ゲノム編集技術の規制 環境方針案を評価-日本育種学会2018年10月16日
(一社)日本育種学会は10月1日、環境省がまとめたゲノム編集技術の規制方針について基本的に評価する声明文を奥本裕会長名で発表した。環境省のパブリックコメントにも提出する。
ゲノム編集技術とは、ハサミの役割をする人工制限酵素の働きを利用して標的とするDNAの塩基配列を切断し変異を誘導するのが基本だが、環境省のゲノム編集技術に関する規制の考え方は、DNAを切断するだけの技術は外部から遺伝子が組み込まれないとして、規制の対象外とした。
また、ハサミの役割をする人工制限酵素を働かせるために、目的とする場所に導入するためのガイド役としてRNAを利用する技術もあるが、この場合も導入されたRNAが自殖や交雑によって除去されるため、外部からの遺伝子が残存しない。環境省の方針案ではこれも規制の対象外としたことを日本育種学会は評価し、この方針であれば「日本の各育種機関・研究所・大学等はもちろん種苗会社においてもゲノム編集を使った改良技術を実践することができ、日本独自の品種改良を通じて将来のわが国の食料の安定供給に大きく貢献できる」と表明している。
環境省による「ゲノム編集技術の利用により得られた生物のカルタヘナ法上の整理および取扱い方針について(案)」に関する
意見募集についての日本育種学会からの声明文
一般社団法人日本育種学会は、上記の意見募集に際し以下の声明を発表します。
世界人口が急激な増加をたどる中、想定を超える地球環境変動が作物生産の安定性を脅かしています。この問題を克服するひとつとして新たな品種改良技術の導入と品種開発は、ますます重要となっています。日本では独自の研究成果に基づいて品種開発を進め、食料自給力・国際競争力の確保に努めてきています。これまでの研究成果により、農業上重要な役割をもつ遺伝子が多数同定され、目的とする遺伝子を改良して従来にはない新しいタイプの品種を開発するための知見が蓄積されてきました。このような背景の中、とりわけ注目されているのがゲノム編集技術です。この技術は細胞の中で「人工制限酵素」と呼ばれる酵素を働かせて目的とする農業上重要な遺伝子にだけ変異を導入することを可能にしました。多数の変異を導入し、その中から有用な変異個体を選抜する従来の変異誘導技術と比べると、意図しない遺伝子の変異を数百分の一程度に抑えることができます。また、ゲノム編集技術の利用により育種年限の大幅な短縮に加えて、同時に複数の遺伝子の改良も可能になります。作物育種においては、多くの場合ゲノム編集に必要な人工制限酵素の細胞内への導入の際に遺伝子組換え技術を利用するため、ゲノム編集により育成された作物のカルタへナ法上の取り扱いに対して様々な議論がされていたところです。
今回、環境省が検討会を主催し、各方面からの有識者の議論を経て「ゲノム編集技術の利用により得られた生物のカルタへナ法上の整理および取扱い方針について(案)」が提案されました。提案された方針(案)が、「生物が細胞外で加工した核酸を移入した生物ではない場合、あるいはゲノム編集後に生物に移入した核酸またはその複製物が残存していない場合はカルタへナ法の規制の対象外とし、対象外となる"ゲノム編集により得られた作物"の野外栽培は提供される情報に基づいて主務官庁が判断して認める」、とした点を高く評価します。提案された方針(案)であれば、日本の各育種機関・研究所・大学等はもちろん、種苗会社においても、ゲノム編集を使った改良技術を実践することができ、日本独自の品種改良を通じて将来のわが国の食料の安定供給に大きく貢献ができます。また、提案された方針(案)では、カルタへナ法の対象外とするゲノム編集により得られた作物であっても、「当該作物に関する知見の収集と作出経緯を把握できる状況が必要である」としており、使用を意図する者あるいは使用した者に対して生物多様性への影響に関する情報の提供を求めている点も評価します。今後、環境省、厚生労働省、文部科学省ならびに農林水産省等が連携し、情報提供に関する手続等を明確にすることで、本技術によるすぐれた品種が速やかに社会実装できる環境を整えるようにお願いする次第です。
平成30年10月1日
一般社団法人日本育種学会 会長 奥本裕
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