JAの活動:JA全国女性大会特集2018 農協があってよかった―女性が創る農協運動
【座談会・「食」の発信 私たちから―全農直販グループ】取引先ニーズを正確に産地に マーケットイン型事業を実践2018年1月26日
・販売事業機能を融合し、生産から販売の取り組みを最適化
【出席者】
樋口香織さん(JA全農青果センター(株)東日本事業部東京センター営業部営業第2課係長)
山本慧さん(JA全農ミートフーズ(株)事業企画本部事業開発部マーケティング推進室サブマネージャー)
佐口佳菜さん(JA全農米穀部事業企画課)
中島普子さん(JA全農営業開発部営業企画課課長)
「農協改革」「JAの自己改革」が大きな課題として掲げられている。農業が地域経済を支えている地域のJAを取材すると、「JA改革は販売事業だ」というJAトップや農家組合員の声を聞くことが多い。生産者が心を込めて作った農畜産物を安売りすることなく正当な評価を得て確実に売り切ることが何よりも大事だということだ。JA全農ではそうした生産現場の期待に応えるために、「営業開発部」を新設して、国産農畜産物を確実に販売拡大することで、生産者やJAと実需者との信頼関係を築いていこうとしている。そこで、JA全農グループの直販事業を第一線で担っている方々にお集まりいただき、現在の取組み状況とこれからの抱負を語っていただいた。司会は本紙編集部。
(写真)左から、中島 普子 さん、佐口 佳菜 さん、山本慧さん 、樋口 香織さん
◆付加価値の高い商品で直販事業の営業力を強化
――農業を取り巻く環境は依然として厳しいものがありますが、最も大事なことは、生産者が精魂込めて作った農産物を確実に販売し、農家所得を向上させることだといえます。こうした中、JA全農は、①販売事業、全農グループ販売6社(全国農協食品(株)、全農パールライス(株)、JA全農青果センター(株)、JA全農たまご(株)、JA全農ミートフーズ(株)、全農チキンフーズ(株))の機能を融合し、生産・流通・販売の最適化をはかること、②販売事業改革の年次計画・数値目標の実行をけん引すること、③販売情報・取引先情報・産地情報を共有することによりJA役職員に対する販売相談機能を発揮することを目的に、昨年9月に「営業開発部」を新設しています。そこで、まず中島課長から、現在の業務内容も含めて、いま最も力を注いでいる点についてお聞かせください。
中島 私の所属するJA全農営業開発部は、現在、精米、青果における実需者への直接販売の拡大を目的とする「精米営業課」「青果営業課」、販売6社との連携により取引先への品目横断的営業をおこなう「営業企画課」の3課で構成されており、私は、営業企画課で、販売6社の売上拡大に向けて、「取引先別売り場に向けた」商品提案・開発に、取り組んでいます。
佐口 私はJA全農の米穀部事業企画課という部署に所属しています。「全農の自己改革」の中で米穀部は「実需者への直接販売を主体とした事業を強化する」こととしています。私自身の業務では、生産者の安定した営農の実現に向け、伸長する中食・外食などの実需者のニーズをしっかりと把握し、産地へフィードバックして作付提案を行い、安定取引を構築していく取り組みをすすめています。
山本 JA全農ミートフーズ事業企画本部事業開発部マーケティング推進室という部署に所属しています。私のいまの業務は主に国産原料を使用した加工品の開発です。最近は働く主婦や高齢者、単身者の増加により、焼くだけや温めるだけで食べられる簡便な商品の需要が伸びています。そうした消費者ニーズを把握するために市場マーケット調査も行いながら、消費者に手にとっていただけるような加工品の開発を行っています。また、農家さんが育てた牛豚を安売りせずにきちんと販売することが大切であり、不需要部位や加工場で発生した端材の活用も念頭におきながら開発を行っています。
樋口 JA全農青果センターは、青果部と営業部の二つに分かれて業務を展開しています。青果部では仕入れを、また私の所属する営業部では生協やスーパーマーケットの窓口となって販売を行っています。営業部としてはお客さまに対して途切れることのない商品供給をしていくことをまず基本として、出荷量・相場に合わせてお互いにメリットある販売を行えるよう、産地窓口である青果部、量販店バイヤーと日々情報を交換しています。
――皆さん、実需者と直接向き合いながら、創意工夫を重ねておられるわけですが、新しい商品開発ということでもっとも注力されていることはなんですか?
