【熊野孝文・米マーケット情報】パン需要拡大推進協議会を設立するパン業界の狙いとは?2018年10月2日
今月中旬、すべてのパン業界団体が参加した「パンの需要拡大推進」のための協議会が設立されるそうである。
コメ業界にいる者にとっては、パンの需要は伸びているのになぜ消費拡大の協議会を作る必要があるの? という感じだが、念のためパンの生産や消費の動向がどうなっているのかネットで検索してみた。平成29年度の生産量は125万4062tになっている。1世帯当たりの購入金額がコメを上回った平成20年は119万tの生産量だったので、それよりも増えている。年によって凸凹はあるが緩やかに伸びている。
それに対してコメは急坂を転げ落ちるように需要減少が加速している。総務省の家計調査では、1人1ヶ月当たりの購入金額はパンが884円であるのに対してコメは677円と大きく開いている。麺は507円で、麺にも抜かれそうな状況になっている。この金額には少し注釈が必要で、ここでいうコメの購入金額は袋詰めした精米の購入金額を示しており、外食や中食で購入されているご飯の金額は含まれていない。それでもそうした中食・外食も含めたコメの総需要量は毎年減少しており、2035年には一人当たりのコメ消費量は48.8kg~50.1kgになり、総需要量は608万t~624万tに落ち込むという恐るべき推計もあるのだから、あらゆる団体が参加する需要拡大推進協議会を作らなくてはいけないのはコメの方である。
では、なぜパン業界は需要拡大推進協議会を設立するのか? 理由は2つある。
1つはパン業界の構造的問題。パン業界には大手パンメーカー21社で組織される日本パン工業会と中小パン製造業者の県単位の連合組織である全日本パン協同組合連合会という組織がある。
生産規模は日本パン工業会の会員社が生産するパンが全体の7割を占めており、残り3割が中小のパン製造業者が生産している構造になっている。町のベーカリー店も入れるとパン製造業者は全国で2万店あると見られているが、全日本パン協同組合連合会の会員社は1500社である。ところがその会員社が毎年100社のペースで廃業、連合会は大変な危機感を持っている。
廃業せざるを得なくなった一つの原因として学校給食に納入するパンの回数が減ったことがあげられている。週当たりの回数は米飯給食が3回であるのに対してパンは1.2回、残りは麺類である。これは児童が米飯食を望んだわけではなく、国策として米飯給食導入が進められたことにある。協議会設立の目的も学校給食に納入するパンの回数を増やすことが最大の目的である。児童がパンを食べなくなるとパン離れを起こすということも協議会設立の理由。
もし、パン業界の要求が通って学校給食でのパン食が週に2回になったらどうなるのか? 当然その分、米飯食が減る。学校給食にコメを納入している米穀業者も中小が多く、業界構造としてはパン業界に似ており、そうしたことになったらコメ業界にとっても大問題である。国としてもあっちを立てればこっちが立たず式になってしまう。
こうした悩ましい問題を解決する方法はないのか? 実はその解決策があるのだ。
千葉県では47万人の児童すべてに提供されているパンは米粉入りパンである。その米粉は千葉県内の大手製粉会社2社が千葉県産米を製粉して作っているパン用ミックス粉で、配合比率は小麦粉88%、米粉10%、グルテン2%の割合。この割合で作った米粉入りパンは児童からのアンケートで美味しいという評価が高く、残食率が減ったという結果が出ている。コメを使うことによってもちもち感が出ることからこうした結果が出ている。ただし、特殊な製造でない方法で作らなくてはならず、ラインテストをクリアーするのに1年半を要している。それをクリアーして県内15社のパン製造業者が米粉入りパンを提供できるようになった。ただし、こうした取り組みをして全児童に米粉入りパンを提供しているのは千葉県だけである。
米粉パンの製造技術は飛躍的に進歩しており、なかでも低酸素焙煎技術で処理した粘度調整米粉を使うと全く小麦粉を使用せず、さらに粘度調整剤も必要としないグルテンフリーのパンが出来る。このパンに着目した全日空が国際線で採用、グルテンアレルギー人向けに提供し始めた。
国内で製造されるパンの原料はほとんどが海外から輸入された小麦である。それを仮に半分でも米粉に置き換えることが出来るとしたら60万tの新規需要が生まれる。おなじ10a当たり8万円の助成金を支給するのなら飼料用に向けるより米粉用に向けた方がはるかに価値がある。パン業界が設立する「学校パン給食推進協議会」の設立総会は10月18日午後2時から鉄鋼会館で開催される。コメ業界からもオブザーバーで参加してこのことを緊急提案したらどうか。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
(株)米穀新聞社記者・熊野孝文氏のコラム【米マーケット情報】
(熊野孝文氏のよく読まれている記事)
・【熊野孝文・米マーケット情報】コメ消費拡大も外国人頼み? インバウンド需要の実態(18.09.18)
・【熊野孝文・米マーケット情報】23万tがゼロになる?! 生産基盤の弱体化(18.09.11)
・【熊野孝文・米マーケット情報】新米価格は高いのか? 安いのか? 現物取引会の現場から(18.08.28)
・【熊野孝文・米マーケット情報】新米に「買い」入らず-急変した端境期(18.07.17)
・【熊野孝文・米マーケット情報】7月中に新米刈取り 千葉の農家(18.07.10)
・【熊野孝文・米マーケット情報】「パスタの量産体制を」中食団体が文書(18.06.05)
重要な記事
最新の記事
-
【注意報】水稲に斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 高知県2024年7月16日
-
【注意報】イネカメムシ 県内全域で多発のおそれ 鳥取県2024年7月16日
-
30年目を迎えたパルシステムの予約登録米【熊野孝文・米マーケット情報】2024年7月16日
-
JA全農、ジェトロ、JFOODOが連携協定 日本産農畜産物の輸出拡大を推進2024年7月16日
-
「雨にも負けず塩にも負けず」環境変動に強いイネを開発 島根大学・赤間一仁教授インタビュー2024年7月16日
-
藤原紀香がMC 新番組「紀香とゆる飲み」YouTubeで配信開始 JAタウン2024年7月16日
-
身の回りの国産大豆商品に注目「国産大豆商品発見コンクール」開催 JA全農2024年7月16日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」鹿児島県で黒酢料理を堪能 JAタウン2024年7月16日
-
【役員人事】ジェイエイフーズおおいた(6月25日付)2024年7月16日
-
【人事異動】ジェイエイフーズおおいた(4月1日付)2024年7月16日
-
日清食品とJA全農「サプライチェーンイノベーション大賞」で優秀賞2024年7月16日
-
自然派Style ミルクの味わいがひろがる「にくきゅうアイスバー」新登場 コープ自然派2024年7月16日
-
熊本県にコメリパワー「山鹿店」28日に新規開店2024年7月16日
-
「いわて農業未来プロジェクト」岩手県産ブランドキャベツ「いわて春みどり」を支援開始2024年7月16日
-
北海道で農業×アルバイト×観光「農WORK(ノウワク)トリップ」開設2024年7月16日
-
水田用除草ロボット「SV01-2025」受注開始 ソルトフラッツ2024年7月16日
-
元気な地域づくりを目指す団体を資金面で応援 助成総額400万円 パルシステム神奈川2024年7月16日
-
環境と未来を学べる体験型イベント 小平と池袋で開催 生活クラブ2024年7月16日
-
ポーランドからの家きん肉等の一時輸入停止を解除 農水省2024年7月16日
-
JAタウンのショップ「ホクレン」北海道産メロンが当たる「野菜BOX」発売2024年7月16日