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跳ね返せ 農協共販への不当な締めつけ JA高知県が高裁へ控訴2019年5月29日

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 JA高知県(旧JA土佐あきの訴訟継承人)が、ナスの共同販売に対して公正取引委員会から受けた独占禁止法に基づく排除措置命令の取り消しを求めた訴訟で、東京地方裁判所は、今年3月28日、棄却の判決を言い渡した。この判決は、JA土佐あきとは独立した組織である支部園芸部が行ったとされる系統外出荷制限行為が、土佐あき農協による組合員への拘束条件となることを認めたという点で、不当な判決である。この結果を受け、JA高知県は4月11日に東京高等裁判所に控訴状を提出、現在、控訴審に向けて準備を進めている。この地裁判決をどう受け止めるべきか、京都大学学術情報メディアセンターの石田正昭研究員に解説してもらった。

20190529 ヘッドライン ナスの栽培風景ナスの出荷風景

 

◆農協側主張を全否定

 土佐あき農協(現高知県農協安芸地区)の独禁法違反に関する東京地裁の判決は、筆者にとって意外なものであった。判決文を読んだが、東京地裁は被告(公取委)の主張を全面的にとり入れ、原告(土佐あき農協)の主張を退けた。ほぼ全否定である。少しでも現場を知る人間にとってみれば、形式的外観的な決めつけと虚構に満ちた不当な判決といってよい。訴訟承継人の高知県農協は直ちに東京高裁へ控訴した。
 この裁判では、原告側の訴訟代理人弁護士は復を含めて2人、これに対し被告側の指定代理人は10人で構成され、公取委の威信をかけた戦いであったことが読みとれる。公取委にとって、農協による訴訟は思ってもみなかった事態だったのではないか。
 事案の概要は次のとおりである。
 公取委は平成29年3月、土佐あき農協に対し、(1)農協以外への出荷を理由に、なすの生産者が組織する「支部園芸部」を除名された農家からは販売を受託しない、(2)支部園芸部が定めた系統外出荷手数料や罰金を受け取り、これを販売事業に係る経費に充てていた--ことで、農協以外へのなすの出荷を不当に制限していた(拘束条件付取引)とみなし、排除措置命令を発出した。
 これに対し、土佐あき農協は、違反行為をした主体の認定に誤りがあると主張して、被告に対し、排除措置命令の取り消しを求めたものである。
 原告側の主張は、訴訟代理人の高橋善樹弁護士による論文「独禁法の農業協同組合活動への適用--共同販売と系統外出荷制限、公正競争阻害性の判断について」(上杉秋則・山田香織編著『独禁法のフロンティア――我が国が抱える実務上の課題』商事法務)が、判決前の今年1月に発表され詳しく展開されているので参照されたい。
 最大の争点は、農協とは独立した組織である支部園芸部が運営している「なすの共販」に関して、農協が排除措置命令を受ける根拠がどこにあるのかという点である。

 

◆争点は5つ

 これについて、裁判の争点は、(1)土佐あき農協の「相手方」が組合員といえるか、(2)土佐あき農協が組合員の事業活動を「拘束する条件をつけて」組合員と取引していたか、(3)本件行為が「不当に」拘束する条件を付けた取引に当たるか、(4)本件命令が「特に必要があると認めるとき」に当たるか、(5)本件命令が独禁法「第8章第2節に規定する手続」に従って行われたか--の5点である。

 

◆「公取」寄りの地裁判断

 これらの争点に対する東京地裁の判断はおよそ次のとおりである。
 (1)について、原告は、支部園芸部が「権利能力なき社団」としての実体を有していることを前提に、農業者が支部園芸部に、支部園芸部が土佐あき農協に、なすの販売を順次委託していた旨主張するが、その証拠となる何らの規定、契約等は存在しない。支部園芸部と交わした事務受委託契約書は存在するが、これは支部園芸部の会計及び事務を土佐あき農協に委託するものであって、販売受託に係る事務を委託するものではない。
 一方、土佐あき農協には販売業務規定があって、これに基づいて、組合員から販売品の販売委託を受け、高知県園芸農業協同組合連合会へ販売委託し、その販売代金を園芸連から受け取った後に、諸経費、農協手数料及び支部運営手数料を控除し、その残金を農業者へ支払っている。集出荷場の土地建物や機械設備も土佐あき農協が所有し、作業員を雇って集出荷場を運営している。つまり、販売を委託するなすの授受、販売の結果として得た金銭の授受、販売受託の実施に必要な人的物的資源や費用の提供は、いずれも農業者又は土佐あき農協ないしその職員が行っており、これらに支部園芸部ないしその職員は介在していない。
 したがって、土佐あき農協にとって、組合員はなすの販売受託の「相手方」といえる。

 

◇    ◇

 

 (2)について、拘束条件とは「必ずしもその取引条件に従うことが契約上の義務として定められていることを要せず、それに従わない場合に何らかの不利益を伴うことにより現実にその実効性が確保されていれば足りる」と解すべきものである。これについて、支部園芸部は、支部員が支部園芸部の勧告を無視して系統外出荷を続けた場合には、除名又は出荷停止の処分を下すことができる旨定めるとともに、系統外出荷手数料及び罰金(支部園芸部では反当徴収金と呼ぶ)も徴収していた。
 ただし、その意思決定を土佐あき農協ではなく、支部園芸部が下していたとしても、土佐あき農協の「相手先」が組合員であることからすれば、土佐あき農協が、組合員の事業活動を「拘束する条件をつけて」組合員と取引していたといえる。
 (3)について、「不当に」拘束する条件が付けられていたかどうかは、「市場閉鎖効果」が働いていたかどうかで判断されるべきである。原告は、被告が本件で市場閉鎖効果が生じるメカニズムを具体的に提示していないと主張するが、高知県内のなすのほとんどを生産する土佐あき農協管内のなす農家の相当数に対して、本件行為による拘束が及んでいることからすると、商系業者の取引機会が減少するおそれがあること、すなわち市場閉鎖効果が生じていたと認定できる。

