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農政:自給率38% どうするのか?この国のかたち -食料安全保障と農業協同組合の役割

飽食追求のいまだからこそ必要な飢餓の歴史教育(3)【薄井 寛(元JC総研理事長)】2018年10月4日

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◆飢餓の歴史教育こそ食育の大事な要素に

 学習指導要領は食育推進を重視する方針を明確にする。その食育基本法は前文で、「21世紀における我が国の発展のためには、(中略)すべての国民が心身の健康を確保し、生涯にわたって生き生きと暮らすことができるようにすることが大切である」とし、「様々な経験を通じて『食』に関する知識と『食』を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てる食育を推進することが求められている」とした。
 さらに同基本法は、食育の目的を「国民の心身の健康の増進と豊かな人間形成」(第2条)と定め、「食に関する体験活動と食育推進運動の実践」(第6条)や「伝統的な食文化、環境と調和した生産等への配慮及び農山漁村の活性化と食料自給率の向上への貢献」(第7条)など、食育の具体的な取り組み方向について規定した。
 ところが、食育基本法は、「21世紀における我が国の発展のため」としながらも、輸入農産物を含め、今世紀における国民食料の十分な供給・確保を大前提にしているという点で、将来への視点を欠いている。
 と同時に、農業生産と食料難の「歴史」に学ぶという視点が同法から完全に抜け落ちている。すなわち、食料・農業・農村基本法に基づき、「緊急事態食料安全保障指針」を策定するほど、政府は緊急事態への危機感を強めているにもかかわらず、それに備える生徒たちの知識と力を養うという発想を食育には少しも求めていない。食育基本法には、食料の大切さ、不足の恐ろしさ、不足へ備えることの重要性と、不測の事態に食料を分け合うことの必要性などを、食料難の歴史から学ぶという姿勢がないのだ。
 2011年3月11日に発生した東日本大震災をはじめ、その後の度重なる大規模な自然災害の経験から学び、南海トラフ巨大地震などの発生に備えるためにも、「歴史に学ぶ」という視点を含め、食育基本法の改正が求められる。私たちは特に、東日本大震災から多くのことを学んだはずだが、次々と大災害が発生するなか、その学んだ大事なことを忘れがちになる。
 東日本大震災の発生後、多くの避難所で1日おにぎり1個、再開された学校給食ではコッペパン1個といった事態が長期に続いたが、一方、東京などの都市部ではスーパーやコンビニから食料品が消えるほどの買い占めが広がった。当時、国内のメディアは、避難所で食事の配布をじっと並んで待つ被災者たちの整然とした姿が、海外では、感心して報じられた旨の情報を伝えたが、次のような報道は無視された。
 2011年3月16日付けのイギリスの有力紙ガーディアンは、「地方の避難所ではゴルフボールほどのおにぎりを1日1個しか食べられない。被災地では買うものもないというのに、東京ではパニック・バイイング(買い占め)が広がっている」との被災者の声を報じた。
 飽食をあおる社会の風潮が強まるほど、食料難の体験は風化し、将来の食料危機に備える人びとの警戒心は劣化していく。その劣化が、メガディザスター(巨大災害)の突然の到来によって、未曽有のパニック・バイイングと局地的な飢餓の同時発生など、予想を超える大混乱と悲惨な事態を引き起こしかねないのだ。そのことを、食料自給率38%の島国に住む私たちは忘れてはならない。食育にはこの「劣化」を防ぐ機能を付与すべきなのだ。

 

特集「自給率38% どうするのか? この国のかたち-食料安全保障と農業協同組合の役割」まとめページ

 

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