば、こうした調査は将来的には非常時を除き益々減少し、インターネット等を通じて自己申告になることが想定され、関係要員が減少することの表れであろう。
 動物ブリーダー(619位)の世界は筆者には言うべき知見がない。ただし、近年の遺伝育種技術の進歩を考慮すると、個人ベースのブリーダーよりも、企業あるいは組織ベースによるものの方が明らかに優勢になるであろうことは十分に想像できる。
 農場契約労働者(649位)の順位についても、異論があるかもしれない。先に食肉のところで述べたように、機械化が進めば、例えば収穫作業を全自動で行うことも可能になるであろう。事実、南米のアルゼンチンの穀物栽培農家の多くは、既に収穫作業を外部業者に委託している。収穫作業は、もはや農作業ではあっても農家の仕事ではない世界が出現している。そこを担うのは仕事を求めて短期契約で職を変える人達であったり、時期と場所により様々な仕事を請け負う作業請負者であったりする。

  ※  ※  ※

 最後に農業および食品化学関連技術者という、筆者にとっても馴染みの深い業種が登場する。今回のリストの中で、実は最もショックだったのは、この職の順位である。食品科学者になれば順位は158位に上昇するが、その補助的業務を担う「技術者」は順位で言えば665位と下から5%に含まれる。このレベルには電話オペレーター(664位)やモデル(669位)などがある。
 携帯電話会社に電話した時やバス・電車内で流れる無感情の音声、写真修正ソフトで作成した驚異的な美男美女を見ると、これらの世界で生き残るのは本当に大変であろうことは何となくわかる。だが、筆者が農業や食品化学の実験を補助する技術者を同じ感覚では見ることができないのは、この分野に関わり過ぎているため、バイアスがかかっているのかもしれない。

 

本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

三石誠司・宮城大学教授の【グローバルとローカル:世界は今】

 

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