 

◇   ◇

 

 (4)について、わが国における独禁法の運用機関として専門的な知見を有する被告の専門的な裁量が認められるべきであり、その判断について合理性を欠き、裁量権の範囲を超え又はその濫用があったといえる場合に違法になるというべきである。
 組合員の多くが個人の農業者であることを考慮すれば、被告において、本件行為と類似の取引が繰り返されるおそれがあるとして、本件行為が排除されたことを取引の相手方に確実に認識させる必要があると判断して本件命令をしたことが、合理性を欠き、裁量権の範囲を超え又はその濫用があったとはいえない。
 (5)について、当初、被告が支部園芸部を土佐あき農協の内部組織と認定し、それに基づいて意見聴取を行い、「排他条件付取引」に該当するとして排除措置命令を発出したことは事実である。しかし、意見聴取の終結後に排除措置命令の原因となる事実の範囲が大きく異なることが判明した場合には、新たな意見聴取を行い、別の排除措置命令書に差し替えることは可能と解するべきである。

 

20190529 ヘッドライン 旧JA土佐あき本店旧JA土佐あき本店

 

◆立ち上がれ、全農協

 以上から明らかなように、東京地裁の判決は、協同組合に対する独禁法適用除外の範囲の縮小、あるいは同じことであるが独禁法第22条の「ただし書き」以降の適用の拡大が進んでいることを表している。農業者の「いいとこどり」や「機会主義的な行動」を容認、奨励するものであって、短期的には組合員による協同の萎縮、長期的には農協販売事業の衰退をもたらすものである。
 東京地裁への訴訟の段階で、敗訴であれば「高裁まで戦え」という声は組合員から上がっていたとされる。これを受けて、土佐あき農協だけではなく、高知県内の全農協が裁判費用の分担を申し出ていた。「いごっそう」と呼ばれる高知県民の気質をまことによく表した行動といえるだろう。
 公取委による土佐あき農協への排除措置命令は、東京地裁の判断(4)が示しているように、日本の全農協に対して「みせしめ」の効果を持っている。このことを踏まえれば、仮に東京高裁で負けた場合、高知県農協だけではなく全農協もまた、そこで判決を確定させるわけにはいかないだろう。ここは全農協の踏ん張りどころ、正念場である。「最高裁まで戦え」を合言葉に、全農協が裁判費用の分担を申し出ることが必要ではないか。「組合員による自治」を守るためにも、そうして貰いたい。

 

原告=JA土佐あきの主張の概要

争点(1)土佐あき農協の「相手方」が組合員であるといえるか?
○支部員(組合員)は、ナスの販売を支部園芸部に委託し、支部園芸部は当該支部員の意思に従い、農協、園芸連へと順次再委託するか、商系業者に再委託するかを選択。すなわち、農協は組合員からではなく支部園芸部から販売を受託していた。農協にとって組合員は「相手方」にはあたらない。

争点(2)土佐あき農協が組合員の事業活動を「拘束する条件をつけて」組合員と取引していたか?
○組合員からナスの販売を受託していたのは農協ではなく支部園芸部。組合員は支部員の資格を喪失した場合でも、園芸連の規格を満たすナスを栽培し、農協を通じて園芸連に依頼すれば販売委託は可能。
○系統外出荷手数料や罰金は支部園芸部が規約等に基づき支部員から徴収していたもの。農協が組合員に取引条件を課していたのではない。
○公取委は土佐あき農協が「自ら以外の者にナスを出荷することを制限する条件」を付けたことを何ら主張立証していない。

争点(3)本件行為が「不当に」拘束する条件をつけた取引に当たるか?
○公正競争阻害性があるかは市場閉鎖効果があるかの立証が必要。しかし、公取委は商系業者と組合員との取引機会の減少について極めて抽象的にしか示していない。どの程度の市場が閉鎖され、商系業者に事業にどのような影響が生じている何ら立証していない。

争点(4)本件命令が「特に必要があると認められるとき」に当たるか?
○公取委は本件行為が長期間にわたり行われたなどと主張するが、土佐あき農協が支部園芸部の行為を是正しなかったことを問題視するにすぎず、本件命令の必要性があるとはいえない。

争点(5)本件命令が独禁法「第8章第2節に規定する手続き」に従って行われたか?
○平成28年段階の排除措置命令書では公取委は支部園芸部は土佐あき農協の内部組織であり、土佐あき農協が系統外出荷手数料や罰金を徴収していたと認定し「排他条件付取引」に該当するとした。
○しかし、平成29年1月から3月になってからの検査、意見聴取で、支部園芸部は農協とは独立の組織であり系統外出荷手数料等は支部園芸部が定めて徴収していたなどと認定を変更。法令も「拘束条件付取引」に変更。
○同一事件につき意見聴取を再開できるのは独禁法59条に基づき、事実関係の判断を左右し得る新たな証拠を得た場合など。本件のようにまったく同じ事件で意見聴取を再開するのは違法。

 

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