中島 先ほど申しあげた販売6社合計の売上高は現在、約7000億円で食品卸売業界では第6位の位置にあるわけですが(表2参照)、この売上を拡大していくために、これまでの商品供給に加え、近年需要が伸びている「中食」や「外食」、「ネット販売」、食品の取り扱いが増えている「ドラッグストア」といった業態に営業し、取引先毎ニーズをもとに商品・サービスを開発していくこと、広義では輸入農畜産物の需要を国産農畜産物に置き換えていくことが目標です(表1参照)。
少子高齢化や女性の社会進出、ライフスタイルの変化などを背景に、時間を短縮して調理できる「簡便調理品」、電子レンジで温めるだけの「即食商品」を取引先と連携して開発していますが、今後は、食味はもとより、カロリーや塩分等にも配慮した健康志向型の商品開発に取り組む必要があると考えています。
そのためには、産地との新たな品種の取り組みや、販売6社他全農グループ会社の工場への設備投資、他社との業務提携・出資、物流網の構築も必要になってくると思います。
――ニーズの変化はもちろん、流通チャネルの多様化に直面しているということですね。
中島 そうですね。全農グループとして、取引先毎のニーズそのものを大切なマーケットとして正確に把握し、産地にフィードバックしていく、いわゆる「マーケットイン型事業」を、時間軸をもってすすめていくことが重要です。私ども営業開発部は、販売6社と連携して、生協、スーパー、中食・外食など実需者の商品戦略を、たとえば「肉をメインに野菜も入った健康志向型の惣菜を作りたい」とか、「調理場の人手不足解消のための半調理済みのキット商品を利用したい」というニーズを把握して、全農グループ各セクションや産地にフィードバックし、どう応えていくかをグループとして考えていく、その接着剤のような役割を担っていきたいと思っています。
◆実需者ニーズに応え農家経営安定化にも寄与
佐口 たとえば寿司向けには、口に入れた時にほぐれやすいお米、冷凍炊飯向けにはパラパラしたお米など業態別のお米のニーズは様々です。それは家庭用のニーズとは異なるものです。
私の業務では、営業開発部はじめ販売部門が得た実需者ニーズを踏まえ、産地に対して、品種の作付提案をすすめておりますが、このような生産提案型の事業展開が大事になってきていると思います。
生産者の方々へ提案するときは、消費者ニーズや実需者ニーズがあるからということだけではなく、生産者である農家さんにとっては経営の安定が重要であり、例えば異なる熟期で作期分散がはかれる品種など、生産者サイドに立った提案が大切だと思います。
◆商品の品質だけではなく使い勝手のよい包装も大事
――山本さんのところで商品開発でいちばん苦労されている点は?
