◆JAから町へ引き継ぎ
買物弱者への取り組みは近年各JAで目立ちはじめてきた。本紙では昨年10月、徳島県のJAかいふによる車の運転ができないなど移動に不便のある65歳以上の高齢者を対象にした商品配達と農産物の集出荷、安否確認の3点を兼ねた取り組みを取り上げた( "交通難民"農家の集荷を手助け 過疎地で継続できる農業を )。これは県からの委託事業として3月31日までの期間限定で試験的に行ってきた。半年間の実証実験ではあったものの、集出荷による売上げの効果が出ていることや利用者のからの継続の要望を受け、4月からは海陽町がエリアを広げてこの事業を引き続き実施することとなった。
この実験のために臨時で発足したJAかいふ「集落生活右上がり隊」で隊長を務めた片島康治さんによると、農作物の集出荷代行を始めたことでこれまで農地を人に貸していた人が野菜を作り始めるようになったり、自分の作った物が産直に出して残らず売れることが楽しいという人など、利用者の生きがいにつながったと話す。
実際に収益が出ることで生産意欲も高まり、1月までの集出荷による総売上は120万円を超えた。徳島県南部総合県民局は耕作放棄地解消の点でも同事業を注目している。そのため高齢者でもつくりやすい野菜や鳥獣害被害に強い作物の栽培指導も行っていきたいとして、今後はJAと連携した取り組みをしていきたいと県や町は考えている。
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JAかいふによる実証実験ではコミュニケーションの機会としても喜ばれた
◆異業種との連携も有用
一方、JAだけでなく、買物弱者を支援する取り組みは企業にも広がりつつある。3月29日に(社)日本食農連携機構と(財)流通経済研究所が都内で開いた「買物弱者対策セミナー」には流通関係者が多数参加した。両者は昨年7月に「買物支援プロジェクト」を立ち上げ、買物支援対策モデルを作成してきた。両者は農山漁村の買物支援は「継続できる取り組み」であることが重要だとして、その実現に向けて解決すべき課題に(1)利益を出す事業としての実施が難しいこと、(2)買物だけでは支援が不十分な可能性があることの2点を挙げている。
セミナーで講演した明治大学専門職大学院教授で同研究所理事長の上原征彦氏も買物弱者への対応は継続性が重要であるとして、利潤を得られるビジネスとしてとらえていく必要性を提起し、異業種との連携も期待できると紹介した。
JAでも企業と連携した取り組みが見られる。愛媛県のJAえひめ南は昨年10月、生活店舗だったJA喜佐方支所を山崎製パンのボランタリーチェーンである「ヤマザキYショップ」に改装した。地域に店舗が少ないことから車で大型店に行けない高齢者のニーズに合わせて品揃えを充実させるためだ。開店から半年、利用者は以前より増えたといい、コンビニの経営ノウハウを活かすことで近隣住民への買物支援と合わせてJAの事業貢献にもつながっている。
4月11日には宇和海第一支所に2店舗目の「Yショップ」が誕生する。同JA生活部は今後もYショップ化をすすめ、地域のニーズに応えられる店舗づくりをしていく考えだ。
また熊本県のJAあしきたは昨年7月、JAとして全国初となるコンビニと連携した移動販売車の運行をはじめた。双方が持つインフラやノウハウを共有することで、より地域住民のニーズに応えることをめざしてのことだ。
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JAあしきたがセブンイレブン・ジャパンと業務提携して始めた「JAセブンあんしんお届け便」
◆プラスアルファの支援を
買物だけでは支援が不十分だとする課題についてJC総研常務理事の松岡公明氏は、福祉とミックスさせた対応の必要性を講演の中で指摘した。国交省が08年に行った調査結果では、山間地域の生活で困っていることの1位は「近くに病院がないこと」、ついで「救急医療機関が遠いこと」であることから、買物以外に高齢者が困っていることとあわせた支援が求められるとした。
JAかいふが行ってきたような農産物の集出荷と合わせた商品配達など、他の事業を組み合わせた買物支援の事例はまだ少ない。営農、介護、金融など総合事業を行うJAだからこそプラスアルファの支援対応が期待できるのではないか。
本来、安心して暮らせる地域社会づくりをめざすべきJAが、合併や支店・出張所などの統廃合によって買物弱者を生み出す要因になってしまうという矛盾が起きている現状からも、地域住民のニーズに耳を傾けたJAならでは支援策が今後さらに求められることはまちがいない。
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3月29日に都内で開かれた「買物弱者対策セミナー」
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