准組合員のメンバーシップ強化へ JA全中実践セミナー2018年4月20日
・農業振興の応援団に
・まずJAを知ってもらう
組合員のメンバーシップ強化は、JA自己改革のメインテーマの一つになっているが、いまや600万人を超え、正組合員より多くなった准組合員とどのように向き合うかが、いまJAにとって喫緊の課題になっている。JA全中が東京で開いた(4月12日)「実践セミナー」の事例報告、ワークショップ等で、准組合員の位置づけ、メンバーシップ強化に取り組む上での課題が提案された。
(写真)グループ討議の結果をプレゼンテーション
JAグループは平成27年の第27回JA全国大会で「食と農を基軸として地域に根差した協同組合」の確立を目指し、「創造的自己改革」に取り組んでいる。そのなかで准組合員を「農業や地域経済の発展を農業者とともに支えるパートナー」として、また「農業振興の応援団」として位置づけた。
いわゆるパートナーシップの強化である。パートナーシップとは、共同で出資し事業を運営するパートナーのことで、准組合員を仲間としてJAの事業・活動のなかに組み入れ、ともに地域農業を振興しようという方針だ。JAグループでは、この准組合員への取り組みが遅れたことから、政府・規制改革会議による「農協改革」のなかで、JA事業の利用規制という形で表面化した。
この反省のもとに、パートナーとして意思反映・運営参画を促すための取り組みの考え方、手法が模索されている。特にこれまで全国の120JAで実施した「組合員のメンバーシップに関するアンケート」から、JA全中は、准組合員に対する短期的な対策として、重点ターゲットを示している。
それによるとターゲットは男女49歳以下(准組合員の25%)と同65~74歳(同25%)の2つ。前者は、「食べて応援」、つまりローンや貯金など信用事業からの加入者が多いことから農業応援金融商品の活用で、直売所や食と農の活動等に誘導する。後者は「高齢者の生きがいづくり」として、年金友の会の活動や、レクリエーションイベントに誘導する考えだ。このターゲットを明確にしたうえで、JA全中は「施策事例集100選」をつくり、各JAが効果的な施策を検討するよう呼びかけている。
◆直売所ポイント制で
こうした取り組みの一環として開いた実践セミナーでは、実践事例としてJAふくしま未来(福島県)と、JA兵庫南(兵庫県)が報告した。
JAふくしま未来は、地域支援部の菅野佐太克部長が報告。同JAは直売所におけるポイント制度によって複合的事業利用を促している。平成28年の合併JAだが、(1)直売所のサービスが、旧JAのままで統一されていない、(2)JA事業の複数利用が進んでいない、(3)地域支援活動の継続的なPRが不十分で、JAへの理解を増やすチャンスを生かし切れていない、という反省があった。
また組合員アンケートの結果、正組合員の6割、准組合員の8割が直売所を利用、あるいは利用したいとしており、特に「安心できる農産物・食料品の提供」への期待が最も高かった。
こうした反省とアンケート結果から、直売所のポイント制度を導入。その特徴は、ポイント制度の活用によってゼロから3までのステージランクを設け、貯金・共済など他の事業を利用した場合、直売所利用の際に、ランクに応じた倍率が付加される。
いわば、直売所利用を基準にした准組合員のランク分けで、ランクの上位者を「アクティブメンバー」として、JA活動への参画を促す。ポイント付与・還元は直売所に限定しているが、これは「『食と農が基本』に徹底的にこだわり、直売所の売り上げ増は正組合員の所得向上に向けたものでなければならない」(菅野部長)というのが、同JAの基本的な考えだ。
同JAのポイントカードは、地元の企業や店舗(協力店)でも "有効"。決まりはないが、さまざまな割引や無料サービスが受けられる。協力店はJAの広報誌やホームページ等への情報掲載により、地域へのアピール効果が期待できる。JAでは無料の「協力店ガイド」も作成している。
