JAの活動:今村奈良臣のいまJAに望むこと
第55回 JA改革の推進とJAのさらなる発展の途を示す2つのすぐれた著作の推せんと課題-是非読んでもらいたい-2018年5月26日
いま、JAでは自己改革の嵐の渦中にある。自主、自立を基本命題とするJAは全力をあげて取り組まなければならない課題である。ところが他方では、政府なかんずく規制改革推進会議は「JAは自己改革をすすめろ!それもできなければJAの事業から金融共済事業を分離するぞ」というおどしまでかけてきている状況におかれている。
こういう状況の中でいかにJA改革を進めるかという基本問題に取り組み運動路線を明確に打ち出し、JAと地域の活力を充満させるうえで、すばらしい著作が最近2冊刊行された。この2冊を本欄で紹介しながらJA改革の望ましい姿を描き出してみたいと思う。
◇ ◇ ◇
その2つの著作とは次の2冊である。
(1)村上光雄
『明日から実践!私たちのJA自己改革―元組合長が語る現場視点の提言』 家の光協会
(2)上村幸男
『届けあぜ道の声―"競"の次代に"協"を求めて―』自費出版、編集協力農協協会
◇ ◇ ◇
まず、村上光雄氏の著作の核心部分を紹介することから始めよう。冒頭の問題提起を次のように明快かつ力強く呼びかけている。
「今、JAは自己改革の嵐が吹きすさんでいます。自主自立を宗とするJAにとって、自己改革は伝家の宝刀です。そもそも『自己改革』とは外から言われて改革するものではなく、自ら率先して行動するものです。
ところが政府なかんずく規制改革推進会議が農業改革・農協改革の名のもとに、有無を言わさず結論ありきで、『自己改革をしなさい。さもなくば金融共済事業を分離しますよ』と迫ってきているのです。まさに総合JAにとって農協設立以来の危機的な状況です」。「これが民主国家のすることか、これでは一党独裁の専制国家と同じではないかと強い憤りを覚えますが、残念ながらJA自己改革は受けて立たなければなりません。」
◇ ◇ ◇
このような明快な問題意識と課題の設定のうえに立って
第1章 今、なぜJA自己改革なのか
第2章 あなたにとってJA自己改革とは
第3章 今一度、私たちの仕事を考える
第4章 私の考える事業改革の視点
第5章 JA自己改革で私たちは何をめざすのか
という5章立てで議論を展開されている。まことに明快な筋立てであり、そのうえ村上さんの経験深いJA活動、農業・農村おこし活動に裏打ちされた豊かな見識のもとに、読みやすい平易な表現で展開されている。
その基本的な考え方を、執筆にあたり氏は次のように述べておられる。
「私は『人間』、『地域』『助け合い』を念頭に置きました。なぜなら規制改革派や経済原理主義者の考えにはこのことが欠落しているからです。私たちは、農業者、JA職員である前に、自然の中で生かされている一人の人間であり、農地を守り地域を守り、地域の皆さんとともに助け合って生きているからです。また政府・規制改革派との考え方の違いをできるだけ強調し、私たちのよって立つ対抗軸をより鮮明にするように心がけました」
この発想は、現場で組合員とともに農業に励み、かつ単位農協の役員や青年活動のリーダーとして活躍してきた中から産み出されたものである。さらに県連、全国連の役員となり思考と実践を重ねる中から産み出された著作であるため重い提言が散りばめられている。
村上光雄さんは、大学卒業後、郷里三和町で農業を行いつつ多彩な青年運動のリーダーとなり、さらに三和町農協理事、双三三和町農協理事組合長、三次農協代表理事組合長、さらに広島県信連専務理事、JA広島中央会会長、ついでJA全中副会長という要職を務めあげてこられた。
このような、経歴を踏まえて、本書で提示されている多くの提言は、実に重みを持って農協人に迫ってくるものを持っている。つまり、現場の実践と経験そして思考を踏まえてすばらしい提言がなされているのである。そういう意味で、すぐに実践に取りかからなければならない衝動にかりたてられる提言の書となっている。JA関係者必読の書として推せんしたいと思う。
私はかねてより
「共益の追求を通して私益と公益の極大化をはかる」道こそがJAの進むべき王道だと説いてきたが、村上光雄さんのこの著書は100頁にも充たない冊子であるが、この私の言う路線を現場目線で見事に描き出し、明快なJAのいま目指すべき方向と路線を提示してくれている。JA関係者必読の書である。
本シリーズの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
今村奈良臣・東京大学名誉教授の【今村奈良臣のいまJAに望むこと】
(関連記事)
・【寄稿】若さと協同の力で切り拓け農業新時代【村上光雄・JA三次元代表理事組合長】(後編)(18.02.13)
・【村上光雄・JA三次前組合長】JAの将来は「人づくり」に(17.07.18)
・JAのリーダーは青年部から(1)【座談会】(17.02.11)
・【農業・農協改革】 もう黙ってはいられない! 村上光雄・JA三次(広島県)代表理事組合長(15.01.13)
・教育の核として新たなセンターを JA全中(14.07.17)
・JA三次(外部リンク)
重要な記事
最新の記事
-
【全中・JA経営ビジョンセミナー】伊那食品工業で「年輪経営」を視察 年間まとめ、参加者の報告も交流(1)2025年3月11日
-
【全中・JA経営ビジョンセミナー】伊那食品工業で「年輪経営」を視察 年間まとめ、参加者の報告も交流(2)2025年3月11日
-
【地域を診る】東日本大震災から14年 被災地で学んだこと 協同の意義 現場で痛感 京都橘大学教授 岡田知弘氏2025年3月11日
-
JA全青協 新年度会長に北川副会長を選任2025年3月11日
-
理事長に小川良介前農林水産審議官 JA共済総研2025年3月11日
-
福島など被災地「農林水産業の先進地域へと支援」 江藤農相2025年3月11日
-
第二の備蓄米「飼料用米」から主食用米への転用は可能か?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年3月11日
-
オリジナルハンカチをプレゼント 「いわて純情セレクト」対象商品購入で JA全農いわて2025年3月11日
-
「JA全農杯全国小学生選抜サッカー大会」北信越代表チームは「長岡JYFC U‐12」2025年3月11日
-
岩手県大船渡市の山林火災被害の自賠責共済で特別措置 JA共済連2025年3月11日
-
「農中森力(もりぢから)基金」第11回の助成6案件を決定 農林中金2025年3月11日
-
農文協 創立85周年の記念出版『みんなの有機農業技術大事典』発売2025年3月11日
-
健康経営優良法人2025 大規模法人部門 ホワイト500に認定 カゴメ2025年3月11日
-
ローソン「栃木美味しいもの巡り」 ご当地の味が楽しめる8品を発売2025年3月11日
-
ハンガリー産およびスロバキア産偶蹄類由来製品等 輸入を一時停止 農水省2025年3月11日
-
コープデリ「TSUTAYA DISCAS」宅配DVDレンタルサービスを組合員向けに提供開始2025年3月11日
-
3月11日限定 東日本大震災で被災した東北3県と石川県の商品が300円割引 ポケットマルシェ2025年3月11日
-
人事異動 北興化学工業(4月1日付)2025年3月11日
-
大阪・関西万博 「食と農」をテーマに2台の未来の「汎用プラットフォームロボット」を展示 クボタ2025年3月11日
-
米文化を学ぶ親子体験イベント 東京・茅場町で開催 プレナス2025年3月11日