【TPP】現場の不満は沸点-1500名集会で決議遵守要求2015年7月28日
全国農業者農政運動組織連盟などが主催し「TPP閣僚会合を前に国会決議の遵守を求める全国代表者集会」が7月27日に東京都内で開かれた。全国各地から1500名を超える農林漁業の代表者らが集まった。
(写真)主催者あいさつをする全国農政連の加倉井会長
主催者を代表し全国農政連の加倉井豊邦会長は以下のようにあいさつ。
「28日からの閣僚会合を控え、私たちの不安、不満は沸点に達している。私たちの生活に深く関わることにもかかわらず、情報が開示されていないからだ。
米でさえ5万t、20万tなどとさまざまな情報が新聞で踊っている。5万tと簡単にいうが私は茨城出身。水戸藩32万石に匹敵する。
アメリカの議員には情報が開示され日本の国会議員にはされないのは、TPPの本質そのものではないか。日本国憲法では国権の最高機関は国会と定められている。憲法などどうでもいいというのか。
2010年10月8日、菅元首相が唐突にTPP参加を表明し、私たちは即、その問題点に気がつき反対運動を始めた。自民党においては11月にTPP参加即時撤回を求める会が発足。その流れのなかで2012年暮れの総選挙で自民党はTPPに関する公約を発表した。
私たちはその公約を信じて真剣に選挙を戦った。その結果、自公で3分の2を獲得することになって自公は政権に返り咲いた。その公約を踏襲したのが、衆参両院の国会決議だ。私たち(が求めるのもの)は国権の最高機関である国会が決めたことを誠実に実行してほしい、ただその一点だ。国益を守るべく最善を尽くしていただきたい。日米先行合意などないよう求めたい。私たちも全力を尽くす」。
集会ではその後、農林漁業者代表による意見表明に続き政府、与党からのあいさつがあった。
現場からは政府の情報開示がないことへの不満と、国会決議遵守は国内農業、農村を守る「最低ライン」との声があがった。
【意見表明】
○石垣博隆・秋田県農協青年部協議会委員長(秋田県、水稲)
米の需給緩和に悪戦苦闘している現場をどう捉えて、5万tだ、7万tだと輸入を議論しているのか。この時点で再生産可能となるようという(国会決議の)文言から脱しているのではないか。
情報開示がないままのあくまでも報道でしかないが、こういった議論が本当になされているのであれば、これは脱退も辞さないというラインに来ているのではないか。
高校三年の息子が将来農業を継ぐといった。正直、すごくうれしい。その反面、未来が見えないこの経営をどうして息子に託せるのか、と。われわれが一生懸命がんばり、国が農業現場をしっかりバックアップしていただく、希望の持てる政策が今こそ国内で必要だ。国内の動きを安定させることが今のいちばんの課題だと思う。この決意表明は未来につなぐ決意表明であり、(衆参農林水産)委員会の決議を遵守することは当然の約束であることを再確認したい。
○松田香里・JA全国女性組織協議会理事(宮崎県、水稲・葉たばこ・繁殖牛など、JAはまゆう女性部) 一人の生産者、台所を預かる主婦、小学生の母親としてTPP交渉の現状に不安を感じ駆けつけてきた。TPPによる自由貿易が国民に利益をもたらすように言われているが本当か。米を何万トン輸入する、牛肉は段階的に関税を引き下げるなどの話があたかも決まったかのように連日報道され私たち農家には不安と不信感が渦巻いている。
安倍総理は2年前、TPP交渉参加にあたっての記者会見でもっとも大切な国益とは、世界に誇るべき日本の国柄であり息をのむほど美しい田園風景であり、みんなで助け合う農村文化である、これらの国柄を断固として守るといった。美しい農村の風景は私たち農家がそこで暮らし農業を営んでいるからこそある。その国益を守るための最低ラインが国会決議だと思う。
農産物について重要5品目は再生産が可能となるよう除外、または再協議の対象とするという国会決議は、地域の農業と地域経済を守るための譲れない一線である、という国民との約束を信じている。毎日の食べ物は子どもたちの心と体を作っている。その食べ物は安心して食べられる国産にしたいと強く思う。今、自由主義の名のもと、いろいろなものがグローバル化されている。しかし食のグローバル化ほど怖いものはないと思う。グローバル化とはすべてのものをドルや円に置き換え、安い方、効率のよいものを選択しようというもの。しかし、食は毎日の私たちの体をつくる大切なものだ。安ければいいというものではない。食料危機が問題になるなかでミラノ万博が開かれている。安倍内閣はミラノで何を訴えようとしているのか。日本食がおいしいとか海外で受けるとか、そんなふわふわした表面の理解だけで日本の食や農村を語ってほしくない。
