農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 JAの現場から考えるJA独自のビジョンづくりに向けた戦略(2)

JAの生き残りをかけて −JA経済事業改革の現場から

新基軸を打ち出し地域のために生き残りかける
JAのビジョンづくり

現地レポート JA鈴鹿・JAふくおか八女

 本紙では夏の特集として「食と農を結ぶ活力あるJAづくりにために−JAの現場からJAのビジョンづくりに向けた課題を考える」を企画、7月から8月にかけて東北から九州まで全11JAを集中的に取材した(うち9JAのレポートJAみやぎ登米・JAそうま/JA嬬恋村・JAちば県北/JAにしうわ・JAおちいまばり/JAおおいがわJAやつしろJAなんすん)。
 9月8日に決定した第24回JA全国大会議案のテーマは「食と農を結ぶ活力あるJAづくり」である。この特集も大会議案のテーマをふまえたもので、とくに議案が掲げる「JAごとのビジョンづくり」について、現時点での実践状況や課題を探ることを主眼とした。
 すでに地域農業振興計画や事業計画などを策定しているJAも多いが、そのために、いずれのJAもまずは現状分析、実態把握に力を注いでいた。なかには生産部会など組合員組織も参加して分析するなど自らの姿に正確に目を向けようという努力もあった。そして、そのなかから今後のJAの役割、いわば「JAの存在意義」を改めて浮かび上がらせていく。こうした実践の背景には、前項の座談会でも強調されたように、農業、農村の現状に対するトップ層の危機感が職員、組合員へと波及していることがあるが、逆にそこからエネルギーを生み出していた。
 具体的な実践として感じられたのは、担い手育成への対応はもちろん課題だが、多様な生産者が支える産地をどう維持していくかだった。そのために新たな品目への転換、直売所や集出荷施設の整備、異業種との連携によるブランド化などがみられた。
 ファーマーズマーケットなど直売所の開設はどこでも盛んだが、高齢、兼業農家だけでなく新規就農者の掘り起こしの場や新たな組合員組織の活動拠点として、地域の消費者の支持を得ながら地域農業の維持、再生を図ろうという戦略が強く意識されていた。
 また、異業種との連携では、地元商工業者とのそれに取組む例が見られ、直売所以外でも多様な場で地産地消を実現していた。それは地域住民にも地域資源としての農業の存在を改めて認識させるものであり、農業者の「やりがい」を生み出す。こうした連携のなかでさらに注目されるのは、地域の異業種サイドから地域活性化のために農業とJAにその力の発揮を求めらているケースもあったことだ。地域を売り出そうとする際に、地域農業が改めて見直されてもいる。「JAの出番」は、まさに地域からも期待されているといえるだろう。

JA鈴鹿(三重県)

◆「鈴鹿茶」を売り出す

山木邦輔専務
山木邦輔専務

鈴鹿市、亀山市と四日市市の一部を区域とするJA鈴鹿では、温暖な気候条件のもと多彩な農産物が生産されているが、中心は米、茶、畜産だ。農産物販売額47億円のうち、この3つの分野がそれぞれ14〜15億円を占める。
 茶の生産量は三重県内でもっとも多い地域だが、これまでは「伊勢茶」ブランドとして他の産地の茶とともに販売されてきた。これに加えて昨年12月から、同JAはペットボトル入り飲料茶「鈴鹿茶」を売り出した。鈴鹿茶として初めてブランド化しようという試みだ。
 ブランド化の話は「鈴鹿市と鈴鹿サーキット」から持ちかけられた。鈴鹿といえばサーキット、というほどイメージが強く全国からモータースポーツファンが集まってくるが、実は地元では地域自体の知名度はそれほど浸透してはいないと思われていた。
 そこで近く「鈴鹿ナンバー」も認可されることから、サーキット関係者や市にはもっと鈴鹿を売り出そうという機運が出てきた。そのためにはサーキット内の販売品に鈴鹿ブランドがあれば、との発想からJAに地域特産物のブランド化の話が持ちかけられた。ここから生まれたのが「鈴鹿茶」である。飲料の製造はJA全農三重県本部が行い販売することになった。発売以来、サーキット内ほかJAの店舗などでも販売されている。今後はリーフ茶としての販売もめざす。
 この取組みは、地域農産物のブランド化ではあるが、地域自体のブランド化に地域資源である農産物を活用しようという側面も強い。そこに地域づくりの視点からもJAが積極的に事業化に関わったのである。同JAは最近、鈴鹿市商工会議所の会員にもなっている。山木邦輔代表理事専務は「商工業との連携からJA事業にとってのヒントも得られる」と強調する。

