農政:農協研究会第15回研究大会
【報告3】エネルギー兼業を実現 ドイツの家族経営 河原林孝由基 農中総研主席研究員2019年5月21日
河原林氏
ドイツ・バイエルン州には8万6000経営と全ドイツの3分の1が集中する。もっとも農業が盛んな地域だが、全ドイツ平均50haに比べると35haと小さく兼業農家の割合も高い。
特徴はバイオガス発電に取り組んでいること。戸別型よりも協同組合方式で畜産と耕種が数十戸単位で協同施設を立ち上げる事業が中心だ。再生エネルギーで農業経営を下支えするという家族農業のもうひとつの道の追求である。
バイエルン州も農業政策「バイエルンの道」を打ち出し、専業的経営の育成だけでなく農村地域に農業以外の就業機会を創出して副業農家にも適切な居場所を提供し、農業環境・景観の維持に貢献する農家を確保することをめざしている。
また、生産者の自助組織の結成支援も重点にしており、農業経営間協力を「マシーネンリンク」と呼ばれる機械の共同利用組織がある。
こうしたマシーネンリンクとバイエルン州の農業者組織が出資して協同バイオガス発電を行う会社(アグロクラフト社)を設立している。ライファイゼンが「村のお金は村に」を掲げたように「村のエネルギーは村に」をスローガンとしている。同社のもとに5つの協同バイオガス発電施設があり、180農場が参加している。
しかし、電力の固定価格買取制度の導入後、発電収入を増やそうと家畜のためのデントコーンではなくエネルギー作物として発電のためだけの栽培が拡大し、トウモロコシだらけになってしまった。食料生産の経済性を度外視した歪な農地価格が形成されたり、輪作体系の崩壊も招いた。
一方、市民からは生物多様性の保護や有機農業を求める署名運動が広がり州政府もそれに応え、農業界にも環境への配慮を求めた。農業は決して社会から支持されてはいない。そこでトウモロコシの作付け比率を減らし生物多様性を確保する野生植物栽培への転換が推進されるようになった。
経済的には不利だが、経済だけではなく環境、社会から要請される課題解決に結びつく生産体系として農家も理解し、州政府も参加農家には補償を行っている。
発電事業は確かに農業経営を下支えしたが、エネルギー一辺倒のモノカルチャーとなって弊害も生んだ。持続可能な農業と地域に向けて、野生植物栽培などの新しい実践が始まっている。
このような「経済×環境×社会」の課題を統合的で同時に解決するには、家族農業を統合する協同組合や生産者組織の発展を支援する環境を作り出すことが一層重要になっている。
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