ゲノム編集技術 一部を規制対象外へ-環境省2018年9月6日
環境省の中央環境審議会自然環境部会は、今年5月からゲノム編集技術に対する規制のあり方について審議してきたが、同審議会のもとに設置されれている専門委員会は8月30日の会合で、この技術のうち、外部から遺伝子が組み込まれない場合は規制の対象外とする方針を決めた。環境省はパブリックコメントを実施した後、秋に中央環境審議会に報告し正式に運用方針として決める。
◆ゲノム編集技術とは?
ゲノムとは生物が自らを形成・維持するのに必要な遺伝情報のことで、その情報はDNA(デオキシリボ核酸)のなかに収められている。
DNAが持つ遺伝情報は塩基配列のかたちで保持されており、その塩基はアデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)の4種類ある。
ゲノム編集技術とはDNAを切断する酵素を使って、この塩基配列を改変する技術だ。この技術を使えば狙った場所を切断し、塩基の置き換えや、欠損、または新たな遺伝子の導入を行うこともできる。
この技術は20年近く前に発表されているが、最近になって狙った場所を精度高く改変でき、しかも研究者・技術者が手軽に利用できる技術(CRISPR/Cas9、クリスパー・キャス・ナイン)が開発されたことから農作物の品種改良をはじめ、さまざまなライフサイエンス分野での利用が始まっている。
筑波大学生命環境系教授でつくば機能植物イノベーション研究センター長の江面浩氏によると、ゲノム編集技術とは▽目的の遺伝子を正確に探し出す技術、▽探し出した遺伝子に変異を入れる技術、この2つを組み合わせた遺伝子変異導入技術だと解説する。
品種改良との関係ではゲノム編集は「多様な品種改良技術のなかの1つ」であり、現在、日持ち性や高糖度などの形質を持つトマトやメロン、多収性のイネなどの開発が研究されている。
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◆カルタヘナ法とは?
このようにゲノム編集技術が利用されはじめたことから規制をめぐる議論も始まり、その皮切りとなったのが環境省によるカルタヘナ法の観点からの今回の審議である。
カルタヘナ法とは、日本国内で遺伝子組み換え生物の使用等について規制し、生物多様性を確保するための法律。遺伝子組み換え生物が生物多様性に影響をしないか事前に審査することや、適切な使用方法を定めており、安全性が確認されるまで屋外での栽培、生育は禁止されている。
環境省の専門委員会はこの法律から見て、現在のゲノム編集技術が法律の対象になるかどうかを検討してきた。
前述したように、ゲノム編集技術には標的とするDNAの塩基配列を切断することが基本だが、大きく3つの技術に分類される。
1つは標的とする塩基配列を酵素で切断するだけの技術。切断部分が自然に修復する際に元通りに戻らず、塩基が欠失したかたちで修復したり、塩基の置き換えが起きるなどを誘導して変異を起こす技術である(SDN-1)。
2つ目は標的の塩基配列を切断する際に、切断部分の塩基配列を一部変えたDNA断片(核酸)を細胞内に移入する方法である。切断部分が修復する際、その外来の核酸(またはその複製物)が導入される。(SDN-2)。
3つ目は外来遺伝子を組み込んだDNA断片(核酸)を細胞内に移入する技術。標的塩基配列を酵素が切断し、その後、修復するときに切断部分に外来遺伝子(またはその複製物)が導入されることを狙う技術である(SDN-3)。
◆情報提供を求め安全性確認
カルタヘナ法では遺伝子組み換え生物を外部由来の「核酸」が導入されているかどうかで定義している。
それに照らすと前述した3つのゲノム編集技術のうち、SDN-2とSDN-3はいずれも細胞外で加工した核酸であるDNA断片や遺伝子を導入をする技術のためカルタヘナ法の規制対象になる。
一方、DNAを切断するだけのSDN-1の技術は外部由来の核酸を導入する技術ではないことから、今回、専門委員会は規制の対象外とした。ただ、DNAを切断するハサミの働きをする酵素はタンパク質だが、ほかにRNAを活用する技術もある。RNA(リボ核酸)は核酸だが、切断部分が修復するときには消失してしまっており、組み込まれることはないため規制の対象外とされた。
環境省の担当者によると今回、外部由来の核酸を導入しないゲノム編集技術を規制対象外としたのは、あくまでカルタヘナ法上の「遺伝子組み換え生物」に該当しないとしたのであって「安全であるとは言っていない」としている。
もともと育種技術のひとつである放射線照射や化学物質による突然変異の誘導による作物は遺伝子組み換え生物としていない。DNAを切断するだけのゲノム編集技術についても自然界で起きている突然変異と同じであるという位置づけだ。
ただし、新しい技術には違いはなくまだ知見も少ない。DNAを切断するだけの技術といっても、標的とする部位が切断されているかどうか、あるいはハサミがあちこち切断していないかどうか、など検証していくべき課題は多いとの専門家の指摘もある。
環境省はこうした問題もふまえ、規制対象外にはするものの、屋外で栽培などをする場合は自主的な情報提供を求めるほか、ゲノム編集で作成された生物が生物多様性への影響が生じるおそれがあると判断したときには環境省や所管省庁は必要な措置をとることにしている。
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