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再吟味-農業の多面的機能2018年5月21日

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【JCA客員研究員 伊藤 澄一】

◆農作業と健康寿命

 日本の高齢化率(総務省3月推計)は27.9%。WHO(世界保健機構)の定義では、7%超が高齢化社会、14%超が高齢社会、21%超が超高齢社会だ。7の倍数だ。28%超なら「超・超高齢社会」だ。それほど、日本の高齢化率は世界でも突出している。女性は30%を超え、全体でも後期高齢者(75歳以上)の14%が前期高齢者(65~74歳)の13.9%を上回り、高齢者の高齢化が進む。農村では以前からそのような社会となっている。
 因みに、子どもの出生数が平成28年はついに100万人を切って98万人となり、昨年は94万人だ。ひとりの女性が生涯に出産する平均人数は1.44。女児半分で47万人。女性の非婚率が14%なので40万人の1.44ならば57.6万人が次代の出生数だ。その先は...。識者は日本の将来を「無子高齢社会」と呼ぶ。
さて、少子高齢社会を先取りする日本の農村のテーマのひとつが、健康長寿を追究する取り組みだ。高齢者と農業の相性について考えてみたい。
 JAが取り組む「健康寿命100歳PT」のメニューは、(1)よい食事、(2)適度な運動、(3)定期的な健康診断だ。さらに(4)社会との交流、(5)自然との交流を提案したい。これら5点を「農ある生活」と結べば、健康長寿が見えてくる。(1)は自給自足の食事に努めること。安心かつ新鮮な食材を自ら賄うのだ。(2)は外に出て汗かくこと。歩き動くこと、農作業はベストだ。レインボー体操、みんなの体操、農民体操などもよい。
 そして、(3)は人間ドックなど健康診断でチェックすること。日々のチェックは肺炎防止にもなる口腔ケア、血圧・脈拍・体重の計測や快眠・入浴も大切。(4)は人々とのおつき合い。仕事や地域・ボランティア活動、女性部・生産部会などの活動、とくに農産物直売所への出荷はベストだ。生き甲斐と副収入に直結、これを高齢者対策とするJAが数多い。(5)は万物のあるがままの命と緑に接すること。農作業が一番だ。自然に触れて大地の恵みを農作物の成長で確認する。

 

◆農村からの報告

 最近の日本農業新聞等で、島根大学による県内の農家・非農家の男女4800人の調査で、農作業が脂質異常の抑制と高血圧予防に効果があると報道された。また、早稲田大学とJA埼玉ひびきのの農家・非農家の840世帯の過去30年の死亡年齢の調査で、農家男性が非農家男性より平均で8.2歳長く、女性も1.6歳長かったという。農業を続ける期間も長いことから、仕事を引退してから死亡までの期間も農家男性が2.2年、農家女性が8.3年、それぞれ非農家男女より短いという。農家男女の健康な期間が長いことを示している。
 厚労省次官を務め東京大学で教鞭をとる辻哲夫先生は、「農業と高齢者は大変相性がいい。身体を動かすと人と自然がつながる。福祉分野も含め農協への期待が大きい」と講演されている。
 都市部の体験農園での勤労者の農作業がストレス解消と健康にいいことがJA全中と東京農業大学の共同調査で報告された。奈良県では農林水産政策研究所の「60歳以上に限れば、農業者は非農業者より長寿と推定され、とくに循環器疾患による死亡率が低い」、「その原因が運動習慣、食生活、心理的ストレスなのか解明することが有益」との分析に注目し、農作業を健康増進と位置付ける医農連携に取り組むという。
 東日本大震災直後に福島県南相馬市のJA鹿島厚生病院を自民党議連「農民の健康を創る会」の議員と訪問したときの話だ。当時、原発事故で生活できる地域とできない地域に分かれた。若い層の流失、医療施設の激減、農地の休耕などで高齢者へのしわ寄せが問題となっていた。
 希望をなくし体調変化をきっかけに寝たきりになっていくという。院長は「高齢者の生きる希望を培っているのは農作業である」、「一日も早く農業ができるようにしてほしい」と語った。このように農作業と健康寿命の相性の良さが見えてくる。農業の多面的機能を大きな視野で再吟味する必要がある。

 

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