◆新たな「3カ年計画」にむけて
経済の混乱は、JAグループ経済事業に、海外原料の高騰による生産コストの上昇と国産農畜産物の販売価格の低迷という深刻な問題を引き起こしている。
こうしたなかで、再生産可能な農業経営の実現に向けて、生産コスト低減対策、国産農畜産物の販売力強化、消費拡大に向けた広報対策などの取り組みを強化してきた。
今年は、JA全農にとって、19年度からの「3カ年計画」の最終年度であり、10月の第25回JA全国大会を経て、新たな「3カ年計画」を策定する重要な年だといえる。
そこで本紙では、「新たな協同の創造と生産者と消費者の懸け橋をめざして」をメインテーマに、JA全農がめざすもの、そして消費者がJA全農にもとめるものを特集した。
この特集では、まず生協のコープネット事業連合の赤松光理事長と成清一臣全農専務理事に「食と農の懸け橋をつくるために」をテーマに対談していただいた。その概要は次の通りだ。
◆コスト低減や用途別の品種開発などを話題に
コープネット事業連合の会員8生協(関東信越8都県)はエリア内のJA全農県本部と協同組合間提携を進め昨年末から広域の地産地消に取り組み、今年8月には「コープネットエリア8都県JA連絡会」が地産地消をテーマにシンポジウムを開き、その進展状況などを確認した。
一方、コープネット事業連合は食料自給率向上のためにと岩手県の生産者などと協同して飼料用米で育てた「お米そだちのみのりぶた」と名付けた産直豚肉の販売を今春から開始して好評だ。
また国産米の中から好きな銘柄と配達サイクルを選んで登録すれば1年間、お米が宅配される「登録米制度」の実施など食用米の消費拡大も積極的に進めている。
全農としても「生産者と消費者を安心で結ぶ懸け橋になる」ことを柱とした経営理念を掲げ「もっと近くに」を標語に生産者、消費者の身近な存在になることを目指して政策を展開している。
こうしたことを踏まえながらこの対談で、全農の成清一臣専務とコープネット事業連合の赤松光理事長に縦横に語ってもらった。
全農は平成22年度から新たな「中期3カ年計画」に取り組むが、成清専務は力点を置きたいことの1つに栽培技術の開発を挙げた。
個々の生産資材価格を下げることにとどまらず、もっと視野を広げて、総合的に作物別の生産コストを下げることを目指す。
飼料用米についてもいかに安く作るかを研究しており、現段階では例えば、モミの乾燥工程でもコスト低減ができる余地があるなどの課題が明らかになっているという。
単収1tの品種開発を目指すとか、水田1枚の区画を大規模にする生産体系が求められるなどといった課題も挙がった。
農産物は輸入ものだけでなく国産も加工向けが多くなっている。そうしたことから赤松理事長は需要の側を押さえることと、それに合った野菜や米を作ること、その点で栽培技術の開発が重要だと指摘した。
全農の営農・技術センターは漬け物用のナスを作っているが、ダイコンにしてもおろし用と漬け物用は違っていて当然とか、米の場合も用途別の品種を作っている産地がたくさんある--などの話題もにぎやかだった。
成清専務は「自分の都合で農産物を作るのではなく、何を作ったら売れるかを考える時代になっています」と指摘した。
赤松理事長は「みのりぶた」の今後について「(飼料用米生産支援の)補助金はいずれなくなる。その時に技術革新で生産性が上がっているかどうか。それが(持続的取り組みの)カギを握っている」とも語った。
◆日本農業の多様な担い手を支援するTACの活動
特集では、次に18年度から要領を制定してJA全農が組織をあげて取り組んでいる「担い手支援」に取り組んでいる「TAC(Team for Agricultural Coordination、農業コーディネーター)」の活動を取り上げた。現在、全国455JA約2000名のJAのTACと38県域266名の県域TACが積極的に生産者へ「出向き」生産現場の抱える課題を探ると同時に、JAや全農の各部門と連携した総合力を発揮してその課題を解決する提案を行い、着実に成果をあげてきている。
その中から今回は、全農京都府本部と全農兵庫県本部の本部長にTACに取り組み意味とこれからの方向について取材した。
(総合力を発揮し営農済事業を改革する仕組み)
◆自給率向上めざす飼料用米・米粉用米
昨年の世界的な食料危機を受け、各国で食料の増産と安定供給のニーズが高まってきた。自給率の低い日本ではそのためのひとつの方法が水田をフルに活用した生産だ。米粉や飼料用米といった米の新規需要を開拓し自給率向上を図るとともに、主食用米の計画生産を通じて水田農業の経営安定につなげようという取り組みでもある。
JA全農では、この水田フル活用対策としてどのような事業を展開しているのか。今回は、需要が拡大し注目されている「米粉原料用米」と「飼料用米」にスポット当てて紹介する。
(生産者とともに自給率向上をめざす JA全農の水田フル活用対策)
◆ミシシッピーから食卓まで 全農の畜産事業
食肉や牛乳・乳製品はタンパク質やカルシウムの供給源として食生活に欠かせない食品だ。ただ、その畜産物の安定生産と供給のためには、素畜の導入、飼料の供給にはじまり、保管・流通、さらには加工まで実に多様な機能が必要になる。
こうした多様な機能を総合的に備えているのがJA全農の畜産事業だ。
今回はミシシッピーから飼料原料が運ばれ、飼料となり、それを給餌された家畜が肉となり食卓に届くまでの畜産事業の全体像をふまえながら、21年度の全農畜産事業の重点項目を紹介する。
(生産者と消費者の安心を支えるJA全農の総合的な畜産事業)
◆全農グループの「総合販売」を展開する直販事業
「生産者と消費者の懸け橋機能」をもっとも端的に実現できるのは、安全で新鮮で美味しい国産農畜産物を、確実に生産者の手から食卓まで届けることだといえる。全農の事業でいえば販売ということになる。
とくに、生協や量販店あるいは直接消費者に販売する直販事業の役割は大きいといえる。そこで、総合的な直販事業をコーディネートする大消費地販売推進部と直販事業を具体的に展開している全農グループ会社のうち、畜産関係と園芸農産関係会社に取材し、事業内容と今後めざす方向を紹介する。
(直販事業 国産農畜産物のシェア確保と伸展のために)