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【レポート・30年産に向けて米産地は今】水田フル活用し豊富な米の品揃え JAえちご上越(新潟県)2018年3月22日

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・面積当たりの所得水準提示
・農家は「出荷計画書」作成
・販売先を決めてから作付

 27年産から3年連続で過剰生産を解消したことから主食用米の需給は改善されているが、業務用需要に応える米が不足、ミスマッチが指摘されている。
 30年産からは国による生産数量目標の配分がなくなるなど米政策の見直しが行われ、需要に応じた生産がいっそう重要になるなか、業務用需要とのミスマッチ解消や、米の輸出など新たな需要開拓が今後重要になる。米産地はどう対応していくのか。新潟県のJAえちご上越の取り組みをレポートする。

田植えが終った段階で売り先は決まっている姿をめざす(写真)田植えが終った段階で売り先は決まっている姿をめざす

 

◆多彩な戦略を実践

JAえちご上越の位置 JAえちご上越の管内の水田面積は約1万2000ha。29年産でJAは主食用米約53万俵(60kg)、加工用米、飼料用米などの水田活用米穀約16万俵を集荷した。
 飼料用米の生産に県内でいち早く取り組み、これまでJAとして生産数量目標を達成しており飼料用生産量は県内の4分の1を占める。
 JAは28年度から3年間の地域農業戦略を策定、実践している。
 そこでは「販売戦略による売り切る米づくり」を掲げ、▽主食用生産数量の減少分を非主食用米生産拡大により農地維持、▽多収性早生新品種を研究機関と共同育成。収量で収入をカバーできる業務用向けとし、飼料用米、加工用米、備蓄米にも対応する、▽販売先の要望に沿った特別栽培米の生産・販売、▽中山間地域・棚田米のブランド化と販路拡大、▽インターネット利用による販売展開など多彩な戦略を掲げている。
 30年度はこの地域農業戦略実践の最終年度だが、これまでの取り組みをベースに「平成30年産JAえちご上越米集荷販売方針」を策定し、集落座談会で30年産の生産、販売の取り組みについて説明、生産者もそれに応じて営農計画を立てるなどの取り組みが現地で進んでいる。

 

◆「出荷依頼書」を提示

えちご上越本店の外観 同JAは生産者に説明する基本方針で「食生活の変化や米消費の減退から高価格帯の銘柄が飽和状態になっているのに対し、業務用米や低価格な一般消費者向けの銘柄が不足する状況になっている」と明記し、所得確保・拡大をめざすため「販売状況やニーズを的確に捉えて需要に応じた米生産を推進する」ことを強調している。
 JAは需要量を把握するために昨年末までに卸や小売など、取引先と全農新潟県本部から30年産で求められる見込みの出荷数量をまとめた。
 一方、JA管内の上越・妙高両市の再生協議会は、30年産について29年産米の生産数量目標とほぼ同水準とするとしており、JAでは再生協議会の方針と全農や取引先から銘柄・用途別に求められた数量、さらに29年産出荷契約実績をもとに30年産米生産販売計画を策定した。それをふまえ今年1月に生産者ごとに「出荷依頼書」を提示した。
 「これまでは行政による生産数量目標の配分があり、生産者はそれに基づいて営農計画を立て、田植えし、その後、JAと出荷契約をしていました。しかし、今度は自らの責任で需給調整に取り組むということですから、JAが需要に基づいて生産の目安数量を出す必要がある。それが出荷依頼書です」と同JA営農部米穀販売課の山田善幸課長は話す。
 生産者への説明資料でも「出荷依頼書」について「需要に応じた生産・集荷を進めるうえでは『これだけ需要があるので、これだけJAに出荷して欲しい』というメッセージが重要になってきます。そのメッセージが出荷依頼書であり、これに取組むことこそ"需要に応じた生産"です」と強調している。
 これは30年産からの生産調整見直しに対応した初めての取り組みで、生産者への説明時期はこれまでより2か月繰上げた。生産者はその出荷依頼を参考に「出荷計画書」を策定して2月中旬にJAに提出。現在、JAは生産者の提出した計画と需要との相違などを調整し、は種前に出荷契約予約数量を通知し5月に出荷契約(本契約)をとりまとめることにしている。
 これまでも生産者と5月に出荷契約を結んではいたが、JAは出荷契約を積み上げてからどう販売するかを検討していた。30年産からの取り組みで最大の違いはここで、JAから生産者への「出荷依頼書」に提示されている数量は「すでに販売先が決まっている」ということである。
 「は種前に生産者との出荷契約を取りまとめた段階で実需者とも予備契約をします。本契約は田植えが終わってからですが、田植えが終わった段階で販売先がすべて決まっているということです。出口からさかのぼって作付けするという、まさにマーケットインの姿をめざします」と山田課長は意気込む。JAでは30年産の主食用米集荷数量目標を54万俵余りと設定した。

