同会長の山田正彦元農相は「政府としても党としても早期に結論を出すというかたちで(TPP議論が)動き始めた。本当に慎重にやらないと大変なことになる。農業だけの問題ではない。医療や医薬品、国民皆保険は本当に守られるのか、今日はしっかり議論をしたい」。
日本医師会の中川俊男副会長は「非常に危惧しているのは新自由主義的改革。市場原理を持ち込めばうまくいく、医療も例外ではないというもの。TPPは究極の規制改革だとわれわれは認識している」と危機感を表明。
TPPによって株式会社の医療参入など規制緩和が実施されるようなことになれば、「民間企業や投資家にとって魅力的な市場が開ける。そうなれば本当にお金がなければ医療が受けられない時代がやってくる」と強調、国民皆保険制度が崩壊しかねないことを訴えた。
日本歯科医師会の宮村一弘副会長は国民皆保険制度について「人と人との関わりのなかで作り上げてきたサービス。モノではないのでいったん壊れると元に戻るわけではない。国のあり方の問題であり、利益よりも価値として守るべきもの」などと強調した。そのほか日本薬剤師会の七海朗副会長らもTPP協定による医薬品の安全性や薬価制度の自由化などへの懸念を表明した。
◆国民への情報開示が不可欠
慎重に考える会の山田正彦会長はこれらの報告を受けて韓米FTAに盛り込まれた医療・医薬品分野の自由化について解説。国民皆保険制度のある韓国だが韓米FTAによって保険適用除外を認める規定が盛り込まれ、これに即して経済特区をつくり、通常の6〜7倍もの治療費で診療を受ける大型病院の建設が進められる見込みだという。
また、医薬品の認証制度も国から独立した機関が担う仕組みに変更され、米国との協議機関を設置、そこで認証が行われることになっているという。
そのうえで山田氏は「TPPでは韓米FTAよりも高いレベルの協定をつくると米国は言っている」と指摘、医療分野にも大きな影響があり得ることを強調した。
しかし、会合に出席した外務省の片上慶一経済外交担当大使は、TPP交渉の現状について医療が独立した交渉分野にはなっていないことや、混合診療や企業参入が議論になっているとは「承知していない」などと話した。
この報告に対し福島伸亨衆院議員は「現在のTPP交渉参加9カ国のうち、混合診療規制や株式会社規制のある参加国はあるのか?」と追及、そうしたルールがないから現在はその規制緩和が交渉事項にならないだけの話であって、日本が参加すれば交渉分野になり得ると強調し、TPP交渉で医療分野は対象になっていないとする外務省の報告は「ミスリードだ」と批判した。
そのほか片上大使が資料を提供せず口頭説明だけで済ませたことに批判が続出。「資料がない、情報がないでどうして交渉ができるのか」と追及の声が上がり、山田会長も資料の提供を強く求めた。
会合終了後、山田会長は「国民に情報を開示しないと判断できない。金融、保険、郵政、公共調達についても外務省の情報開示を求める」と話したほか、交渉には参加し国益に反するなら抜ければいいという意見があることに対して「外務省も言っているようにそれはありえない。とくに米国の議会承認を経てはじめて交渉に入れるわけだから、簡単に抜けられるわけがない」と話し、「情報が何もないなかで決めるのは本当にけしからんと思う。民主党だけですでに190人が慎重にやってもらわなくてはいけないという意見(署名)。がんばっていきたいと思っている」と述べ、今後も頻繁に会合を開く考えを示した。
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