トップページにもどる 農業協同組合新聞 社団法人農協協会 農協・関連企業名鑑
「日々の地道な積重ねで事故防止と品質保持を 
 
12月15日13年2月15日
農業倉庫火災盗難予防月間スタート

全国JA・JA経済連・JA全農・農業倉庫基金
 食糧法が施行され、コメ流通の中心が自主流通米となって5年が経った。コメを円滑に、計画的に流通させるためには、ストックポイントである農業倉庫と規格を統一させる農産物検査が不可欠だといえる。そのコメ流通の両輪ともいえる検査が民間に移行する。保管管理を行う農業倉庫も、自主管理つまりJA自らの判断と責任でその業務を全うしなければいけない時代を迎えている。JAグループでは、毎年この時期に「農業倉庫火災盗難予防月間」運動を展開し、事故防止に万全を期しているが、今年は火災・盗難予防に加えて、品質保持管理にも力を入れた運動を展開することにしている。
 そこで「いわて純情米」として産地銘柄の確立に取り組んでいるJA岩手経済連と、最新鋭のラック式玄米低温保管施設による農業倉庫「元氣館」を建設したJAきたかみに取材した。
月間のすすめ方
保管管理体制の強化と火災盗難防止対策の再点検を −JA全農米穀販売部長 水野 文雄
火災・盗難予防と米の品質保持を万全に −(財)農業倉庫基金 常務理事 上住 建之
きめ細かな保管管理で火災・盗難事故をゼロに −食糧庁計画流通部 業務流通課長 岡島 敦子

計画的にコメを販売・流通する基幹施設 ・・・ 農業倉庫

倉成宏技術参与
農業倉庫の研修風景

 「出来秋に入庫したおコメをいつまでも鮮度を保って管理することが、そのおコメの評価につながります。長期に保管されるおコメは温度や湿度に影響されて徐々に成分が消耗しますから、そうならないように、シッカリと保管管理体制を整えなければいけません。農業倉庫は生産者の皆さんの大事な財産を預かっているのですから…」と、長年にわたり農業倉庫の巡回指導をしているJA岩手県経済連米穀部の倉成宏技術参与は農業倉庫の役割を語ってくれた。

 コメは1年1作の作物だから、収穫され倉庫に入れられてから消費者や実需者の手に渡るまで、長期に保管されることになる。長期に保管されたコメであっても出来秋の新米と同様な品質が保持されないと、どんなに新米時はおいしくても、消費地での評価は低くなってしまう。
 品質を保持して長期に保管することで、はじめて円滑に、実需にあわせて計画的に販売・流通することができるわけで、それは農業倉庫の保管管理にかかっているといえる。

 いま、生産サイドでのコメ収容力は、農業倉庫の702万8000トンにカントリーエレベーター(CE)の約200万トンを加えた900万トン強だ。農業倉庫は、CEの設置や最近の需要動向を踏まえた倉庫の大型化や低温化など倉庫整備が進められてきた結果、昭和60年の1万5408棟・852万3000トンから今年度は9439棟となっている。保管機能の面からみると、低温化率は年々高まり、準低温を含めて収容能力の46%・320万6000トン(営業倉庫は82%・390万トン強)となっているが、備蓄・調整保管制度、無くん蒸保管、長期保管の必要性などの点からみれば、低温倉庫はまだまだ不足しているのが現状だ。
 また、100坪未満(1000トン未満)倉庫が60%近くあり、そのほとんどが建築後30年以上と、小さく古い倉庫が数多くあるのも農業倉庫の特徴だといえる。

 最近、コクゾウなどの害虫クレームが消費者から卸や精米工場に寄せられることが多くなっている。その発生源は産地だと考えられ、害虫やネズミの防除を含めたきめ細かな保管管理が求められ、農業倉庫の重要な課題となってきている。

経営トップがまず現場をみることから ・・・ JA岩手県経済連

◆低温化率70%と全国平均上回る

 岩手県は北海道を除けば一番広い県で、面積は152.7万ヘクタールとほぼ四国4県と等しい。その内耕地面積は17.1万ヘクタール。水田面積は耕地面積の約60%の10万ヘクタール。コメの基準数量は23万1000トンで、品種別の作付は「ひとめぼれ」が56.5%、「あきたこまち」24.9%、「かけはし」4.9%、「ササニシキ」1.7%と(12年)、ひとめぼれが半数以上を占め、県南産は6年連続で「食味ランキング 特A」(日本穀物検定協会)と高い評価を得ている。
 県内には農業倉庫が318棟あり、その収容力は約30万トン弱。低温・準低温率は70%と全国平均を大きく上回っている。この他にCEが30施設あり、7万8000トンを収容することができる。

◆保管管理日誌は毎日記帳が基本

 長年、農業倉庫を見てきた倉成さんは、日常的な管理を確実に行うことが、農業倉庫業者としてのJAの基本だという。日常的管理とは、まず「現場を見ること」だ。倉庫を実際に管理している保管責任者は毎日見まわり、倉庫の状況を毎日「保管管理日誌」に記帳し、上司に報告する。上級責任者や総括責任者は、その報告を受けて、適切な指示・指導を行うことが事故のない保管管理につながる。管理日誌のまとめ書きは「事故のもとになるから」絶対やめるべきだとも。
 そして上級管理者や総括責任者も、週1回、月1回見回りをして「現場を見ることで、適切な指導を行うことができる」。そのことで、倉庫業者としておのおのがその役目を果たしていることになると強調する。

