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農政:自給率38% どうするのか?この国のかたち - 挑戦・地域と暮らしと命を守る農業協同組合

【座談会】日本農業は"存亡の機" 現状打破へ"行動の時"(下・2)2019年1月9日

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・「現代の老農」に聞く農と地域・食といのちの未来

【座談会出席者】
・星寛治氏(農民・詩人)
・山下惣一氏(農民・作家)
・大金義昭氏(文芸アナリスト)

 「老農」とは明治時代の経験に富んだ在来農法による農業指導者のことを言う。現在は栽培技術のマニュアル化が進み「老農」の出番はなくなったかのように見えるが、農業を支える農村社会そのものが崩壊しつつあり、今日的な農業・農村のリーダーが求められる。その意味で、「現代の老農」ともいえる存在で、農民であり作家の山下惣一さんと、同じく詩人の星寛治さん、それに文芸アナリストの大金義昭さんに登場していただく。

地の物を食す FOOD=風土
健康で長生きできる

 

 大金 小農・複合・家族経営という「農のかたち」を支える考え方のひとつに「身土不二」といったキーワードもあるのでしょうか。お二人とも同時期に唱え始めているように思われるのですが。

 

 山下 直売所や地産地消に取り組んでいたら、「身土不二」に思い至るわけですよ。世界中の人たちが、その土地で出来るものを食べているのが当たり前で、だからFOOD(風土)と言うわけじゃないけれどもね(笑い)。その土地で出来ないものを食うから、他所から輸入する話になる。それで食料自給率を下げ、田んぼなんかをどんどん遊ばせている。そして耕作放棄地が40万haとかなんとか騒いでいるわけで。これは農家が悪いのか、政府が悪いのか、ということですよ。

 

 大金 明らかに政府が悪い。

 

 山下 そうですよ。それをあたかも農家が悪いみたいに言っている。

 

リンゴ園で、たかはた共生プロジェクト「紅軍団」と  食と健康との関わり合いで、いわゆるオーガニックと慣行栽培との食品比較をしたアメリカのウラドガー大学の調査結果によれば、見た目は変わらなくとも中身が決定的に違うんですね。
 特にミネラル成分なんか。そういうデータに触れながら、食生活や健康の問題を考えると、出来れば地場産のものを、具体的には「四里四方」でとれたものを食卓の7~8割とり込んだ食生活をしていれば、人間は健康で長生き出来ると、古来教えてきたんですね。
 ですから「四里四方」のものを食べるという先達の教えと「身土不二」という考え方が期せずして一致し、そういう考え方をわが家の食卓だけでなく、地域全体の食と農のあり方に広めていくことが大事だと思うようになった。それが「食と農の町づくり条例」などに結晶していくんですがね。

(写真)リンゴ園で、たかはた共生プロジェクト「紅軍団」と

 

 山下 反論する側からすれば、昔は流通が発達していなかったから、近くでとれたものを食うしかなかったけれど、これだけ流通が発達したなかで、何でそんなことをしなきゃならないのかと言うわけですよ。無論それに私は再反論出来るけれど、自分がガンになって『身土不二の探究』もなかろうと言われかねないからね。

 

 大金 それはしかし、年齢でしょ。山下さんご自身がおっしゃっている。(笑い)

 

 山下 そうか、そういうことか。(笑い)

 

  「身土不二」は日本古来の考え方というより、中国の仏教にその源流があるわけですよね。

 

 山下 世の中と人間とは、一緒だということ。世の中をつくっているのは、人間ですからね。食と農も一緒だけれど、もともと、社会が悪いのは人間が悪いということですね。

 

"生消提携"さらに強化
国に対抗、自らを守る

 

 大金 TPP11の発効やら事実上の日米FTA交渉の開始やら、農業環境は最悪の事態に突入していく危機感が募るなかで、どうでしょうか、農業を担うこれからの世代が生き残り、生き延びる道はあるのでしょうか。

 