山本 たとえば加熱加工品でいうと、保存性という点には気を遣いますね。できるだけ素材そのものの美味しさを提供していきたいという思いがありますが、やはり安心して召し上がっていただけるように、商品の保存性を高めるということも考えていかなくてはならないので、添加物を含めて使用する原材料の選定に気を遣ったり、製造工程を工夫したりする。その微調整や配合のバランスが難しいですね。その最適な按配を見つけるところに時間も精力もかかります。
――肉の場合、輸入肉との競合ということが予想されてきます。実際、トランプ米大統領は養豚業者からの後押しを強力に受けていますので、そのあたりも今後、国内市場がどう影響を受けていくのか。肉に限らず、輸入品から国内産への切り替えを進めている全農グループにとっては、まさに正念場かと思われます。野菜などもやはり同じでしょうか。
樋口 これはスーパーなどの販売戦略の違いなどもありますね。あるスーパーではどんなに価格が高くても、あくまで国内産にこだわるところもあれば、その逆に、輸入品をどんどん仕入れてくるところもあります。しかし、全体的には、アボカドやレモンなどはそれほど抵抗感がないのですが、やはりレタスやキャベツ、きぬさやなどを見ると、国内産の方が高くても売れており、輸入品は売れ残る傾向が強いです。
佐口 お米の場合でいうと、価格が高くなると必ず、輸入品に一時的に流れていくことがありますので、そうならないようにしなくてはなりませんね。
――これは男性の偏った目線での問いかけになるかもしれませんが、商品開発をされる場合、女性ならではの感覚というものはとても大切ではないかと、個人的にもそう思うのですが、いかがでしょうか。
山本 商品開発に対して、どのように「寄り添っていけるか」を考えた時、やはり女性の視点が商品開発に活きることはあると思いますね。たとえば、ウインナーの場合でいうと、大容量パックの方が買い得感がありますが、いったんパックを空けてしまうと、使いきらなければなりません。そこで出てきたのがお弁当や夕食のおかずなど、使いたいときに使いたい分だけ取り出せるチャックシール付きのパックです。そうしたお客さまの抱える悩みをどう解消していけば良いのかを考えると、そこには、やはり日常的に炊事をされている女性の視点や発想が活きてくると思います。
中島 開発においては、実際に購入してご利用いただく方々が、「美味しい、また買いたい!」と思ってもらえるように、食味やパッケージデザイン、食シーンの提案など、関係職員や社員、内部だけではなく、外部の方々の意見も積極的に取り込んでいきたいと思っています。
◆全農の総合力で農家経営を支える
――これからの商品開発について、皆さんの抱負を交えてご意見をお聞かせください。
中島 各業態におけるニーズや流通の多様化にどう対応していくかという点ですが、簡便調理品や即食商品などの加工度の高い商品の開発にかかわらず、米、青果、精肉、卵など、売り場への素材供給も含めて、今後は、「サービス」「情報」「時間」についても消費者に届ける付加価値と捉えて、生産・流通・販売が連携し、その価値を高めていくことが重要です。そうした一つひとつの取り組みが、直販の拡大につながっていくことになると考えます。
樋口 やはり「産地が生産を続けられるお客さまがいる」ということが当社にとっての最大の経営資産だと考えています。たとえバイヤーさんが変わっても「この産地のものなら、ここのスーパーは必ず買ってもらえる」というような太い絆、パイプづくりを絶対に切らさない。そうした信頼にもとづく関係構築へ向けた努力の積み重ねがいちばんのテーマだと思います。
山本 現在、単身赴任者やお一人で暮らしておられる高齢者の方々などへのニーズ向け商品に、いわゆる「個食」パックというものがあります。ただし、商品を小さくすれば消費量も減りますし表示が見ずらくなるというデメリットも生じてきます。ですから、逆に大きなボリュームでも使いやすいパッケージや保存性の高い商品づくりなど、様々な角度で商品開発に取り組んでいきたいと思っています。
佐口 やはり樋口さんと同様で、産地と販売先との間で、太い絆をもった信頼関係を構築していくことが大切だと思います。これからは実需者サイド、生産者サイドの両面から「全農を選んでいただける」ように肝に銘じて事業をすすめていきたいと考えています。
私自身の業務では、多収品種など作付提案した品種の栽培技術の確立が大きな課題となっています。それに対するフォローアップは、私ども米穀部だけではなく、全農の営農・生産資材部門である耕種総合対策部、肥料農薬部、平塚の「全農営農・技術センター」などと連携しながらすすめています。今後も部門間で連携し、他社には真似できない全農の総合力を活かしていきたいです。
―最後になります。生産の現場におられるJA女性部の皆さんへのメッセージをいただけますか。
樋口 私自身、全国各地の生産現場に足を運びますが、やはりもっともっと声を大にして、いろいろな形で発信してほしいと思いますし、私たちもそれを求めているのです。ぜひそうして欲しいと思います。
中島 各地域の農畜産物について、取引先の売り場へ、中食・外食の加工原料供給やキット品開発へ、ネット販売向け商品開発等へと積極的に営業開発していきたいと思っています。
農家の奥さま方は生産者であり、家庭の主婦でもあるわけで、そうした皆様の商品作りに関する貴重なご意見・ご要望を、是非、お聞かせいただきたいです。産地の皆様の情報を、商品とともにお客様にお伝えする、懸け橋の役割を担っていきたいと思います。
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