◆「白衣着て作業する」感覚が必要

 コメが積まれた倉庫は、ネズミやコクゾウなど害虫にとっては絶好の餌場だ。最近、コクゾウなどのクレームが多くなっているというが、「清潔感がいま倉庫にも求められています。白衣を着て作業する感覚が必要なんですよ」と倉成さん。害虫防除のために、防虫剤などを撒いても、ホコリやゴミがあればその効果は半減すると、専門家は指摘する。
 また、ホコリやゴミが火災の原因になったケースもあるように、「清掃」は倉庫管理の基本ともいえる。「1に清掃、2に清掃、3、4がなくて5に掃除」とは、ある倉庫担当 者の言葉だが、その心がけが事故を防ぐともいえる。

◆「冬暖かく、夏は涼しく」が目安

 コメの流通拠点である倉庫にいま求められるのは「品質の保持」だ。コメは温度や湿度によって呼吸量が大きく変化するので、その管理が品質保持の生命線だ。
 穀温管理の目安は「冬暖かく・夏涼しく」が目安だと倉成さんはいう。特に「冬にあまり低温保管すると、夏の管理が難しくなる」という。その温度の目安を岩手では表1のように考えている。そして毎日の見まわりは、穀温、庫内の温度・湿度などに急激な変化がないか、水分、肌ズレはどうかなどポイントを決めて行う必要がある。
 また、常温倉庫の場合には、夏越しには限界があるので、低温・準低温倉庫への移動集約保管を計画的に実施する必要があるが、岩手県ではそのメドを6月上旬においている。  「毎日の地道な管理が積み重なって、消費者に喜ばれるおコメになるんです」という言葉のもつ意味は重い。

表1 穀温管理の目安
  冬期 これ以下、下げない 夏期 これ以上、 上げない
常温倉庫 最低3〜4℃ 最高23〜24℃
低温倉庫 最低7〜8℃ 最高14℃(l 5℃)
準低温倉庫 最低7〜8℃ 最高18℃(200 C)
( )は指定要件でこれ以上上げない


「販売力強化」のために最新鋭倉庫を建設
・・・ JAきたかみ

◆コンピューター制御で庫内は無人化

JAきたかみのラック式
玄米低温保管施設
「元氣館」

 岩手県の中央部、奥羽山系に源を発する和賀川と北上川が合流する豊穣な平野にJAきたかみ(北上市農協、藤村在明組合長)はある。正組合員5441名、准組合員1874名。販売事業の70%近くをコメが占めている。
 ここに昨年10月、東北最大規模の8万俵(4800トン)の玄米を調整・保管する「米品質物流合理化施設『元氣館』」が建設された。これは均質化装置で一定品質にそろえられた玄米をフレコン詰め(1トン)にして、高層自動ラック方式の低温保管庫に保管する低温倉庫だ。

 庫内のフレコンは、積み重ねずに1つづつパレット棚に置かれる。パレット棚は5024あり、移動は庫外にある「ラック倉庫操作盤」からの指示で、「スタッカークレーン」と「自動搬送台車(ロボトレイン)」が行うので、庫内に人が入る必要がない。そして、コンピューターによって、フレコンごとの品種・食味・等級が管理され、一元的に在庫管理を行っているので、効率的な作業が可能になっている。また、庫内は特殊セラミックス(活性化剤)を使い、温度・湿度なども自動管理され、高品質保持ができるようになっている。

◆生産者ごとに食味を検査して指導

 「元氣館」の利用者は、乾燥調整機を持っている大規模農家が主体で、そうした機器を持たない人はCEを利用している。
 ここには昭和20年代に建てられたものなど古い常温倉庫があったが、夏場の品質管理、倉庫従事者の高齢化などから統廃合が検討されていた。そして新しい倉庫をつくるなら「販売上も力になるものを」と考え「元氣館」の建設が決まったと、同JAの高橋善紀米穀流通課長。

 「きたかみ米」のブランド確立が「元氣館」の大きな役割になっているが、「生産者にはいいものを作ってもらい、消費地にいいものを出すのがJAの責任」だという考えから、食味計を導入して、生産者ごとに測定し、図1のような表とグラフにまとめて生産者に示している。出荷するコメについても、フレコンごとに食味データを添付して、出荷している。12年産米の結果はまだ分からないが、11年産米での食味の平均は82だったが、バラつきがあるので低い人を底上げするのが、これからの課題だと高橋課長。

高橋善紀氏

◆悩みは入出庫時の人の手配

 現在、JAには「元氣館」を入れて農業倉庫が19、CEが1、ライスセンター(RC)が2あり、収容力は83万4900袋/30キログラムだ。その内低温・準低温で全体の約57%の収容力があり、常温では25%、残りがCEとRCとなっている。常温倉庫については、さらに統廃合を進める計画がある。
 いま、倉庫として悩んでいるのは、自主流通米になって「JAが自前でやらなければいけなくなったので、入出庫の人の手配をどうするか」だという。基幹支店単位で担当者を配置しているが、出荷が重なったりした時のやりくりが大変だということだ。これは多くのJAでも共通した悩みだといえる。

 コメの販売・流通を取り巻く状況は厳しい。そうしたなかで、いつでも「出来秋の品質」で出荷できるように、事故なく保質を維持する農業倉庫の保管管理業務は、地道で目立たず、経営トップからも日常的には忘れられてしまうことも多いが、米穀事業にとってはきわめて重要な仕事だといえる。



農協・関連企業名鑑 社団法人農協協会 農業協同組合新聞 トップページにもどる

農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
webmaster@jacom.or.jp