農民・詩人 星寛治氏  日米二国間交渉で想定される猛烈な農畜産物輸入攻勢を、今の日本の外交力によって阻止できるかというと、非常に危ういですね。「小農家族主義」や「地域の自立」を目ざす場合に、怒涛のようなその津波の渦に呑み込まれずに生き残れるか、本当に新たなテーマに直面せざるを得ない。しかし、これまで長年に渡り培ってきた生産者と消費者との信頼に基づく共通の価値観、「提携」と呼んできたその絆をさらに強めることによって乗り切っていくことは、一縷の望みとして可能だと思っています。
 これは明らかに市場経済の外側にもう一つの経済のあり方、公正な流通のあり方の可能性があるからだと思います。「経済成長」を伴わない人間の福祉社会はつくれないという官邸を中心にした攻勢に対し、そうではなく、一人ひとりの人間としての自立を根底に据えた絆を結び、強め合うことによって乗り越えていく。そういう道は必ずあると思えるんですね。
 産業経済という物差しだけじゃなく、地域に生きる人間の幸福度というか文化度を新たな物差しに据えていく。地域社会の中で、あるいはその外側の人たちとも価値観を共有することで「生命共同体」のようなものを至る所で創り上げていく。その総合によって、いわゆる上からの論理とは異なる、下から上へ向けての新たな迫り方が考えられるんじゃないでしょうか。ですから、馬鹿の一つ覚えのように私が何十年となく言ってきた「わが家の自給、地域の自給そして国の自給」と下から上に積み上げる取り組みを、地道に実践していくということですね。

(写真)農民・詩人 星寛治氏

 

 山下 星さんとは長い付き合いですが、いつも言われるのは、私の話は面白い、だけど未だかつて感動した人は一人もいないというわけです。星さんはね、話は面白くない。しかし感動したという人が必ずいる(笑い)。第三者が言ってはいかんが、星さんは同じ道を愚直にずっと生きてきて、私たちが容易に出来んことをやっているから感動するんだね。私は被害を受けないように、損をしないようなことばかり考えて、自分を守ろうと生きてきたわけですよ。

 

 大金 圧倒的多数が、皆そうでしょ。

 

 山下 だから、自分を守る農業ですよ。自衛農業ですね。なかには、国の政策に乗っかってやっていこうという人もいるけれど、それはうまくいかんのだけどなあ。だからどうだろう。村の若手と言っても中年だけど、この世代の人たちは何をどうすればいいのかわからない。将来のことを考えられない状況になっている、と私は思っています。
 だからこれ以上、農業が痛めつけられるなら、もう逃げ回るのはやめて国と対抗すべきじゃないの。ムシロ旗を立てて。今度は地方選も参院選もあることだから、いったい何を考えているんだと。消費者も不安でしょう。恐らく日本には、必ず食糧危機が来ると思いますよ。TPPも発効しているし、アメリカは、食料を戦略物資として使うと公言している。

 

 大金 高い自動車関税の脅しを受けて、農業がまたぞろ生贄(いけにえ)にされようとしている時に、目先の「国内対策」などで矛を納めるようなわけにはいかない、国内農業の崩壊局面のように思われるんですがね。

 

 山下 だけどね、日本は「貿易立国」なんだから、外国に自動車などを輸出している以上、向こうからも物を買わなきゃしょうがないじゃないか。そういう論理がこれまで勝ってきたわけですよ。

 

 大金 それなら輸出産業は、稼いだ利益の一部を、直接、一次産業に還元すべきじゃないかと思いますよ。

 

 山下 ともかく、農業を守るのは農家のためだという考え方が間違っている。私たちが何か言えば、また補助金ほしさだとか、すぐ言われる。これまでそう言われてきた。だから、何も言わんで、自分だけ守ればいいと思ってやっているんだ。

 

  80余年の人生の中で、数えきれない「曲がり角」や「峠越え」をしてきましたが、現在の状況は極限まで追い詰められていると、このままでは国内の農業が完全につぶされてしまうのではないかという危機感を抱いていますね。こうした局面でこそ、フランスの農民と市民のような、互いに価値観を共有する関係を創り上げて、国に異議申し立てをしていく。そういう行動の時だと思いますね。

 

 山下 選挙ですよ、選挙。(笑い)

 

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