(写真)えちご上越本店の外観

 

◆面積あたりの所得を確保

需要に応じた米生産に向け集落座談会で説明 生産者への出荷依頼書では、酒米やもち米は県内実需者を中心とした契約栽培のため銘柄別に生産数量を依頼した。また、加工用米や飼料用米など非主食用の水田活用米穀は用途別の生産数量を依頼した。一方で主食用については銘柄を指定せずJAに出荷してほしい数量を一括して提示した。この段階で品種を指定しないことにしたのは、生産量の6割を占めるコシヒカリについては、今後も一定水準を維持はしていくものの、ニーズが増えている業務用向けの多収品種の栽培にも力を入れていくためだ。ただ、作付け意向が集中した場合には種子の確保が課題となるため、生産者には事前に複数年契約の申込みを募るなどで着実な取り組みを進めている。
 また、加工用米や飼料用米などは、当然のことだが国の交付金活用も前提であり、生産依頼にあたっては販売単価と交付金活用もあわせ、主食用、非主食用とも面積あたりの手取り水準が一定水準(10aあたり12万円)となるよう試算したうえで提示している。輸出用米については現時点では生産依頼の対象ではないが、輸出などコメの新市場開拓に対して産地交付金が措置されたことから、所得確保につながるのであれば輸出用としての出荷も検討していくという。
 「30年産から主食用米への10a7500円の直接支払交付金がなくなるなかで、多収品種栽培への転換による収量確保や相場に左右されない、契約栽培の推進、さらに交付金活用も含めて、10aあたりの所得水準をどう安定的に確保していくのかという考え方に切り替えていかなければなりません」。

(写真)需要に応じた米生産に向け集落座談会で説明

 

◆米の品揃え豊富に

 需要に応じた生産で生産者の所得を確保するための新たな取り組みのひとつがJA独自の契約栽培である。
 管内では「こしいぶき」のほか、JAえちご上越オリジナル米として6年前から晩生品種の「みずほの輝き」を生産してきたが、そこに30年産から同じオリジナル米として早生品種の「つきあかり」の生産を本格化させる。「つきあかり」は29年産までは試験的な栽培だったが需要が多いことから30年産では5万俵を目標とする。収量は10aあたり600kgと多収。「みずほの輝き」も需要が多く生産が追いつかない状況だという。
 JAではこの3品種について業務用重要に対応するため30年から3年間の複数年の契約栽培に取り組む。そのうちの一定量は売り先も価格も決めて生産する。
 1俵あたりの価格はコシヒカリが最も高いが、一方で作りやすく品質も安定し収量も多い品種は生産者のメリットとなるだけでなく、産地としてコシヒカリ偏重を解消することにもつながる。
 また、一口にコシヒカリと言っても管内では特栽米や棚田米など「こだわり米」へのさまざまな取り組みがあり、40種類もの区分集荷をしているという。「私たちの産地の特色は、特別な米があるわけではないが、JAえちご上越に来れば新潟県内の米がすべて揃っているということ。米の品揃えを豊富にし、販売先を決めてから作付けをする取り組みをこれからは進めていかなければなりません」と山田課長は強調している。

30年産に向けた取組みスケジュール

 

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