TPPで安い食材が入ってくる、手間のかからない食事ができる、どこに暮らしていても同じものが食べられる、これを言い換えれば、おかあさんの味は必要ない、地域伝統料理、郷土料理は必要ない、その食材を活かす豊かで美しい田園風景、ふるさとなど必要ないと言っているのと同じだと思う。それで安倍総理は息をのむほど美しい田園風景、みんなで助け合う農村文化という国柄を守れるというのか。子どもたちにふるさとの安全な食、おかあさんの味、安心して暮らせる豊かなふるさと、農村をしっかりとしたかたちで引く継ぐことが私たち親の責任だ。
お父さんやお母さんたちが一生懸命運動してくれたおかげだ、と将来子どもたちに言ってもらえるよう最後の最後まで、みなさんともにがんばろう。
○齊藤和弘・北海道農協青年部協議会会長(北海道、酪農)
20年前、親の背中をみながらこの地で牛とともに暮らすことを思い就農した。しかし今、報道では乳製品でも低関税、もしくは無税という話題が出ている。自分が住む鶴居村は多くが酪農家。まさに酪農家の町といっても過言ではない地域だ。もし報道が真実であるなら町自体が消えてしまう、そんな不安さえ抱かずにはいられない。北海道には鶴居村のような町が多く存在している。日本全国にあると思う。
安倍総理は国益を最大限実現する交渉とも言っていた。国益とは何か。われわれが涙を飲んで誰かが笑うのが国益なのか。違うはずだ。われわれにもきちんと幸福を追求する権利はあるはず。その集会が今日であり、今までの闘いだったと思う。真実はどこにあるのか分からないが今の報道が正しくないことを願い、国益を守ること、そして国会決議を守ることは最低ラインのことだと思う。われわれ農業者にとっても笑顔のある交渉の中身であってほしいと思う。今日ここに来られなかった全国の農業者とともに、これからも幸福を求め一緒に闘っていこう。
○北村光弘・全国漁青連理事
水産物はこれまでの貿易自由化交渉のたびに関税が引き下げられ、わが国の水産物市場は十分に開放されている。それにともない安い水産物が海外から押し寄せ水産物価格は低落を続けてきた。
われわれ漁業者は強い水産業づくりに向け「浜の活力再生プラン」に基づく自らの取り組みに全国の浜で取り組んでいる。
TPP交渉の結果、多くの品目で関税が撤廃されることになれば輸入水産物がさらに増加するともに、価格面で相関関係の強い畜産物が一部報道されるような関税引き下げとなれば魚介類への連鎖的な影響も懸念される。
魚の値段はさらに下落し国内生産額の大幅な減少という事態となれば、われわれ自らの改革の努力が無に帰すことになる。
さらに水産加工業や流通業にも大きな打撃となり、漁村は疲弊し環境保全、国境監視、海難救助機能も発揮できなくなるなど国の根幹に関わる問題に直結するということを認識すべきだ。TPP交渉では何としても国会決議を堅持するよう強く求める。
○松原秋一・宮崎県農業経営者組織協議会会長(宮崎県、養豚)
飼料価格の高騰、農畜産物や重油価格が不安定ななか、農家を取り巻く環境は厳しいものがある。われわれはTPP交渉に関して国会決議の遵守、情報開示を総会や研修会で幾度となく決議してきた。
TPPは米国との間で豚の関税率が大きな焦点の1つになっている。全国紙による関税の記事はわれわれ農家にとって一喜一憂、不安が大きくのしかかってきている。関税率が下がり安い豚肉の輸入が増えれば個人の養豚業は国内から消えてしまう。政府は期限があるかのように前のめりの合意をめざしている。農林水産物の重要品目を除外、または再協議の対象にするという国会決議を守ってほしい、情報開示のないまま国民の判断のできない状態での交渉は進めるべきではない。これが私の本音だ。
安全・安心に、そして安定的に食料を生産することは農業者の責任でもある。責任をまっとうできないことは国民に対する債務不履行である。われわれは責任を果たす。そのためにも政府はわれわれ農業者が農業を継続できるよう「国会決議の遵守」をぜひ守ってもらいたい。農業者は食料安全保障上、しっかり責任を果たす覚悟はできている。日本の農業が継続でき、安全・安心な食料を安定的に供給できることを切に望む。
(以下、続く)
(関連記事)
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