飲料茶「鈴鹿茶」
飲料茶「鈴鹿茶」

◆野菜を第4の地域農業の柱に

JA鈴鹿 地図

 畜産では肉用牛生産が盛んで、大規模な畜産団地、一本松団地では10年以上前から大手量販店との提携で「鈴鹿山麓和牛」として販売している。畜産物販売額15億円のうち、このブランド牛販売を含めて肉用牛が11億円を占めるという。
 コシヒカリの作付けが8割を超える米生産では、8月中に収穫が終わる地帯であることや名古屋など大消費地が近いこともあって、出来秋には商系集荷業者の参入も多い。JAでは、農家の作業効率向上も含めて、フレコン出荷と大口出荷を奨励するメリット措置を設けて集荷率向上に取り組んでいる。また、販売面では、直接販売の拡大による生産者手取りの増大をめざす。
 ただし、食管制度から食糧法に変わりさらに自由化が進んでいる今、「新しい法制度に即した組織として事業を展開しなければならない」と強調、JAの事業としてはコメ依存から「脱コメ」をめざすと話す。具体的には茶、畜産、米に次ぐ第4の柱を野菜の生産販売で確立することだという。

◆「果菜彩」を商標登録

果菜彩

 今後、育成していく野菜品目は現在検討中だが、JAでは流通の変化を見据えて戦略を練ることにしている。たとえば、地元の大規模量販店では地元野菜のコーナーを設置するなど、産地を消費者にアピールすることに力を入れている。公設市場も民営化されるなか、これまでの市場出荷の感覚では有利な販売につながるとは限らなくなる。
 そこでJAとして取り組んだのが直売の拠点となるファーマーズマーケット「果菜彩」の開設だ。昨年4月にJA本店敷地内にオープンした。店舗名は公募で選ばれたものだが、地元の地名にちなんだものだという。出荷登録している生産者は約250人。「鈴鹿茶」もここで販売している。
 JAではここを新鮮・安全・安心の拠点として位置づけ、初年度、9000万円の目標を立てたが、実績は目標を大きく上回る1億7000万円となった。2号店、3号店の開設も考えている。
 ただし、「果菜彩」はファーマーズマーケットの店名にとどめるつもりではない。「いずれは青果物を中心にJA鈴鹿の農産物全体のブランドが、“果菜彩”として認知されることをめざす」という。
 そのために商標登録も実現、一方、安全・安心な農産物づくりにも力を入れる。具体的には県のエコファーマー基準で栽培する生産者を増やすこと。今年は米の生産者の一部が取組み、果菜彩で販売する。
 ファーマーズマーケットの設置によって、消費者の顔が見える販売ができるようになったことと合わせ、安全・安心な農産物づくりで技術レベルを全体として向上させて生産振興をはかる。それがJA鈴鹿のブランド「果菜彩」となる、という戦略を描く。「生産者にも既存の市場がなくなっていく、という現実を知ってもらう必要がある」。
 そのためJAとして既存の生産者に栽培指導を強化するとともに、定年退職者などの就農希望者を対象にした「いきいき農業大学」などにも力を入れている。退職後は地域で農業を、という人たちなどに技術指導し、一定のレベルに達すれば「果菜彩」への出荷もできるようにする。これは販売の拠点づくりであると同時に、新たな地域農業の担い手を掘り起こす事業でもあるといえる。
 就農希望者も含め同JAでは組合員、地域住民との関係を重視する。JAまつりは年に2回開催。2日間で2万人が集まる。子ども向けのキャラクターショーは人気で毎年楽しみにしている子どもも多く、将来のJAのファンづくりにもなっている。今、若手職員でJAまつりプロジェクトを組み今後のあり方を検討しているが、組合員への謝恩と地域住民へのPRがキーワードだという。
 「自ら立ち上がるJA、地域から信頼されるJA」を山木専務は強調している。

JAの概況

◎正組合員数:1万2498人(1万2462戸)
◎准組合員数:7027人(7004戸)
◎貯金残高:2880億円
◎貸出金残高:367億円
◎長期共済保有高:8407億円
◎販売品販売高:47億円
◎購買品取扱高:53億円(18年3月末)

JAふくおか八女(福岡県)

◆合併時に東京事務所開設し積極的に直販に取組む

松延利博組合長
松延利博組合長

 JAふくおか八女は平成8年に、福岡県南部の八女市・筑後市・立花町・広川町・星野村・上陽町・矢部村・黒木町の8JAが合併し、今年で10年目を迎える。
 17年度のJAの販売事業高は272億9355億円。そのうち31.4%が、いちご(56億円)なす(12億円)などの野菜類、23%がぶどう(21億円)みかん(14億円)、なし(12億円)などの果樹類、そして施設菊(41億円)などの花き類が19.5%、日本一の生産量を誇る玉露などの荒茶(41億円)を含む特産品が15%となっており、米(11億円)など普通作は販売事業の8.7%となっている。
 JAでは合併した年の8年8月に東京事務所を開設し、専任職員を配置して生協などとの直販事業に積極的に取組み、毎年、いちご(12億円)などを中心に30億円前後の実績をあげてきている。
 そして、12年には生協などの個々のニーズに応えることと、「栽培技術はあるが詰める(包装)技術が追いつかない」とか「後継者がいない」高齢者の悩みを解決するためにパッケージセンター(PC)を開設した。