つまり、ポイントカードによって、JAと地元企業・飲食店、地域の住民による「地域のトライアングルの構築を目指す」(同部長)というわけだ。現在カード会員は2万4000人余り、協力店は518に達する。
なお同JAには、JA祭りや直売所のイベントに、准組合員の参加率が飛び抜けて高い伊達地区がある。背景の一つに、合併前から准組合員を含めて、JA広報誌を全戸配布していることがある。
(写真)JAふくしま未来菅野佐太克部長
◆准組だけの利用者懇
JA兵庫南の取り組みについては、JA兵庫中央会地域くらし対策部・松本宏部長が報告。同JAは准組合員で構成する「JA利用者懇談会」によるアクティブメンバーシップ確立をめざしている。15支店から2名ずつ、支店長が選んだ30名のメンバーからなり、JAの事業や地域農業に関する要望や意見を交換する。
単に懇談するだけでなく、施設見学・体験などを通じてJAの事業への理解を深める。さらに5人を一組とする6班に分け固定化する。毎回馴染みのメンバーで、お互いの性格、考えが理解でき、スムーズに意見交換できるというわけだ。
平成29年度の活動をみると、6回の懇談会があり、初回と最終回は本店で開催するが、ほかは、JAの複数の直売所視察、カントリーエレベーター、育苗施設、葬儀会館の見学などがある。最終回には、JAに対する提案書をまとめ、組合長に提出する。その提案は各部署で対応方向を検討したうえ、常勤役員会や理事会に諮り、その結果を懇談会委員に報告する。
また、「要望と回答」は、広報誌に掲載し、准組合員がJAにも関与しているという意識の醸成につながっている。
松本部長は「さまざまなシーンで組合員から寄せられる意見に自己改革のヒントが豊富にある。その一つひとつに真摯に向き合い、課題を解決していくことで、職員の意識や業務の流れが変えられる」と、問題解決の鍵は現場にあることを強調した。
懇談会の成果は同JAが平成29年に実施した組合員アンケートにはっきり出ている。委員はJAへの親しみ・理解度で正組合員の担い手経営体に次ぎ、事業利用・活動参加でも、正組合員の多様な担い手(販売あり)をはるかに凌いでいる。
このほか、同JAは直売所「ふぁ~みんフェスタ」を毎年4会場で開催。農産物直売や、地元グループのステージ演奏など、地元の住民など約2万人が参加。さらに「ふぁ~みん食農教育支援金制度」で、「ふぁ~みんSHOPのレジ袋を有料にしてその財源を食農教育の取り組みに充てている。300万円を上限に1団体1事業で最大5万円を助成する。
実践セミナーでは、ワークショップの前に小林元・広島大学助教が問題提起。(1)組合員にJAを知ってもらうこと、(2)参加と利用を拡げる、(3)JA運営に参画(声を聴く・活かす)、(4)以上の3つのステップを体系化する、(5)スケジュール・体制・予算の明確化について、約150人が9つのグループでディスカッションした。
このなかでは、「准組合員はお客様扱いして、組合員であることを意識してこなかった」、「広報誌の利用や直売所利用者への働きかけが欠けていた」、「准組合員へのアピールが不足していた」などと、反省の声が多かった。また、来年の全組合員調査を控え、今年中に取り組むべき、喫緊の課題として、「准組合員について議論し、JA職員の意識を統一しなければならない」、「広報で交流の場づくりが必要」、「准組合員の実態をもっと把握しなければならない」など、日程が詰まるなかで、強い危機感が感じられた。
(写真)JA兵庫中央会松本宏部長
◇ ◇
なお、実践セミナーでは、(株)TMオフィス代表取締役のPRプロデューサー・殿村美樹氏が基調講演を行った。同氏は記念日「JAの日」をつくる、直売所の賑わいを継続発信し、「取り残されたくない」という日本人の特性を刺激することなどを、PRのポイントとして提案した。また今日のスマホ、SNS社会に合った情報の伝え方として、「情に響くストーリー」、「アピールは10文字以内」、「インパクトの強いビジュアル」を挙げた。
(写真)(株)TMオフィス殿村美樹代表取締役
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