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歴史の分水嶺にどう立ち向かうか?  今こそ、TPPの本質を見極める

 TPPについて本紙は昨年から「環太平洋連携協定」と表記してきた。メディアのなかには環太平洋"経済"連携協定と解説しているものもあるが、私たちは米国主導のこの協定交渉が、単に工業品や農産物の貿易問題にとどまるものではなく、農村地域はもちろん広く日本の社会や国民の暮らしに多大な影響を与えるものではないかと当初から懸念したからである。
 その懸念は隣国、韓国が合意した韓米FTA(自由貿易協定)の内容が明らかになるにつれてはっきりしてきた。TPP推進派の議論は韓国にFTAで先を越され、このままでは日本が貿易で不利になるというものだった。だが、詳細が明らかになるにつれ、「国民国家という枠組みが完全に消滅に向かっているとしかいえない内容」(酪農学園大学・柳京煕(ゆう きょんひ)准教授)との指摘も出るなど、韓国国民から大きな不安と反発が出ている。
 歴史の分水嶺に立つ今、私たちは何を見極めなければならないのか? ここではJA全中の国際農業・食料レターなどから韓米FTAの実態をまとめた。

韓米FTA、韓国「壊国」を懸念

 「毒素条項」で米国は何を狙う? 

◆医療・医薬品の徹底した規制緩和

 表は柳准教授の研究をもとにJA全中が作成したものである。
 韓国にも国民皆保険制度があるが、韓米FTAでは「経済特区」を指定し、営利病院の経営が認められた。
 営利病院では医療費を病院経営者が決めることが可能で、実際に健康保険指定医療費の67倍の支払い請求がなされているという。今後、かりに経済特区が撤廃されれば、保険診療と自由診療の混合診療が全面的に解禁されることになりかねない。
 日本医師会はTPP参加に反対する理由のひとつとして混合診療の全面解禁が求められる可能性があることを挙げている。懸念されるのは保険の効く医療は最低限の医療で、もっと高度な医療を受けたければ自由診療で、となることだ。そうなればお金のある人は十分な医療を受けられるが、お金がなければそれはできないという世界になり、医療に格差を生み出すことになる。


◆投資家が国を訴える!

 これが韓国で現実になりかねない理由として、柳准教授は韓米FTAに投資家と国家の間で紛争解決手続き(ISD)条項が合意されたことにある、と指摘する。
 この条項は、かりに韓国政府が国民健康保険制度を強化する対策を打ち出した場合、米国の民間保険会社が「医療保険市場を縮小させるもので民業圧迫だ」と主張して、韓国政府に損害賠償を請求できるものだ。
 しかも提訴先は世界銀行のもとに設置されている国際投資紛争センターである。韓国で裁判を行うことはないばかりか、この提訴は韓国だけに適用されるという。
 この条項が「毒素条項」といわれるもので現在、韓国で大問題になっている。
 考えてみれば分かるようにISDは何も医療分野で提訴が可能になるだけではない。米国の投資家が不利益を被ったと判断すれば広範な分野で提訴が起きる可能性もある。
 さらに毒素条項には「非違反申し立て」条項(Non-Violation Complaint)というものもある。これは韓米FTA発動後に米国企業が期待していた利益を得られなかった場合、韓国がFTA条約に違反していなくても、米国政府が米国企業に代わって韓国を提訴できるという条項である。そのほか、韓国政府が行う何らかの規制についてもその必要性が立証できなければ、さらに市場開放を要求することができるという条項もある。


◆食の安全性も標的に

 TPP参加判断をめぐる議論のなかで、食の安全性確保についても懸念が出てきた。米国は残留農薬規制の緩和や遺伝子組換え食品の表示撤廃などを求めており、外務省も懸念材料としてこれを認めた。韓米FTAでは、遺伝子操作食品の規制撤廃が盛り込まれている。米国は遺伝子組換え(GM)食品について、企業の書類審査のみで米食品医薬品局(FDA)の検査は行われていないが、この検査方式が輸入GM食品に導入されれば客観的な安全審査が確保されない可能性があると指摘されている。
 米国産牛肉の無条件輸入も韓国はこのFTAで認めた。具体的には国際基準に従って「30か月以下」に限って輸入が行われることになるが、追加的に月齢制限の撤廃を米国は要求することも指摘されている。
 さらに毒素条項には「ラチェット条項」というものもある。これは一度規制を緩和したら元には戻せない、という逆進防止の約束だ。つまり、米国でBSEが再び発生したとしても、輸入牛肉に改めてハードルを設けることができないどころか、輸入を中断することすらできないのだという。
 また、米国企業や米国人に対しては韓国の法律よりも韓米FTAを優先適用するという条項もある。これを牛肉にあてはめて考えると、韓国では食用にならない部位を米国では加工用肉として認めていることから、こうした部位の輸入もストップできなくなる、ということになるのだという。


◆まさに国のあり方を変える協定

 そのほか韓米FTAでは医薬品の価格を韓国政府が国民にために低価格で設定することに異議申し立てを米国が行うことができたり、価格決定のための協議機関を両国で設置して米国企業の意思反映が可能となるような仕組みづくりも盛り込まれているという。
 柳准教授は、韓米FTAについて「内政干渉ともいえる内容。国民国家という枠組みが完全に消滅に向かっているとしかいえない」と指摘している。さらにこうした内容について政府もマスコミも一切情報を提供せずに今日に至っており、韓米FTAは言論統制と世論操作で妥結された、と厳しく批判している。 最近になって韓国では韓米FTA阻止汎国民運動本部がこの深刻な問題を発信し国民的な反対運動を展開している。
 まさに「食と暮らし・いのちを守る」運動を強力に展開することが求められている。

韓米FTAの妥協内容

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