多様な農畜産物を産出
多様な農畜産物を産出

◆安全を保障する農業情報センターと環境センター

JAふくおか八女 地図

そして、「消費者に新鮮で安全な農畜産物を安定的に供給する」ために、生産者が記帳した履歴記帳表をOCRで読込み、栽培基準に合致しているかを自動的に判断する「農業情報センター」を構築。もし違反がある場合には生産部会を通じて出荷停止措置をとることにしている。これには、現在約1100名の生産者が登録している。
 さらに14年に開設された「環境センター」が無作為に農産物を採取し、残留農薬分析などを行い、申告データと分析データを比較し、もし違反がある場合には生産部会を通じて出荷停止措置をとることにしている。
 このような安全な農産物生産の取組みの結果、全農安心システム9品目、福岡県減農薬・減化学肥料栽培認証2品目、エコファーマー認証4品目などの認証を受けている。とくに、ナス(198名)、トマト(70名)、ナシ(136名)部会は全員がエコファーマーの認証を受けている。
 こうした取組みを消費者に理解をしてもらうために、「食と農の共生をはかる八女地域フォーラム」や消費者との交流会などを積極的に開催している。

◆担い手対策課を設置し組織化
  協議会でレベルアップも

 JAふくおか八女は、いままでみてきたような取組みから先進的なJAとして紹介されることが多いが、課題もあると松延利博組合長はいう。
 その第1は担い手対策だ。JAではすでに担い手対策課を設置して取り組んでいるが「一歩間違えば組織の崩壊になる」(松延組合長)恐れがあるからだ。現在、八女市・筑後市・立花町・広川町の4市町で組織化されているが、中山間地については麦・大豆がないのでこれからだという。中山間地では地区によっては2条コンバインを導入し機械利用組合による組織化をすすめている。
 組織されているところも、例えば八女市では、市で1組織だが、筑後市では既存の機械利用組合を再編し22組織あるが、うち3組織が法人化され、今年度中にさらに5組織を法人化する予定となっている。立花町は1組織、広川町は2組織となっている。
 北島良男担い手対策課長は、「地域によって差があるので、生産組織の協議会を設立し、リードしている地域の情報を取り入れて、全体のレベルをあげていこう」と考えている。

◆高齢化や品種切り替えによる品種特性への対応など課題も

パッケージセンターで包装されるいちご
パッケージセンターで包装されるいちご

 生産者の高齢化も大きな悩みのひとつだ。
 例えば、荒茶は、煎茶でも常に九州では一番高い価格がつけられているが、これは日本一の玉露があるためではないかという。しかし、その玉露も「手摘みなので非生産的であり、立地条件や生産者の年齢層からみて、この玉露をどう守っていくかが大きな問題」だと児玉末正常務はいう。
 茶は各市町村でも力を入れているので、農業振興策のなかで基幹作物として位置づけ取り組んでもらっているという。
 JAふくおか八女の代表的な農産物であるいちごについても課題はあるという。福岡県では県の特色をだそうと、従来の「とよのか」から「あまおう」に品種の切り替えを行った。
 JAでは「とよのか」については熱心に栽培技術の革新を行ったり、春先の気温が高くなったときの詰めにくさを解決するために、ほとんどの農家に予冷庫を導入するなど「“とよのか”時代にやれること、考えられることはだいたいやった」(松田和行園芸部長)という。その結果、県内最大の産地となり、首都圏でも高い評価をえた。
 しかし、品種が変わったために従来の栽培技術だけでは通用しない問題が「あまおう」ではでてきた。「とよのか」では全員が一定のレベルにあったが、いまは「品種特性に全員が追いついていない」ので、底辺を中以上に底上げするのが課題だという。底上げができれば販売高は4〜5億円は増えるという。
 もう一つは、原油価格の高騰で燃料費が高くなっていることだ。例えば、全農安心システム認証のハウスみかんでは、暖房用燃料費が高騰し、収益が落ちるのではないかといまから危惧されるなど、施設園芸への影響が心配だという。

◆安全は売るが、安心は買ってもらう

 そうした課題を解決しながら、「ふくおか八女の特色を活かした商品開発をし、自立できる営農販売」を実現したいと児玉常務は考えている。
 松延組合長は、販売面では、市場流通でも契約取引や相対取引をキチンとやっていくことが大切、そして量販店などのバイイングパワーによって、小売価格が先に決まってから市場価格が決まっているように見えるが、生産者の目線に立った販売ができないかと考えているという。
 また、消費者は「安全・安心というが、われわれは安全な農産物を売り、消費者には安心を買ってもらう。こちらは安心まで売る必要はないのでは」と考えている。そのためには、食料問題を含めて消費者教育が大事だとインタビューを結んだ。

JAの概況

◎正組合員数 1万2842人(1万461戸)
◎准組合員数 1万2926人(9287戸)
◎貯金残高 1945億円
◎貸出金残高 483億円
◎長期共済保有高 1兆1393億円
◎販売品販売高 273億円
◎購買品取扱高 198億円(18年3月末)

(2006.9.15)



社団法人 農協協会
 
〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町3-1-15 藤野ビル Tel. 03-3639-1121 Fax. 03-3639-1120 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。